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好奇心のもの  作者: リクルート
6/7

ミラとテリー

「テリー女史。どうしてここにいるの」

「さて、どうしてでしょうね」

 彼女はミラをからかうような口調でそう言った。

「まぁ、私のことはどうでもいいのよ。それよりも貴女のことよ」

「私?」

「そう。今回の事件は殺人未遂よ。いつものように好奇心だけで立ち入れる領域ではないの。つまり、おふざけでやっていいことではない。それは理解しているのかしら」

 今までのどこかふざけていたような雰囲気は全くせず、いたって真面目に彼女はそう告げる。ミラにとってこの事件を解決するのはおふざけのつもりはなかったが、まだどこかいつものように直感を使って、穏やかに平和に解決するつもりだった。つまり、彼女にとっては学校の怪談やお金を探すような気安さを持ってこの事件を解決しようとしていたのだ。

「それは、その。でも、今まではこの商店街で事件が起こったときは私が解決してたのに、ここで私が何もしないのは嫌なんだもん」

 ミラは幼い子が駄々をこねるようにして、その言葉を吐く。

 テリーはその言葉に、真摯さを感じた。彼女はふざけてこういうことをしていたわけではない。その思いは純粋で、テリーはミラを今まで以上にいい子だと認識を改めた。テリーがそう考えている間にもミラはずっとその思いを言葉にして、彼女にぶつけていた。しかし、テリーは大人だった。

「駄目よ。これは高校生がやることではないの。お宝探しとは全く違うの」


「良いじゃないですか。それにどう言ったってミラはやりますよ」


 その真面目な声を打ち破るようにして、ミラを擁護するような言葉が響いた。

 決して大声ではなかった。しかし、二人の耳に確実に届いたのだ。

 その声の主を見る。ミラはその声だけで誰かわかってはいた。

 テリーは彼女の様子を知っていたので、まさか家から出るとは思っていなかった。

「全く。ミラの家に行ったら誰もいなくて、まさかとは思ったけど、本当にここにいたとはね」

 学校での元気のなさはある程度回復しているようだった。顔色も戻っているようだった。

「マリア、ごめんね。でも、私は早く犯人を捕まえて、この町の人に安心してほしいと思ったし、何よりマリアが元気ないのってこの事件のせいだと思ったから」

「ミラ……。全く、もう。良いわ。私も協力する」

 マリアは今日、初めて笑顔を見せた。

「協力するも何もあなた達が出る幕ではないの。危険なのよ。わかってるのかしら」

 先ほどよりも少し怒気を孕ませた言葉に一瞬だけミラが怯む。しかし、それでも今日のマリアはいつもとは違った。

「良いですよ、別に許可なんかしなくても。私達が勝手にやるだけです。特に協力してほしいとかない言わないですから」

 マリアは言うだけ言って、ミラの方を向いた。

「でしょ、ミラ。勝手にやって勝手に解決する。いつもそうだったじゃない」

 ミラは頷くものの、彼女がここまで積極的だっただろうかと疑問を抱く。

「私だってね、許せないの。この町で誰かを殺すなんて。この町は平和だったのに、それを乱すやつがいるのが許せないのよ」

 彼女は恐怖を怒りに変えていた。

 これは彼女が家で決意したことである。それはミラみたいになりたいというものであった。誰の謎だって簡単に解いてしまう彼女のようになりたい。そして、この町を愛し、守る彼女のようになりたいと考えた。それは彼女に勇気を与えた。

