図書館の怪談とミラの試練
図書館を探索してわかったことは、いくつかあった。それはまず、本の種類が本当に豊富だということ。その分、一ジャンルの本の冊数は少なかった。
図書館の置くには事務スペースがあるのだが、そこに行くまでの扉は開いていなかったということ。それ以外のことも今、役に立つような情報はなかった。
そして、三人が情報を交換しようと話しあっているときだった。
グゴォォォォォ
という、まるで怪物の鳴き声かのような音が部屋に響いた。三人は固まった。
ミラまでもが驚いた様子で声が出ないようだった。ミラがそんな状態なら残りの二人の様子は語るまでもないだろう。
「今の、何」
ミラが好奇心でこの台詞を言わなかったのはこれが初めてだろう。彼女の顔には焦ったような、不安なような表情が張り付いていた。残りの二人の表情は怖いと書かれている。
「ミラ、帰ろう? ここ、本当にまずいよ」
「そ、そうだ。帰ろう」
グゴォォォォォオ
三人が話しているうちに、再び怪物の鳴き声が聞こえた。しかし、ミラだけは今の音に首をかしげた。
「ミラ、ね、帰ろうよ」
マリアはもう、どうすればミラが付いてきてくれるかということしか考えてなかった。しかし、そのミラは何か考えているようだった。
「ねぇ、今の音。どっかで聞いたことない?」
「怪物の声なんて聞き覚えないわよ」
「いやいや、怪物じゃないよ。もちろん透明人間もいない」
ミラはふふふ、と笑った。
「全部解決かな。たぶん」
「全部解決って、怪物のことも?」
「だから、怪物じゃないって。そもそも、どこから聞こえているかわかるでしょ」
ミラは本棚を指してそういった。しかし、マリアはミラが何を言っているのか理解できていなかった。担任も不思議そうな顔をして、二人の話を聞いている。
「まず怪物の方を解決しないと、透明人間も解決しないね。というか、怪物の方を解決しないとマリアが話、聞いてくれそうにないし」
「わかってるなら早く説明してちょうだい」
「まぁ、焦らなくてもいいじゃん」
ミラはわかっているから良いものの、怖いものの原因がわかっていないマリアにはその説明が早くほしいというのは当たり前だろう。
「じゃ、まず怪物の鳴き声から」
怪物の鳴き声、どこかで聞いたことのある音であるとミラは言った。そう、それは風の音だ。しかし、窓が開いているわけでもないのに、風の音がここまで響くかということなのだが。
「答えはここだよ」
ミラは先ほどと同じ本棚を指した。
「本棚がどうしたの」
「本棚って言うか、その後ろ」
ミラが本棚をずらそうとするが、全く歯が立たなかったのでそれを見かねた、担任が本棚をずらした。するとそこには換気口があった。
「なるほど。本棚が邪魔して、音が出るようになってたんだ」
マリアは怖いものが怖くないとわかると、とたんに推理を始めた。
「それで、その風が、本をめくっていたというわけね」
「何で全部言っちゃうの。私が言いたかったのに」
ミラはふてくされたように頬を膨らませた。
「何はともあれ、原因はわかってよかったな。ほら、帰るぞ」
「待って待って。何でこんなところに換気口があるの」
「確かに。そもそも本棚の後ろじゃ、換気できないわね」
女子二人はその場から動かず、頭を動かしているようだった。
「それはな、あまり言いたくないんだが」
担任がそういって、苦笑いしながらこういった。
「俺がサボったんだよ」
それから彼は図書館から出て行こうとする。ミラはその腕を引っ張って、どういうことかと問う。マリアはそれを引きとめようともしない。理由はただ一つ。彼が二人を、ミラを学校から出すための嘘だということに気がついていたからだ。
学校の玄関まで来て、靴を履き替えているとき、担任が唐突にあ、と声を出した。
