金メダルを探せ
書けましたので、投稿します。
金メダルを探すミラと少女。ミラは情報を引き出すのが苦手で、少女から有益な情報を得ることができなかった。それでも、一度受けた依頼を投げ出すわけにもいかず、彼女は依頼の金メダルを探していた。マリアが居たら事態は収拾するだろうが、今、彼女は授業中で学校にいる。
「そうだ、ねぇ、あなた名前は何て言うの」
歩き回って探す前に、ミラは少女に名前を訊いた。
「メイです」
少女は自分の名前を告げた。
「メイちゃんね。しっかりしてるね。ちゃんと名前言えるんだ」
「お姉ちゃんは?」
「ん、あ、自己紹介ね。私は佐藤実羅。よろしく」
「うん、よろしくおねがいします」
間延びした挨拶と共に、ぺこりと頭を下げた。なんとも礼儀正しい子である。
「よし、じゃ、探しに行こうか」
そして、二人は商店街に入っていった。
「あ、待って。メダル無くしたのは、商店街?」
ミラは商店街に少し入ったところで、慌てたようにメイに聞いた。彼女は重要なことを聞き忘れていたのだ。まず、どこらへんで無くしたのか。そんなことも聞かずに探そうとしていたのだ。
「うん、たぶん。ここ、歩いてる時に、気づいたらなくなってたの」
メイは悲しげな顔をしていた。
「大丈夫。私が必ず見つけてあげるから。安心して」
その言葉に少女は頷いた。
つまり、首から下げていたはずが、いつのまにか紐が切れ、落ちてしまったと言うことか。それに花が貼ってあると言うことは、多分コンクールやコンテストで貰うようなしっかりしたのもではない。折り紙かダンボールか。つまり、手作りのものである可能性が高い。それ以外は、とミラは考えていた。しかし、いつものようにすぐにどこにあるかを特定できないでいた。今までこんなことはなかったのである。それもそのはずで今まで相手にしてきたのは大人。つまり、話が通じやすく情報も引き出しやすかったのである。それに加え、今はマリアがいない。ミラが何かわからないことがあった時に瞬時に情報を引き出してくれていたのはマリアだった。今、ミラは彼女にとって今までの中で一番、難しい状況になっているのである。
「あれ、なんで何もわかんないの。いつみたいにパッと思いつかない……」
「ミラおねえちゃん?」
メイの表情に不安が現れていた。
いつものように直感が働かないことが彼女の思考の妨げになっていた。それは当たり前のことなのだろう。彼女が直感だと思っているものは、正確には直感ではなく、無意識に情報を集め、無意識に整理し、真実に近づくというものだ。今、彼女にはメダルの情報が少な過ぎて、整理しても全くメダルの場所の手がかりになるようなものではないのだ。
「マリア。早く来て。……いや、マリアみたいにすればいいのかも。マリアなら」
ミラはマリアが自分と行動している時にどうしていたのかを考えた。情報を正確に引き出している時にどうしていたのか。
「メイ、どの店の近くで落としたことに気づいたの」
「えっと、あそこ。靴がいっぱいあって、球打つ奴があるとこ」
靴に、球を打つ。スポーツ用品店か。彼女は思いつくと即座にその場所に向かった。
「こんにちはー」
「こ、こんにちわー」
元気な声と舌足らずな挨拶が店内に響いた。この時間、スポーツ用品店には店主以外の人物はいなかった。ミラはカウンターの奥で座っている店主に声をかけた。
「ああ、ミラちゃんかい。こんな場所に用なんて珍しいね」
店主が立ち上がると、メイがミラの後ろに隠れ、顔だけを覗かせた。それもそのはずで、若い頃はラグビーをやっていただけあって、その体は筋肉質である。それに背も高く、その見た目はミラでさえ、威圧感を感じるほどだ。メイが怖がっても仕方のないことだろう。
「おじさん、メダルみたいなやつ、落ちてなかった?」
「メダル?」
ミラはメイから聞いたメダルの特徴を店主に告げた。しかし、店主は知らないらしく、首を傾げ、ごめんねとだけ言った。
「うーん、ここじゃないのか」
店主に挨拶し、店を出た。得た情報はなし。
「ここ以外はどこに行ったの」
「えっと、メイの服見て、野菜屋さんに行った」
今度は子供服屋と八百屋に向かうことにした。