――怖がってる場合じゃない。

 彼女が家を出たのはその直後である。それからミラを迎えに行こうとして、すでに家におらず、今に至るわけだ。

「はぁ、良いわ。あなた達に手伝ってもらおうかしら。言っても聞かないなら、手伝ってもらうわ」

 テリー女史は観念したように両手を肩の辺りまで上げ、やれやれといったポーズをとっている。

 かくして、ミラとマリアはこの事件に関わることになったのだ。


「まず一つ。あなた達に聞き込みはできないわ。ミラ、理由はわかるわね」

 ミラは頷いた。

 彼女は身をもって体験している。聞き込みなど高校生がやっても遊びとしか思われない。そんなことを続けてしまえば、警察に止められるのは明らかだ。

「つまり、情報は自分達の足で探せってことだよね」

「そうね。大半はそうなるでしょう。大半ではない部分は私から」

 そういうと、彼女はメモ帳を取り出して、警察に聞いた事件の詳細を二人に教えた。

 場所は華彩園商店街。昼間の人通りの多いところで刺され、今は病院で療養中。被害者は話せる状態ではない。凶器は刃渡りや傷の具合を見ると果物ナイフというのが妥当。指した場所は一箇所であるが、刺さりどころが悪く、被害者は危篤状態となる。警察の聞き込みによると当日現場付近には怪しいものはいなかった、ということである。

「え、それだけ?」

「そうよ。これだけ。私はいつもこれくらいで事件を解決しているのよ」

「すごい」

 ミラが素直に感心していた。しかし、マリアはそうではなかった。

「私達だって、これだけで犯人くらい見つけて見せます」

 マリアはミラがテリー女史に劣るようなことはないと考えていた。だからこそ、彼女が試すような言い方に対し、苛立ちを覚えていた。

「ミラ、事件解決しに行かないと」

 マリアはミラの腕を掴んで、テリー女史の下を離れた。

「ふふふ、あの子達の活躍が楽しみね」


「とは言ったものの、どこから探せば良いのかしら」

 歩き出したまではよかったが、全く検討がつかない。商店街で事件を起こしたのだから、まだ近くにいるのではないかと思ったものの、この町には電車の通る駅がある。ともすれば、もう違う町に言っている可能性もある。そうなるときっと彼女達には手に負えない状況になるだろう。

「とりあえず、住宅街の方に行こう」

 ミラがそう提案し、二人は住宅街に向かった。


 いつもは井戸端会議がいたるところで行われていると言っても過言ではないこの場所だが、そんな光景は一切見られなかった。公園にも子供はおらず、いつもの子供達の元気な声も聞こえないのは中々に寂しいものだった。

「住宅街の前まで来たけど、どうするの」

 そう、彼女達には聞き込みをすることができないのだ。そうなると、住宅街でできそうなことはなくなりそうである。

「やっぱり商店街の方に行くしかないのかな」

 商店街なら遠目からでも事件現場を見ることができ、もしかすればミラの直感を使うことのできるきっかけになるかもしれない。

「ちょっとこのまま、歩いてみようよ」

 ミラはそういうと、勝手に歩き出した。

 ミラは商店街だけでなく、もし犯人がこの町の中にいるのなら、この住宅街でも何か直感を働かせるきっかけを見つけることができるかもしれないと考えた。もちろん、ただの無駄足になる可能性も考えていたのだが、すでに彼女の直感が働いているのか、ミラはこの住宅街に行くべきだと考えていた。

 しばらく歩いていたのだが、何もなく、あるのは住宅だけである。すれ違う人も少なく、彼女達に心配そうな視線を向けている。

 結局この日、住宅街での収穫はなかった。それから一度商店街の方に戻ろうとした途中でテリー女史にあった。

「何かわかったのかしら」

 その結果をわかっているだろうに、なぜ聞くのか。二人はそう思った。

「まぁ、始めからうまくいくなんて、そんなことは極稀にしかないことだわ」

 そうだけど、今までと違って、すぐに決着のつく事件ではないことを改めて認識させられた二人だった。

「そうだ。二人に新たな情報よ」

 その言葉に二人は反応し、顔を上げた。

「この町にまだ犯人がいる可能性高いそうよ」

 どうしてそんなことがわかるのか、二人がそう問う目をしていたので、それを言う前にテリー女史がその疑問に答えた。

「被害者の血液が、住宅街の方に続いていたのよ。さすがに途中で途切れていたけれどね」

 彼女は小声でダミーの可能性もあるけどねと付け足した。しかし、それは彼女達の耳には届いていないようだった。

 住宅街にまだ犯人がいるのなら、誰も安心して暮らせない。

「明日にでも、捕まえてやる」

 ミラがそう意気込んでこの場所から解散した。


 翌日、学校だけは通常通りにあるため、まずは登校しなくてはいけない。

「おはよー」

「おはよう」

 校内はまるで事件はすでに終わったことかのように日常を作り出していた。みなが不安を消したいのだ。そのために無意識にいつもどおりに行動する。しかし、この中で二人だけはそうするわけには行かなかった。