「すまん、二人ともケイタイ図書館に忘れてきたみたいだ。ちょっと待っててくれな。車で送るから」
二人は頷いて、外靴に履き替えた。
しばらく待つと、担任が戻ってきた。そして、彼女らの予想とは全く違ったことを言った。
「お前ら、どこにいたんだ。探し回ったぞ」
「え、先生、何言ってるんですか。さっきまで一緒にいましたよね」
「そうだよ。それでケイタイはあったの?」
「は、ケイタイ? あったも何も、もともと落としたり、なくしたりしてないぞ」
担任と二人の言っていることが食い違う。それぞれが戸惑って、状況が混乱する。
「どういうことだ?」
「まさか、先生じゃなかったんですか? 先ほどまで一緒にいた人は」
「俺は音楽室でお前らがトイレ行くって言うから待ってても戻ってこないから探してたら、お前達が先に帰ろうとしたんだろ」
「いやいや、音楽室なんて行ってませんよ。放送室と図書館だけですって」
「記憶喪失?」
女子二人と担任の記憶があまりに違いすぎた。それはなぜなのか。三人がおかしくなったのはどこからなのか。三人はそれぞれが離れた状況まで戻った。つまり、波川たちを玄関まで送り届けるところだ。そのときに大きく担任とは離れてしまった。
「お前達と別れた場所でお前達は待ってたんだ。佐藤が大人しく待っているから、珍しいなと思ってはいたけど、それ以外は変なところなんてなかったし」
「いえ、先生。私達はその場で待ってませんでしたよ。ミラが先に行っちゃったから、それを追いかけたんです」
「つまり、そこからおかしいわけだ。というか、俺達はそれぞれに似た知らないやつと行動してたわけか」
「「え」」
マリアの顔が青ざめていく。ミラでさえもその顔は白くなっているように見える。
二人の顔が青ざめた理由は一つ。校舎の中からきた担任の後ろに、彼女ら三人と同じ姿をした人型の何かがこちらに手を振っていたからだ。頭の回転がいいミラとマリアはすぐにそれがオカルトだと理解した。してしまった。そして、だめだとわかっていても、視線がそれの足元に向かっていく。そして、視線が下がっていくと共に、色が透けていくように見える。それはまるで幽霊だ。
それをわかってしまったために、体が震えているのがわかった。
「せ、先生。帰り、ましょう」
ミラは声も出さずに、ゆっくりとまるで初めてその動作をするかのように不器用に振り返って、玄関から出て行く。
「どうした、お前ら。まぁ、帰るか」
こうして、三人は無事に学校から出ることができた。もし、十二時を超えていたら何かあったのだろうか。なかったとしたら、彼ら幽霊は何をしたかったのか。ミラはこのことをさすがに調べるわけにはいかないと考え、マリアもそれに賛成した。つまり、最後の幽霊だけはミラでも調べたくなかったのだ。彼らが何者なのかはいまだわからない。
翌日、ホームルームが始まる前の朝。
「昨日はごめんね。先に帰っちゃって」
波川と安部がミラとマリアに謝っていた。
「いや、先に帰ってもらってよかったと思うよ。本当に」
マリアが返事したのだが、その顔色が少しだけ悪いように見える。
「どうかしたの?」
「いやいや、とにかく怪談なんてなかったんだよ。全部ちゃんと説明がつくようなことだったんだ」
ミラは早口で捲くし立てて、次の話題に移ろうとした。そんなところでタイミングよく教室のドアが開き、担任が入ってきた。
彼はミラ、マリアと目が会うと、苦笑いを返した。
「おらー、席に座れよー。ホームルーム始めるぞ」
昨日はあんなことがあったが、それとは関係なく、日常の生活は続いていく。きっと三人は昨日の出来事を忘れることはないだろうが、それでも彼女達の生活は続いていく。
ホームルームが終わり、今日も授業が始まる。
そんな普通の授業を受けて、放課後。彼女達は商店街に来ていた。二人ともすでに昨日のことは気にしていないか、一時的に忘れているか。そんなところだろう。