「あの、メダル見てない?」
この質問に対して、店主たちは首を振った。つまり、ここでもないと言うことだ。
「あのね、もしかしたら、公園かも」
ここら辺で公園といえば一つだけだ。住宅街の手前にあるものだけ。メイの言う通り、彼女たちは公園に向かった。
「あ、ミラー!」
商店街を学校の方に向かって歩いている途中、授業が終わったマリアが合流した。ミラはメイが付いて来ているこの状況を説明した。マリアはなるほど、と一つ相槌を打って理解した。そして、それを一言でまとめた。
「つまり、ミラがまた無茶をしたと言うことでしょう」
「うぐぅ。最初は見つけれると思ったんだよ」
「はいはい。じゃ、探しましょうか」
歩き始めようとすると、メイが声を出した。
「おねえさんは?」
「ああ、私は真理明。よろしくね、メイちゃん」
マリアはメイと同じ視線になるように屈んでそう言った。
「うん、メイはメイっていうんだ。よろしくおねがいします」
ミラにしたようにマリアにもぺこりと頭を下げた。
「ふふ、偉いわね」
そう言いながら、マリアはメイの頭を撫でた。彼女は嬉しそうな顔をした。メダルを探すため、マリアが立ち上がる。それから、歩き始めると、その横にメイが並んでマリアの手をとった。彼女はメイの方を見て、微笑みながら、その手を握る。メイはいっそう嬉しそうに、握った手を前後に振った。
「さて、公園に着いたけど、どこを探すの」
「メイちゃん、どこ?」
「それくらい、訊いておきなさいよ」
「マリアがいなくて、大変だったの」
「まったく。まぁ、いいわ。早く見つけましょう」
メイの証言によると、彼女が遊んだ場所はすべり台、ブランコ、砂場、それから、飼い犬が集まる草むら。順番もこの通りである。彼女たちはまず、すべり台、ブランコ、砂場がある遊具広場に来た。すべり台の近くには何もなく、メダルらしいものもなかった。ブランコの近くには、その後ろに木が並んでいるだけだった。次は砂場。誰かが遊んだ後らしく、小さな砂の城ができていた。他には忘れ物か、プラスチック製のスコップが砂場に刺さっている。しかし、目につくのはそれだけでメダルの手がかりになりそうなものはない。
「砂の下、かなぁ」
ミラは落し物のスコップを拝借して、砂場を掘り返してみるも、それらしいものは見つからなかった。スコップを砂場に戻して、今度は草むらの方に向かう。
「あ、カラスの羽だ。ハイタッチしなきゃ。マリアおねえちゃん、ハイタッチ」
「え、急にどうしたの」
「カラスの羽はしやわせを取るんだって。でも、ハイタッチすれば、しやわせがかえってくるんだよ。だから、ハイタッチ」
「あー、なるほど。わかったわ、ほら」
マリアはメイがジャンプして届く位置に手を出し、そこに向かってメイはハイタッチした。
「これで大丈夫ね」
マリアはメイにウインクした。彼女は満足そうに頷いている。隣を歩くミラがそれを見て、マリアに話しかけた。
「私たちの頃もあったよね。カラスの羽を見たら、指先合わせて、それを切れって」
「あったわね。貴女が何度もカラスの羽を持ってきて、何度もやったわ」
「あれ、そうだっけ」
「やった方は忘れるものよ、ええ」
ミラは本能的にこれ以上この話をしない方がいいと感じたので、さっさと草むらの方に向かっていった。マリアもまったく、と口癖を呟きながら、メイの手を引いて歩き始めた。
結果から伝えると、公園内にメダル関連のものはなかった。手がかりの一つさえも。
「あー、見つかんないよぅ」
これだけ探しても見つからないと言う事実がミラに弱音を吐かせた。
「自分で受けた依頼でしょ。もう少し探しましょう」
「そうは言ってもさ。ここまで探しても見つからないとやる気もなくなるよ」
ミラはすでにやる気が尽きていた。彼女はすぐに探し物を見つけることができると考えていたために、余計にその疲れが出ている。マリアは毎日ミラに付き合っているだけあって、一切疲れを見せていなかった。メイは歩き疲れたのか、目をこすって眠そうにしていた。
「あのね、おねえちゃんたち。もういいよ、探すの。なくしちゃったのは、メイのせいだもん。仕方ないよ」