「マリア、今日も放課後」

「わかってるわ。今日にでも解決しなきゃ」

 気合を入れた二人はとりあえず、授業をしっかり受けることにした。と言っても、ミラは途中から集中する方向が事件関係のことに向いていたのだが。


「放課後だが、今日も早く家に帰れよー」

 担任はそういうと教室を出て行った。

 彼が無責任ではないことは肝試しで知ったが、話す言葉は未だにいい加減に感じる。

「マリア、まずテリー女史のところに行こう。何か新しい情報があるかもしれない」


 商店街の事件現場近く。そこにテリー女史はいた。警察も近くにいるので話しかけていいのか、わからない。しかし、そんなことで悩む必要はなかった。彼女自身が二人の方に向かってきたのだ。

「こんにちは。今日も来たのね」

「私達が解決するんですから、当たり前です」

「そんなに突っかからないでほしいのだけれど。昨日、試すようなこと言ったのは悪かったわ」

「マリア。私は気にしてないから。もう良いよ。それでテリー女史。また事件の情報、教えてほしいんだけど」

「良いわ。と、言いたいところなのだけどあまりないのよね」

「何でも良いから教えてほしい」

「わかったわ。今回の犯人はまだこの町にいるわ。それも住宅街の方にね」

 これで犯人の居場所をつかめそうだ。二人はそう思った。そして、早足にその場を離れ、住宅街の方に向かおうとしたのをテリー女史が止めた。

「あなた達。犯人を犯人だとわかっても、捕まえてはいけないわ。犯人がわかったら私に言って。絶対よ」

 ミラはこの言葉を聴いていなかったが、マリアはしっかりとその言葉を聴いていた。そして、その意味もわかっていた。彼女は彼女達を守りながら、事件の解決を手伝わせている。というよりも、彼女達が彼女の足を引っ張っているのだ。これ以上足を引っ張らないためにも、ミラが犯人に突撃しないように制御しなくてはいけない。そう、マリアは心の中で思った。


 住宅街にて。しばらく歩いていると煙が上がっているのをミラが見つけた。この時間に何を燃やしているというのだろう。焼き芋を作るような季節ではないし、ましてこの住宅街で焚き火をしているとも思えない。他に火を使うもので思い当たることがないので、その場所に向かった。きっと理由はいくらでも出るだろうが、一番はミラが気になったから、と言った方が誰もがしっくり来るのではないだろうか。

 捜査中にも関わらず、ミラとマリアはその場所まで来ていた。煙の正体は七輪だった。事件が起きたというのに、狭い庭でのんきに七輪で魚を焼いている。それもこの時期は旬ではない秋刀魚(さんま)だ。

「おじさん、何やってるの」

 ミラが家の門の方から顔を出して、七輪をうちわで扇いでいる中年男性に話しかけた。

「魚を焼いているんだ。両親から秋刀魚が届いてね。旬じゃないのに何でこんなもの送ってくるんだろうね」

 そういいながらも、彼は嬉しそうに魚を焼いている。

「あの、でも、普通こんなに煙、出ますか」

「ああ、確かに少し多いかもね。燃やしてるのは木とか葉っぱだからね」

「木炭は買わないの?」

「いや、ほら。事件起きてるでしょ。大人気(おとなげ)ないがそれが怖くてね」

 彼は苦笑いしながら、そう言った。一応、わかる理由ではあるが、それなら今七輪で魚を焼かなくても良いのではないのだろうか。彼の表情からは両親が送ってくれた秋刀魚を早く食べたいというような様子ではあるのだが。