「今日はたい焼き食べたい」
「そうね。私も食べたいわ」
そういうことで、彼女達はたい焼きを売っている店に行くことにした。
「たい焼き二つください!」
ミラが元気よく、店番の人に注文すると、その人も笑顔で答えて、たい焼きを包み、差し出した。ミラはお礼を言いながら、二人分のお金を払って、それを受け取った。
商店街には休憩スペースとして、ベンチが道の端に設置されているので、そのベンチに座って、彼女達は買ったものを食べることにした。
「ミラ、お金渡すね」
「良いよ、別に。そんなに高くなかったし」
「そう? じゃ、お言葉に甘えちゃおうかしら」
「それが良いよ。ほら、たい焼き」
「ありがと、ミラ」
仲睦まじくたい焼きを食べ、商店街を眺める。人通りは多く、夕方に近いこの時間だからか夕食の材料を買出しに来たであろう主婦がよく目に付く。他には小、中学生がこのあたりで遊んでいるようだ。商店街には八百屋や魚屋、肉屋に総菜屋のおっちゃんの声が響いている。それ以外にも色々な声が交じり合って活気付いている。
「相変わらず賑やかね。ここは」
そんな光景を眺めている間、いつの間にか隣に仮面をつけた女性が立っていた。何故か、マリアの隣が空いているというのにわざわざミラの座るベンチの肘掛けの向こう側に立っていた。
「テリー女史」
「そうよ、テリー女史よ。前にも会ったわよね」
「うん。違和感ってものが少しだけわかった気がするよ」
「そう見たいね。でも、貴女の能力を最大限に発揮するなら、それぐらいじゃまだまだね」
テリー女史は言葉こそ冷たく感じるが、仮面の奥では笑っていることが、その言葉から伝わってきた。
「マリア」
テリー女史は唐突に彼女の名前を呼んだ。しかし、マリアは彼女に名前を教えてはいなかったが、マリアはきっとこの人ならそんなことは関係なんだろうなと考え、返事をした。
「貴女も推理するのよね」
「ええ、まぁ。ミラの直感を頼ってはいますが」
「そうね。じゃあ、貴女はミラのような直感を身に着けてみると良いわね。あなたも何か違和感を感じたらそれについて考えてみると良いかもしれないわ」
「そう、ですか」
マリアはミラと二人で謎を解決するのがいくら文句を言っても楽しいことであった。それを別々に謎を解けるようにするのは、彼女にとって面白くもなんともないことだった。彼女一人で謎が解けても、ミラが一緒ではなかったら、面白くないのだ。
「それじゃあね。私は仕事があるから」
そういうと、テリー女史は商店街の学校側ではない方に歩いていった。
「マリア、私ね、一人で謎を解いても駄目な気がするんだ。マリアが一緒にいて、二人で解くのが面白いと思うんだよ」
「え」
マリアは、ミラが一人でも謎を解けるようになりたいのではないかと思っていただけにその言葉には驚いた。
「最後にさ、テリー女史はマリアにも一人で解けるようにってアドバイスしてたみたいだけど。そのときに私一人で謎を解決するって考えたら、あんまり面白くなかったんだ。それは多分、二人でやってた楽しさっていうのが無かったからで」
マリアはミラが自分と同じように考えていたことにも驚いた。彼女は少しだけ、間を置いて、返事を返す。
「そうね。私も一人じゃつまんないなって思ってたの。やっぱり私達は二人で謎を解いてこそだと思うわね」
「そうだよね。でも、やっぱり私はこの直感の正体を知りたいから、違和感を考えることだけは辞めないつもり。それにたとえ、それがわかってもマリアと二人で謎を解くのは変わらないよね!」
「そうよ。それなら私もミラの直感のようなものを理解するようにしましょう」
二人は食べかけのたい焼きのことも気にせずにハイテンションで、話を続けた。