メイのその言葉が二人の胸に刺さる。特に、安請け合いしてしまったミラが泣きそうな、困ったような顔をしていた。
「……絶対、見つけるから」
ミラは真剣な表情で、そう言った。
彼女の真剣な表情はいつぶりだろう、とマリアは考えていた。いつもどこかふざけているような雰囲気で、彼女が真剣になることはまずない。
「そうね。貴女なら見つけるわ」
だから、マリアも彼女の真剣さを信じることにした。
彼女達は公園を出て、学園側の商店街の入り口に戻ってきていた。それから、メイが通った場所を聞き、ミラは考えた。
「もう夕方だし、メイは帰んないとダメなんだ」
あたりはすでに橙色に染まり、カラスが鳴いていた。
「そうだね。暗くなる前に帰らないと、おうちの人も心配するし」
そんな時、ミラがあっ、と声を上げた。
「わかった。これはあってる自信があるやつだ! カラスの巣だ!」
ミラ以外の二人はぽかんとして、意味をすぐには理解できなかった。しかし、マリアが少し間をおいて理解したのか、なるほど、と呟いた。
「でも、カラスの巣なんてどこにでもありそうだけど、正確な場所はわかってるの」
「もっちろん! 学園の近くに林があるでしょ。あそこだよ」
そう告げると、ミラは学園の前の坂の方に向かった。彼女に続いて、マリア、メイが向かう。
「たぶん、あそこ」
学園前の坂から彼女が指で示した場所には鳥の巣のようなものがあった。
「あそこにあるのにどうやってとるの」
メイは不安な顔でそういう。
実際、坂の端に立って何か長い棒を持ってきたとしても届かない距離だ。林の中に入っても、今度は巣の位置が高すぎて届かない。木登りできるならともかく、この中でそれができる人はいないのだ。
「大丈夫。とりあえず、あの木の下に行こう」
手ではもちろん、道具を使っても届かなさそうな場所にどうやって手が届くようにするか、という二人が抱いた疑問を放って、ミラは坂を降りて林の中に入っていく。二人は置いていかれないように付いていくだけだ。
「ここら辺かな」
ミラは林の中に入り、巣があった木の辺りまで進んだ。そして、ミラは巣のある木の下にある金色のものを見つけた。
「ミラ、メイのことも考えて――」
「あー! あったよ! これだよ!」
マリアの手を握っていた手を離して、メイは走っていった。その手にはきらきらしたメダルのようなものがあった。
「メイちゃん、それが探してたやつなの」
「そう! ほら、お花が張ってあるでしょ!」
メイが示す場所には確かに花のシールが一つ貼ってある。
「よかったね、メイちゃん」
「うん! ありがとー!」
メイは先ほどまでの元気の無さなど感じさせない満面の笑みで喜んでいた。
「じゃーねー、ミラおねえちゃん、マリアおねえちゃん」
メイが家に入るのを見送って、彼女達も自分の家に帰ることにした。
「そういえば、ミラ。今日は冴えなかったわね」
「どういう意味ですかぁ」
ミラは馬鹿にされたと思って、その頬を膨らませた。
「いや、直感の話よ。今日はすぐに当てられなかったんでしょ」
「う、うん。なんかこれが正解だ、みたいなのが最後にしか出なくて、それに最後以外の予想は全然違ったし」
彼女は首を傾げて、今日のことを考えた。彼女からしたら不思議で仕方の無いことである。今まで、できていたことが急にできなくなってしまったのだから。例えば、昨日まで箸が使えていたのに、今日になって使えなくなった、といったのがわかりやすいだろうか。
「でも、最後で閃いた。何かきっかけがあると思うのだけれど」
「きっかけね。確か、夕方だって気づいて、カラスの鳴き声が聞こえたときだったと思うんだけど。でも、よくわかんない」
「そう。結局は直感だもんね。直感に理由なんて無いわね」
「でもね、マリア」
「どうしたの」
彼女は笑みを潜めて、真剣ともふざけているとも思えない表情で言った。
「私の直感って、ほんとに直感なのかな」
「それは、私には、わからないわ。そもそも直感って誰にでもあるでしょ。ミラのそれは人より優れていると言える。でも、もしそれが直感じゃないとしても、私は不思議じゃないと思うのだけれど」