「それより、君達は見た感じ高校生に見えるけど、外に出ない方が良いんじゃないのかい」

「あー、あはは。まぁ、そうですけど、ちょっと用事があって仕方なかったんです。その帰り道に彼女が煙が気になったそうで、つい寄り道しちゃったんですよ」

 マリアは笑って誤魔化した。

「そうかい。じゃ、もう帰りなさい」

「そうですね。そうします。ほら、ミラ行くよ」

「気をつけて帰りなさい」

男性は優しく言って、彼女らを送り出した。


「今の人、怪しいね」

「やっぱりミラもそう思う?」

「こんな時間に七輪出して、わざわざ魚焼かなくてもいいと思う」

「でも、食べたかっただけかもしれないんだよ?」

「犯人候補」

「候補、ね」

 犯人候補というより、容疑者と言った方がそれっぽいと思うマリアだったが、候補と言う言い方はどこかミラっぽさがあって、そのためにつっこむのを止めたのだった。

 家に向かって住宅街を歩いていると、ミラがまたも何かに引き寄せられるように、ふらふらと帰り道から逸れていく。マリアもそれを追っていく。

「ミラ、どうしたの。何かあった」

「うん。犬の散歩してる人が」

 今彼女たちには外に出ている人がすべて怪しく見えていた。非常事態であるからこそ、いつもの景色が怪しいと感じているのだ。


「あの、すみません」

 今回はマリアがその人に話しかけた。相手の雰囲気がミラのような質問攻めにするような人を嫌っているようなものだったからだ。事件についての聞き込みはだと相手にばれてしまえば、そこで情報を引き出すことができなくなる。彼女はそれも気にしながら、会話をしなくてはいけないのだ。

「どうしました」

 犬を散歩している女性は、マリアが声をかけると彼女の方に顔を向けた。通常ならいい人そうな雰囲気で、押しに弱そうな人でもあった。

「ワンちゃんかわいいですね。触っても良いですか」

 マリアはまず、彼女が散歩していた犬を見て、それを話題に出した。この切り出しなら事件のことを調べているなんてわからないはずなのだ。

 女性はマリアの質問に一つ頷いた。女性の犬はマリアに撫でられて嬉しそうに尻尾を振っている。

「あなた達は学校帰りかしら」

 マリアは犬を撫でながら、その質問に「そうです」と答えた。

「ここら辺は今、物騒だから、早く家に帰った方が良いわ。私も親だから両親が心配する気持ちはわかるの」

「ええ、まあ。そうですね。でも、こんなときでも犬の散歩って欠かしちゃ駄目なものなんですか」

「あ、それは。その、この子がね、外に出たいって言うから。旦那は仕事に出ているし、私しかこの子の散歩ができなくてね。どうにもせがまれると断れないの」

 彼女は少し照れるようにそういった。

 マリアはこの人が犯人だとは思えなかった。しかし、今の状態が彼女の本性というわけでもない。事件が起きているというのに家の外に出ることができるのは、犯人が誰かを知っていたり、自分自身が犯人だったりする場合、もしくは、自分が殺されるとは思ってない場合だろう。しかし、多くの人は自分が殺されるとは思っていない場合が多いだろうが。

「それじゃ、私達は帰りますね」

 マリアたちは彼女との話を終えると、その場を去った。

「気をつけてね」

 女性は二人に対してそう言った。


「マリア、今の人、誰かを殺せそうな人じゃなかったよ」

「ええ、見た目はね。でも、あれが本性じゃないかもしれない」

 普段のマリアなら、きっとここまで疑うことはしなかっただろう。しかし、今は異常な事態になっているのだ。少しでも怪しい要素があると犯人ではないのかと疑ってしまう。さらに言えば、積極的に事件を解決しようとしているのだから、疑い深くなってしまうのは仕方のないことだろう。