その後、冷静になったときには、すでにたい焼きは冷たくなっていたことは言うまでも無いことかもしれない。
翌日、学校のホームルーム前。
「そういえばさ、最近変な噂聞くんだけど」
「あんた、ほんと噂好きね」
あの夜の学校に入ってからというもの、ミラとマリアの周りには波川と安部が一緒にいることが多くなった。あの一件は案外、彼女達との縁を結んだのかもしれない。
「それで、噂って何?」
ミラが興奮して、その話に食いつく。彼女の好奇心がそうさせるのだろう。
「それがね、商店街で変な人が出たんだって。それも昨日の夜に」
「でも、夜はお店開いてないでしょ。居酒屋ぐらいかしら」
「いやいや、そんな時間じゃなくて。もっと夜。真夜中らしいんだ」
「もっと夜ってあんた......」
阿部は波川の言葉に呆れ顔をしていた。
「それで真夜中がどうしたのさ」
ミラだけはもう噂話の先が気になるらしい。
「それがね、黒いコートを着て、マスクに黒い帽子をかぶってたんだって。そして、手には何か光るものを持ってたらしいよ。目撃した人は全員、全員って言っても片手で数えるくらいの人数だけど、それがナイフなんじゃないかって言ってたんだって」
「なんだ。そんなのあれじゃん。あんまり怖くないし、興味も無いよ」
ミラが噂話の全貌を知ると、先ほどまでの熱がどこかに行った様だった。もともと、オカルト的な話を解決するのが好きな彼女はただの怪しい人には興味がないのである。
「でも、そんなのが商店街をうろついてたら怖いわね。夕方とかには出てこないみたいだけど」
「いやいや。鈴木さん、まだわかんないよ。もしかしたら、昼にも出るかも」
「あんま物騒なこと言うな。ほんとになったらどうすんだ」
阿部はいつも突っ込むことを忘れなかった。
「それは良いけど、二人は今日は放課後予定ある?」
突っ込みが終わった安部が二人に問う。
「何々、どっか行くの」
「そうだよ。今日は麻の家でお好み焼きを食べるのだ」
「家のホットプレートかなんかでやるの? 私達が参加しても大丈夫なのかしら」
「ふっふっふ。鈴木さん、何を隠そう麻の家はお好み焼き屋さんなんだよ!」
「へぇー! 私、行きたい! マリアも来るでしょ」
「まぁ、そうね。ミラが行くなら行くわ」
「じゃあ、放課後に一緒に行こう」
安部がそういったところで、担任が入ってきたので四人とも自分の席に着いた。
ミラと波川が待ちに待った放課後。騒がしくしているのは二名ほどであるが、マリアもまた、内心では楽しみにしていた。
「よし、じゃ、行こうか」
安部を先頭にして、四人は学校から商店街にある安部のお好み焼き屋まで歩いた。
彼女のお店(正確には彼女の両親が経営している店だが)は商店街のちょうど真ん中ほどにあった。いつも見ているはずなのに、そこがクラスメイトの店だということは知らないものである。
「ただいまー」
安部はまだ開店してない店の戸を横に引き、店の中に入る。
「おお、お帰り。準備はできてるぞー」
彼女の父親と思われる人がアルミ製のボウルをいくつかカウンターに置いた。その中にはお好み焼きの材料が入っていた。
「じゃ、適当に座ってて」
「わかった!」
波川は彼女に返事を返して、カウンター近くの四人座れる四角いテーブルのある場所に陣取った。彼女は奥につめて座り、まだ立っていたミラとマリアを手で呼ぶ。二人は波川と反対の席に座って、波川と対面するのがミラ、その隣にマリアという順番で座った。
「お待たせー」
そうこうしている間に、安部が店の奥から出てきた。先ほどの制服とは違って、私服にエプロンをつけている。
「よし、じゃ、やるか」
「麻のお好み焼きはおいしいんだよねー!」
ミラとマリアは自分でお好み焼きを作ったことは無かったので、目の前に材料を全て出されて、それが目の前で料理され、お好み焼きができていく様は二人にとって、面白いものだった。