マリア自身、ミラの直感は当たりすぎていると考えていた時期はあった。しかし、考えても彼女のそれを理解することはできなかったので、そういうもの、と認識して、考えることをやめてしまっていた。
「不思議じゃないとしたら。私の直感の正体は何」
「それこそ、私にはわからない。貴女自身で見つけるしかない、と思うわ」
「そっか。今まで自分の直感なんてなんとも思ってなかったけど。これが違和感ってものなのかな」
ミラはテリー女史に言われたことを思い出した。
「とりあえず、帰ろう」
マリアは橙色から藍色に変わる空を見ながら、ミラを連れてそれぞれの家に帰った。
ミラはベッドの中で考える。自分の直感について。直感。その一単語だけで片付けていた彼女の能力に彼女自身が疑問を抱いた。便利な力だと思っていたが、便利ではないのかもしれない。それはこの直感には解を出すためにはある条件が必要とか、状況が出揃わないと何も起きないとか。そもそも日常生活を送る上で、この直感は発動しない。例えば、マリアがテレビ番組の話をするときに、彼女が話す前からその話のオチを直感でわかることはないし、一週間後の昼食を直感で理解することも無い。つまり、少なくとも何かきっかけがないと、直感が機能することは無いということなのだろう。
ミラは一晩中考え続け、結局睡眠時間は一時間になってしまった。
「ミラ、迎えに来たよー」
朝八時を過ぎたころ、いつものようにマリアがミラの家のインターホンを鳴らし、彼女を呼んだ。
「ごめ、ごほ、ごめん。一緒に、ずるずる、いけない」
インターホンから聞こえる彼女の声は、まるでアナログテレビの砂嵐のような声をしていた。
「あらミラ。風邪、引いたの」
「そう。ごほ、ごほ」
「そうなの。授業終わったらまた来るから。そうだ、何か食べたい果物とかある?」
「あ゛ー、桃の缶詰、食べたいな」
「うん、わかったよ。じゃ、お大事に」
「い゛っでらっじゃい」
マリアはミラが風邪を引いたのはいつぶりかしら、と考えながら学校に向かった。
マリアは学校の敷地内に入ると最初にすることがある。校舎の中には入らずに、横にそれ、倉庫に向かう。その倉庫から如雨露を取り出し、近くの蛇口からそれに水を入れ、それから校舎の前に並ぶ花壇に水をやった。これが彼女の朝の仕事の一つである。ちなみに、この作業は本来、生徒がやる必要は無く、彼女は用務員の手伝いをしているだけである。
その仕事が終わると、正面玄関から校舎内に入り、靴を上履きに替えた。彼女の教室は三階の階段を上がったすぐ右にある。本来ならミラも同じように行動し、彼女と同じ教室に入るはずだが、今日は休みだ。
「おはようー」
クラスメイトと挨拶を交わして、自分の席に着く。それから授業道具を机の中へ。
「あれ、今日は実羅ちゃんはいないの?」
「ああ、今日は風邪みたいなの。まぁ、あの子のことだから心配は要らなさそうだけれど」
「そっか。じゃ、今日は静かな一日になりそうだね。なんだか寂しいよ」
「でも、風邪ならしょうがないじゃん」
彼女の周りには女子が二人、集まった。最初にマリアに話しかけたのは、波川依。あとから来た方が阿部麻だ。その三人で朝のホームルームが始まるまで世間話をして過ごした。
授業中は真面目に授業を受け、それ以外はいつもミラと話しているのだが、今日は彼女がいないために、マリアは暇を持て余していた。普段はミラにあちらこちらに連れて行かれて、気づけば昼休みは終わっていると言った風なのに彼女がいないだけで、こんなに暇になるとは思わなかった。
そんなに暇なら、と彼女は今朝話していた二人と話をすることにした。話の内容は最近噂になっているこの学校の怪談だ。
一つ目は幽霊のいる部屋。華彩園高校のある教室にて、幽霊が生活していて、夜にその場所を訪れると冷気に当てられて、魂を持っていかれるという話。
二つ目は校内を彷徨う怪物。華彩園高校の廊下にて、夜に廊下を歩くとジジジ・・・・・・という鳴き声と共に廊下を彷徨う怪物がいるという話。
三つ目は図書館の透明人間。華彩園高校の図書館にて、その場所のある席に本を開きっぱなしで放置しておくと、その本を読む人間がいるのだが、その人間は誰の目にも見えず、まるで本が勝手にページを繰るらしいという話。
