探検6
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十時間ほどゆられ、馬車は夕暮れ時の駅についた。魔女学校の町の入り口。アリスにとっては見慣れた光景であり、ノームにとっては夢にまで見た光景だった。アリスの学校生活の話を聞きながら、何度思いを馳せたか分からない。町は小高い丘を中心に広がっていて、石造りの道路が舗装されている。三階ほどの石造建築が連なり、大通りを外れると、どこへ繋がるとも分からない裏路地に入り込む。建物と建物の間には物干し用の綱が張り巡らされており、人々の衣服が吊るされている。その中には、魔女学校の制服もちらほらと混ざっていた。
「ほら、あれが魔女学校よ」
小高い丘の頂上を、アリスが指差した。丘の上に見える魔女学校は高い柵に囲まれ、広い敷地の中にいくつかの建物が建っている。
「寄宿舎もあの中にあるの。ここからじゃちょっと見えないけどね」
魔女学校の生徒は初めは全員が寄宿舎に住み、十歳になると寄宿舎を出る自由が許される。寄宿舎に住んでいない生徒は、どこかの店で下働きをしながら下宿することになる。アリスも学生時代は、丘の麓のパン屋に下宿していた。ノームたっての願いもあって、滞在中はそのパン屋に泊まることになっている。
「今夜はもう遅いから、すぐにパン屋へ向かうわよ。いいわね」
ノームから返事はない。光景から入ってくるあらゆる情報を処理するのに精一杯なのだろう。アリスが町に赴任してからと言うもの、ノームは学校生活の話を何度もせがんだ。彼女にとって魔女学校の町は、憧れのお伽噺の舞台なのだ。
アリスとしても、パン屋に泊まるのはやぶさかではない。魔女学校の生徒として下宿している間、パン屋の家族はアリスを娘のように扱ってくれた。それなのに先月この町に来たときは、会いに行く余裕もなかった。仕事の期間はヒヤクソウ原産地の調査に奔走していたし、期間が終わった後はすぐに町へ戻った。ノームを町に残したまま、あちこちを巡るわけにはいかなかったのだ。
「ノーム、いいこと?絶対に私から離れないで。もし私からはぐれるような事があったら、すぐにこの筒を開けてちょうだい。この筒には私が交渉した風が入ってる。筒を開けたら、風があなたの居場所を私に教えてくれるから」
ノームは辺りを見渡すのを止め筒を受け取ると、アリスの目を見ながらコクリとうなずいた。風にこれだけのことを頼むのにはとても大きい魔法が必要だということを、彼女はよく分かっていた。
「それじゃあ行こうか」
「うん」
そう言って、二人は夕暮れ時の町を歩き始めた。