しばらく安部の動きを見ながら、お好み焼きが焼かれているのを見ているうちに、出来上がった。
「よし、良いよ。食べても」
「良いってさ、二人とも!」
「私達が先に食べてもいいの?」
ミラがそういうと、マリアのお腹が鳴った。
「ほら、鈴木さんもお腹減ってるんでしょ」
「マリア、先に食べて良いって」
「え、ええ。そうね。なんか、ね。恥ずかしいわ」
マリアは頬を赤く染めながらも、空腹には勝てなかったらしく、切り分けられたお好み焼きを一切れ口の中に入れた。
「お、おいしい」
「私も食べるー!」
マリアが口に入れたのを確認して、次はミラが一切れ口の中に入れた。
「おおー、おいしい!」
二人は一口目が食べ終わると二口目に手を出し、そのふた切れ目も口の中に入れる。
「ほら、依も食べな。このままだと無くなっちゃうよ」
「わかってるよ。私もいただきまーす!」
「どう? 前と変わんない?」
「なんか、おいしくなってる感じはするよ。前もおいしかったけどね」
「今回はちょっと歯ごたえ出すために、豚肉にちょっと工夫してもらったんだ。私は学校にいたから、自分ではできなかったし」
「そっか。うん、おいしいよ!」
「それはよかった」
阿部は満足そうに笑った。
お好み焼きを食べ終えて、三人とも満足そうな顔をして休憩していた。熱いお茶を飲みながら、世間話をしている。そんなゆったりとした時間の流れの中で、突然店の外から悲鳴が聞こえた。この商店街では子供の大声ぐらいなら、いくらでも聞こえてくるだろうが、大人の悲鳴なんて聞こえてくるはずもない。その聞こえないはずの声が聞こえてきたということは異常なものであることが、この店にいた人、いや、商店街のみながわかったことだろう。
「何、今の」
ミラの声が静かになっていた店に響いた。
「ミラ、今は大人しくしてて。気になるかもしれないけど」
「わかってるよ。私だって今が異常だってことはわかってる」
珍しくミラは聞き分けのいいことを言っていた。
「お前ら、少し待ってろ。俺が見てくるから」
安部の父親がそういって、店の外に様子を見に行った。
しばらく待つと、サイレンの音が聞こえてきた。そして、店のドアがガラガラと開いた。入ってきたのは、さっき出て行った安部の父親だった。
「ちょっとまずいことになったかもしれない。あまり言いたくねぇが、どうせどこかで聞くだろうし、言っちまうか」
彼は顔に汗を流して、けれど熱くて流れた汗とは思えない。外は汗をかくほど暑くないし、それに彼の顔は白くなっている。
「聞きたくないやつは、店の奥に行け。外であったことを話すぞ」
彼は声を絞り出すのもやっとと言ったような声でそういった。
「誰も動かねぇなら、言っちまうぞ」
彼は心の準備をしているのか、呼吸を落ち着けるような動作を取った。
「この商店街で殺人が起きた。今、警察が来ている」
その言葉は聴いていた人にとって現実味のないものだった。誰もが何を言われたのかわかっていない顔をしていた。その中で一番早く声を出したのは以外にもマリアだった。
「どういうことですか。殺人って、人が殺されたってことですか」
彼女は怯えた声でそういった。そうなるのも無理はない。ミラは不思議なことを見つけてはマリアを巻き込んでいたが、殺人のような殺伐としたものはなかったのだ。それに近くで殺人を犯した人がいるという状況で怖がらない方がおかしい。
「そうだ。だから、今日は俺がお前達を家まで届ける。もちろん、車でな」
彼は真剣な顔を少し和らげて、笑顔を作っていた。