「ええと、じゃあ、あの人も犯人候補になるの」

「まぁ、そうね。話した感じでは、犯人ではないとは思うのだけど」


「一度、テリー女史のところに戻りましょうか」

 マリアがそう提案して、二人は彼女の元へと戻ることにした。

「そういえば、テリー女史はもしかして、この事件の犯人、わかってるのかな。最初にこれだけの情報でも事件を解決したって言ってたし」

「それはない、と思うわ。事件は早く解決した方が言いに決まってるのに、犯人を野放しにするなんておかしいでしょう」

「んー、確かに。でも、目星くらいは付いてるんじゃないのかな」

「もしそうなら、私達にも教えてほしいわね」

 そう話している内に、商店街に着いた。テリー女史はまだ事件現場にいる。

 それの手前、商店街の路地裏に続く道の角に事件現場をじっと見ている男性がいた。その男性は服装こそ、深緑色のようなTシャツにデニムのパンツという一般的な格好と言っていいものだが、その行動は明らかに怪しいものだった。

 二人はこの場ではあえて、その人の話かけなかった。女子高生二人くらい成人男性ならどうにかできてしまうからだ。それならテリー女史に伝えた方がいいだろう。という判断だった。

「あら、二人とも。何かわかったかしら」

「それよりね、向こうの角のところに人がいて、ずっとこっち見てるんだよ」

「ええ、事件現場をずっと見ている風でした」

「ああ、それね。彼は犯人ではないわ。ただの野次馬よ」

 彼女はうんざりしたような態度だった。

「事件発生から毎日来てるわ。警察の方が彼を調べたけれど、特に証拠のようなものも出なかったそうよ。私も彼は犯人ではないと思うわ。だって、犯人だったら毎日来るわけないもの。それだけばれるリスクを背負って、この場所に来る意味がないもの。それに何か確かめたいことがあるなら、もっと近づくでしょう」

 確かに、彼のいる位置からだと、事件現場がどうなっているのかなんて、ほとんどわからないだろう。せめて、黄色と黒のロープがわかるくらいだろうか。

「それで何かわかったことはあるのかしら」

 テリー女史が気を取り直してと言った風に話題を変えた。

 それを聞かれた二人は先ほど合ったことを全て話した。


「その二人だと、犯人は男性の方ね」

「まぁ、そうなりますよね」

「いえ、消去法ではないわ。ちゃんとした理由があるのよ」

「どんな理由なの?」

 ミラはテリー女史を見つめて、そう問うた。

「いえ、まだそうと決まったわけではないから、話せないわ。あなた達はあなた達でしっかりと調べてほしいのよ。先入観なしでね。でも、他に怪しい人がいなかったなら、犯人は男性よ」

「そうですか。もう少し調べてみる、ミラ」

「んー、テリー女史の言った通り犯人はあの男性だと思う。でも、どうしてあの人なのかがまだわからない。わからないと調べようがない。マリア、なんか思いつかない?」

 ミラはすでに男性が犯人だと考えていた。彼女の直感がそれを告げているのだろう。

「何か思いつかないと聞かれても、何も。……あれ、でも、あの人の庭に木なんてあったようには思えないのだけれど」

 マリアが思い出したのはその庭の大きさである。そもそも木なんて植えられる場所がなかったのである。つまり、彼は嘘をついていたことになる。

「木とか葉っぱを七輪の中に入れたって言ってた。そして、庭には木がなかった。そして、その木がどこかから取ってきたものだとしたら、怖くて外に出られなかったという話と矛盾する」

 マリアはミラにそう言った。

「でも、近くにたまたま落ちてたやつかもしれないよ」

「火をつけてるのよ。たまたま落ちてた木や葉っぱだけでは明らかに足りないわ」

「じゃあ、やっぱり少なくとも外に出てたってこと?」

「いいえ。燃やしたものがそもそも木ではない、ということね。つまり、ナイフに付いた血をふき取ったものを燃やしていたのかもしれない。もしかしたら、果物ナイフみたいな凶器というだけで、燃やしてしまえばなくなる凶器かもしれない」

「え、もし燃やしてなくなるやつだったら」

「そうね。もう凶器は見つけられない。でも、刺さりどころが悪かったとはいえ、そのナイフは危篤状態にするのよ。燃やしてなくなる凶器でそこまで強いものは私は聞いたことがないわ」