「最後のは実際に見ても、あまり怖くなさそう」
阿部が最後の話を聞いて、なんともないようにそう言った。
「いやいや、透明人間だよ。私ら何されるかわからないじゃん」
波川は興奮している。そんなにオカルトが好きなのか、とマリアは思った。
「でも、鈴木さんにしたらそれくらいなんとも無さそうだ」
阿部がマリアに何かを期待するような目で見た。
「なぜかしら」
「だって、実羅ちゃんと一緒にいたら、それくらい有りそうだし」
「確かに」
マリアを囲む二人の友人は真剣な顔をしていた。まるで、ミラが本当に幽霊に合ったことがあるかのように。
「あー、でも確かにあったかもしれないわ。あれは小学三年生のときだったか、四年のときだったか――」
その後、教室内に二人の悲鳴が響いた。そのことで三人が批難を受けたのは言うまでもないだろう。
すべての授業を終えて、マリアは急いでスーパーマーケットに向かっていた。なぜなら、桃缶を買って、早くミラのお見舞いに行きたいからだ。急ぎ足でスーパーマーケットに入り、桃缶といくつかのお見舞いを買って彼女はミラの家にさらに急ぎ足で向かった。
「ミラ、大丈夫」
マリアはミラの母親に通してもらって、ミラの部屋に来た。
「あ、マリア。私、しばらく学校行けないかもしれない」
ミラは朝よりも喉の調子がよくなっていて、テレビの砂嵐のような声ではなくなっていた。ミラは布団の中に体をすっぽり入れて休んでいる。先ほどまで彼女は寝ていたのだ。
「そんな弱気にならないの。すぐに良くなるわ。もちろん、ちゃんと休んでいたらの話だけどね」
「そう。それができない。もう、何か興味が湧くようなことを探さないと、死んじゃう」
「はいはい。そうね。本でも持ってきましょうか」
「本は読めないよ。字がちゃんと見えないの。ぼやけて見える」
「そ、そうなのね。他は何がいいのかしらね」
「あ、じゃあ、私を外に出してほしい」
「それはダメ。ちゃんと寝てないとやりたいことができるようになるまで、さらに時間がかかるようになるわ。だから、ちゃんと休みなさい」
「うん。わかったよ。仕方ないから休む」
ミラは布団の中に顔を埋め、再び眠りについた。
「お邪魔しました。また、来ます」
ミラの母親に挨拶を済ませて、家に帰ることにした。
ミラが早く治るといいなぁ、と考えながら、彼女は今日を終えた。
翌日、校内である事件が発生していた。しかし、事件と言っても警察が入るようなものでは無かった。
「私のてっちゃんのキーホルダーがどっかいっちゃったの」
昼休み、昨日のメンバー、つまり、波川と阿部がマリアの周りに集まっていた。ミラは今日も欠席している。
「キーホルダー、ね。どこかに落としたわけじゃないの?」
「そうかもしれないんだけど、バックに括り付けてたヒモごとなくなったんだよ」
「ああ、確かに。それは変かも。あんた、頑丈に結んでたもんね」
今の話題は波川がキーホルダーを落としたというもの。実際、彼女のキーホルダーのてっちゃんを繋いでいたヒモは簡単に切れるような作りではない。
「あのキーホルダーのヒモって、てっちゃんと同じ頑固で外れにくくて切れにくいって、書いてあるんだよ。説明書に」
「あー、確かに。私に見せてくれたしね」
「そうなんだよ。私だって、ちゃんと縛ったし、落としたってことは無さそうなんだけど」
マリアは、ミラが居たらすぐに収拾が付きそうだなと考えながらも、友人が困っているのを放っておける性格でもない。マリアは、まったくといつもの口癖を呟きながら、こう言った。
「私も協力するから、探しましょ」
そして、放課後。マリア、波川、阿部は自分たちの教室に残っていた。
「さて、まずは教室の中を探しましょうか」
「賛成ー」
「私はこっちやるわ」
波川が教室の黒板側、阿部が波川の反対側である掲示板側を探すことにし、マリアは二人の中間である教室の中央辺りを探すことにした。