安部の父親に送られて、全員が家に帰った。ミラもマリアも両親に心配されていたが、安部の父親に送られたことを知って、安心していた。しかし、マリア自身の恐怖心はまだあり、外に出ることが少しだけ怖くなっていた。一方で、ミラは異常事態ということをわかっていても、好奇心が目覚めていた。お店にいるときに自制できたのは、もしかすると事態をしっかりと把握していなかったからかもしれない。しかし、少し時間を置いて、状況を思い出してしまった彼女はどんな真相なのか気になってしまった。明日から調査してみよう。そう考えて、彼女は何とか睡眠をとることができたのだった。
「マリア、どうしたの。大丈夫?」
登校中、マリアの顔色が悪いことに気がついたミラは心配そうに彼女を見ていた。声をかけたのはこれが初めてだったが、マリアと会ったその瞬間から、彼女の顔色が悪いことには気がついていた。しかし、気を遣って大人しくしていた方が彼女の顔色をさらに悪くすると思った彼女はとりあえず、いつもと同じように行動することにした。しかし、しばらく騒ぎながら様子を見ていても、顔色がよくなることはなく、さすがに我慢ならなくなったために聞いたのだった。
「うん。大丈夫よ」
あまり大丈夫ではない様子で彼女は答えた。ミラも彼女が大丈夫ではないことに気がついてはいるのだが、何をすれば治るのかわからなかった。お得意の直感も全く役に立たなかった。使いたいときに使えないなんて、と思いながら、ミラはマリアを心配していた。
学校に着くと、早速担任が昨日あったことを話した。詳しく話すわけにはいかず、事件が起きたとだけ話す。それから学校が終わった後は、すばやく必ず集団で帰るようにと指示もされた。
「ミラ、寄り道駄目だって。今日は早く帰りましょ」
「うん。そうだね」
マリアの元気のない言葉を聴いて、ミラも元気がなくなってきたような気がした。
「さ、帰りましょ」
マリアは午前中と比べると元気ができていているようだった。しかし、ミラはどこか彼女が辛そうな感じがしていた。今日の授業中にずっと考えていた結果、きっと殺人事件が怖いのではないかという結論に至った。つまり、犯人を捕まえることができれば治るはずなのだ。ミラはそう考えていた。
マリアと共に一度家に帰った後、ミラは私服に着替えて、商店街に向かった。とりあえず、事件現場に向かって少しでも証拠が見つかればいいなと考えていたからだ。
商店街に着くと、店のシャッターを下ろしている場所が多く、開いているのはせいぜい、肉屋、八百屋、魚屋くらいのものだろう。それに店先に商品を並べて売るような店しかやっていなくて、商店街に来ている人数も少なくなっている気がする。
「まずは現場だ」
彼女は事件が起こった場所を教えてもらってはいなかったが、商店街についた時点でその場所は簡単にわかった。なぜなら、立ち入り禁止のテープが張ってあり、警察が調べているからだ。ミラはその場所に近づいていく。
「子供が来る場所じゃないぞ」
ミラが近づくと、警察の一人が彼女に威圧的にそう言った。しかし、そんなことを気にする彼女ではない。
「犯人の手がかりみたいなのってあるの」
「君に話すことは何もないよ。そもそも君は誰なんだ」
威圧的な人ではなく、今度は諭すように横から警察の人が出てきた。
「この商店街の謎を解決してるんだ。そして、早く犯人を捕まえて、マリアを元気付ける」
「おい、早くどっかに連れてけ」
先ほどの威圧的な人が警備の人にそういった。
ミラはふざけてなどいなかったが、警察が一般市民を事件に巻き込むはずもなく、彼女はつまみ出された。
「正面から行っても駄目か」
ミラはうつむきながら、警察が調べている場所を眺める。しかし、警察が調べている範囲が小さいというのもあって、警備の穴のようなものが一切見当たらない。
「高校生は家にいるはずなのだけれど。やはり、貴女はここにきたわね」
彼女の後ろから突然声をかけてきたのは、仮面の女性だった。