「確かに。でも、私達が知らないだけかも知れない」

「そうね。でも、一般の人がそんな強力なものを持てるかしら」

「持てない、よね。そんな特殊なものは普通の人は買えないはず」

「つまり、彼の身の回りのどこかに凶器はまだあるはずよ」

 そこで会話は一段落し、二人ともため息を零した。自分達で推理することで二人とも熱くなっていた。しかし、二人は気づいていないが、テリー女史はこの二人の推理が穴だらけであることを理解していた。しかし、彼女らの推理と彼女の推理を比べると、二人の推理は的外れというわけでもなかったので、推理の穴を指摘することはなかった。

「二人とも、ここから先は本当に危ないから、ここまでにしなさい」

 テリーは二人にそういった。なぜなら、ここから犯人の凶器を探さなくてはいけない。それは犯人の近くにあるだろう。それを犯人に指摘したときに相手が、反撃してこないわけがないのだ。もし近くにそのナイフがあったとしたら、彼女達が指されてしまうかもしれない。それは探偵という仕事があるからではなく、大人として、彼女達を守らなくてはいけないからだ。

「ここまで来て、私達だけどこか行けって言うの」

「そうです。あと少しじゃないですか」

「そうよ。だからこそ、なのよ。追い詰められた犯人が何をするか、わからない。あなた達が傷つくかもしれないの。私はそうなる前に止めなくちゃいけない。ここまできたら、あなた達は足手まといにしかならないの」

 言い方こそきつかったが、マリアは彼女が本当に自分達を心配しているということが理解できた。しかし、それを理解できても、ここで置いてかれるというのはどうしても納得はできなかった。そして、それは隣にいるミラも同じだった。

「でも、犯人を捕まえるまであと少しなんでしょ。私達も一緒に行くから、絶対」

「テリーさん。貴女が私達を心配してくれていることは理解していますが、それでもここまでやってきて、ここでさよならは納得できないです」

 テリーは少しだけ考えて、答えを出した。

「わかったわ。でも、絶対に私の言うことは聞いて。ここからは本当に危ないわ」

 二人はその真面目な顔をした彼女の言葉に深く頷いた。


「私は探偵だから、家宅捜索なんて真似はできないわ。警察じゃないからね」

 ミラがじゃあ、と言ったところでテリーが続けた。

「勝手に家に入れないというのなら、その家に住む人に入れてもらえばいいのよ」

 そして、テリーは二人に作戦を伝えた。


 そして、男性の家の前に来た。彼を訪ねてから、時間が経っているので、すでに家の庭に彼の姿はなかった。

「さて、ここからが本番。しっかり作戦通りやってね」

 二人はその言葉に頷いた。


 男性の家のインターホンを押し、少しすると、そこから声が聞こえてきた。

「はーい」

「先ほど娘二人がこちらの家にお邪魔していたようで。どうも迷惑をおかけしました」

「いえいえ。せっかくここまで来られたのですから、お茶でも飲んでいかれてはどうですか」

「あら、お邪魔してもいいのかしら」

「ええ、今ドアを開けますので、待っててください」

 そういうと、インターホンからぷつっと音がした。

「こうもうまくいくと、怪しくなってくるわね。二人とも、何かおかしなことがあるかもしれないから、警戒しなさいね」

 二人はまた、声を出さずに頷いた。

 そんな会話をしているうちに玄関が開いて、男性が出てきた。先ほど、庭で秋刀魚を七輪で焼いていた男性だ。

「あ、さっきの二人も一緒でしたか」

「あの、もし迷惑なら……」

「ああ、いえ。家には僕以外誰もいないので、構いませんよ」

 男性は笑顔で三人を家に招きいれた。

 男性が最後に入って、ドアの鍵を閉めた。

「最近は物騒ですからね。鍵は閉めておきますよ」

 わざわざそんなことを彼は言う。その行動がさらに怪しげに映った。

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