教室は、一般的な学校の教室とそう変わらない作りになっている。隠し部屋につながる仕掛けなんてないし、誰かの貴重品を隠すような場所もない。というか、この教室において、そんなものを作れば、ミラがすぐに見つけてしまい、隠すことなんてできないだろう。教室に出入りするドアは前後の一か所ずつあり、そのどちらも二枚扉の引き戸だ。それから、黒板に向かって右が廊下、左が窓になる。黒板にはチョークの粉受けが付いており、その上には黒板消しが綺麗に二つ並んでいる。黒板の前には一段高くなった教壇があり、そこには教師が物を置く机が設置されている。それから黒板に向かって、右にはごみ箱が右から順にペットボトル、不燃ごみ、可燃ごみとなっている。それぞれの大きさは同じで、高さは膝のあたり、幅は太くも細くもない人を正面からみた胴くらい。その上には重要連絡事項が貼ってある掲示板がある。黒板の左側にはテレビが置いてあり、テレビはテレビ台の上に載っている。テレビ台は扉が付いているようなものでなく、台というより棚と言った方がしっくりくるようなデザインだ。テレビ台の上には黒板で使う用の大きな定規も乗っている。それから配った時に余ったプリントが数枚。いずれも下に何かあるようには見えない。当たり前だが、教室には机と椅子が生徒の数だけある。最前列に五台、それが同じ数で後ろに六列並んでいる。その後ろの列には四台の机が並んでいる。つまり、机はこの教室には三十四台あるということだ。そして、教室の後方。まず、後方の壁には大きな掲示板がある。画鋲でプリントを留めていて、重要なものから生徒が紙に書いた落書きまで様々貼ってある。キーホルダーをこの場所に留めておくことは可能だろう。しかし、今のところ、そのようなものはない。そして、後方の窓側には掃除用具箱がある。その中には掃除道具しか入っていないだろう。
「あー、チョークの粉んところは何もないー。ゴミ箱の後ろも何もないー。テレビ台にも無いー。ゴミ箱の中は触りたくないー」
黒板側を探していた波川は既に探し終え、何もなかったことに意気消沈していた。
「こっちにもなかったよ。ちゃんと掃除用具箱の中も見たけどなかった」
掲示板側担当の阿部も何も見つけられなかったようだ。
「そっか。私も特に何も見つけられなかったよ」
マリアは一台一台、申し訳ないと思いながらも机の中を見たが、何も入っていなかった。
「そういえば、なくなったのっていつ?」
「えっと、気づいたのは昼休み前で、朝はバックについてた」
「朝はついてたって。ちゃんと毎日確認してるの?」
阿部が波川に質問した。
「そうだよ。毎日、よし行くぞ、てっちゃん。って言ってから家、出てるから」
「そんなことしてたのかい」
「今は、そんなこと良いんだよ。てっちゃんを早く見つけないと、日が暮れちゃうよ」
波川はそんなことを言っているが、実際に焦っている様子ではない。彼女はすでに誰の席ともわからない机に頬を乗せて、だらけている。
「探す気ないでしょ、あんた」
「探す気はあるけどー、疲れたんだよー」
波川は立つ気すらなく、その身体を動かそうともしない。
「ちょっと、鈴木さんが手伝ってくれてるのに、その態度は無いでしょ」
「うん、確かに。でも、私は動きたくなーい!」
「もう。ちゃんとしなさいよ」
横で二人が騒いでいる間、マリアはミラが居たらすぐに解けそうなんだけどな、と少し前と同じことを考えていた。ミラが元気を出すのを待つか、いや、それでは波川さんのキーホルダーが見つからない可能性があるし、やはり、今、私が見つけるしかない。とそこまで考えて思考をいったん止めた。
「波川さん、落としたとしたら、教室というか学校内なのよね」
「そうだね。てっちゃんは金属製だから外じゃなくても落としたらわかるよ。音がするからね!」
「そっか。つまり、もしヒモが外れて落としてしまっても、音でわかるのね。それを信じるとすれば、そもそも落として気づかないまま放っておくなんてことはないわけね」
マリアの言葉に三度頷いた。
「え、でも、朝とかだったら騒がしくて聞こえないかもしれなくない?」
「いや、てっちゃんはあれで結構重いんだよ。落ちた先が柔らかいところじゃなきゃすぐにわかるって」
「んー、そっか。確かに思ったより重かったしね」
「柔らかいところか。じゃ、まずそれっぽいところを探しましょうか」
そうして、三人は教室を出た。
明日、また投稿します。
是非、続きを楽しんでください。




