探検3
1-3
「ねえアリス、魔女学校の同級生とは会ってきたの?」
魔女学校を優秀な成績で卒業した生徒には、卒業した後も魔女学校からの依頼が届く。今回のヒヤクソウ原生地調査も、魔女学校から依頼されたものだった。
「会ってきたわよ。ヒラリと。あの子も動物との対話が上手いから呼ばれたのだけど、ちょっと衰えてたみたい。あの子が赴任したのは港町だから、天候との対話ばっかりやってるって嘆いてたわ。勿体無い。あの子は農業の町か牧畜の町に行くべきだったのよ」
「行く町って魔女は選べないんだ?」
「希望は一応聞かれるのだけどね。魔女の希望ばっかり聞いてたら、首都の近くにしか魔女がいなくなっちゃうから」
「アリスは希望してここに来たの?」
「いいえ。そもそも、本当は希望なんて出しちゃいけないのよ。私たちは、世界に寄り添うことを義務付けられて生まれてきたのだから。あそこがいい、ここがいい、なんて言ってちゃいけないわ。最近の魔女たちはそれを忘れてきているみたい。自分が一番力を発揮できる場所で、その力を町のために振るうべきなの。遊びたいからって理由で首都近くを希望するなんて」
生真面目だ、とノームは思う。昔と比べて、魔女の人権は認められてきている。それでも、アリスは魔女として生きることに疑問を持たない。
「いいじゃない首都。行ってみたいわ。首都に行って、学校に通って、素敵な人と恋をして、駆け落ちをするの」
「ご両親が聞いたら卒倒しちゃうようなこと言わないの。大体、そんなことをして体を壊したらどうするの」
「駆け落ちをして死に際に恋人とキスをする。それもロマンチックよ」
「はいはい、駆け落ちするなら私も連れて行ってね。治療が遅れたら命に関わることもあるんだから」
「なによそれ。三人で駆け落ちなんてロマンチックじゃないわ」
アリスが来てから、ノームの行動範囲は随分広くなった。アリスは、薬草を作る技術がピカイチだ。魔女学校においても、薬草作成のテストでは常に一位だったらしい。それまでは隣町の医者に頼るしかなかったので、ノームは無理な運動をすることができなかった。しかしアリスが来てからは、彼女が同伴していれば外に出ることが出来るようになったのだ。アリスの木の実拾いについて行ったこともある。それは彼女にとって、胸踊る大冒険だった。そして今、彼女は夢に見るしかなかった首都での生活を本気で考えている。アリスにも両親にも言ったことのない、秘密の作戦だ。現実的になるまで、温めておかなければならない。