探検8
1-8
「アリス達、夜ご飯はもう食べたの?」
「いいえ、今から頂くところよ」
「そりゃいいや、紅茶を淹れて来るよ。スープも温めないとな」
ステファンは昔から料理が上手かった。もう少しで一人暮らしをするのだからと、アリスも教わっていたことがある。
「その子がノームさん?ようこそ。アリスからの手紙によく出てきたよ。妹みたいに可愛い子がいるって」
「ステファン、余計なこと言わないで。魔女は町の人のえこひいきをしちゃ駄目なんだから」
妹みたいに可愛い。その言葉に、ノームはこそばゆい思いがした。ノームにとって、アリスはこの上もなく大切な存在だった。命を助けてくれて、外を出歩く自由をくれた。それでも、アリスが自分のことをどう思っているのか分からなかったのだ。アリスは誰にでも礼儀正しくて、誰にでも優しい。対外的な殻の厚いアリスが、自分のことをそんな風に思ってくれていた。それが、ノームには素直に嬉しかった。
「アリスったら、そんなことを思っていたの。私に言ってもよかったのよ」
「もう」
アリスが拗ねたようにそっぽを向いた。不思議な感覚だ。ノームの町では、アリスは公のために奉仕する魔女だ。それが、この家にいると一人の女の子になってしまう。アリスも、最初からしっかりしていた訳じゃないんだな。その事実に、ノームは少し安心した。
パン屋のおじさんも含めた食事の席では、ノームは質問ぜめにあった。町でのアリスはどんな風なのか、しっかりやれているのか、恋人は出来たのか。その質問の一々にノームは笑って答え、アリスはそれを諦めたように聞いていた。
「それで、明日はどうするのノームちゃん。どこか行きたい場所はあるの?」
「そうですわね。本当は魔女学校に行きたいのですけれど、私は魔女ではないから入れませんし」
「それなら、明日は北の広場でバザーがあるわよ。行ってみたら?」
おばさんの提案に、アリスも頷いた。
「そうね。魔女学校の町のバザーは面白いわよ。アンティークの陶器から、まじない用の道具まで何でもあるの。あなたのご家族へのお土産も買って行きましょうか」
「それなら僕も着いていくよ。買い物に行くなら、男手があった方が便利だろう」
「ありがとう、ステファン。ノーム、それでいいわね」
「もちろんよ」
ジャガイモのスープの風味が口の中に広がる、パンにつけるいちごのジャムの甘みも心地よい。好きだな。ノームはそう思った。