探検2
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魔女は八歳になると魔女学校へ送られる。それから十四歳になるまで魔女としての技術や体力、そして何よりも心得を教えられる。魔女は強大な力を持っている。今の魔女は薬を作ったり、動物と対話したり、天候と対話する事しかできない。しかし古代の魔女は空を飛び、街を焼き、火山を噴火させたという。そういう類の魔法は遠い昔に失われてしまったが、魔女学校の地下深くに魔術書があると噂されている。それでも、そんな魔法に興味を持つ魔女は一人も居ない。魔女学校で、シラクサ先生はよく言ったものだった。
「いいですか、魔女は強大な力を持っています。それでも、魔女は魔女でない人々よりも優れている訳ではありません。私たちは強大な力を持っているからこそ、誰よりも懸命に人々に寄り添わなければいけないのです。もし私たちがその気持ちを忘れてしまったならば、私たちは人ではなくなってしまいます」
そうして魔女学校を卒業した生徒は、人々に寄り添うために町に送られる。一つの町に一人の魔女が在中する習わしだ。人々と寄り添い、人々を助け、その町で必要とされながら人生を終える。それが魔女としての最良の一生だった。
アリスがやってきた日のことを、ノームは鮮明に覚えている。もう三年も前のことだ。十四歳になったばかりのアリスが、頼りなさそうな足取りで馬車から降りた。一つの町に一人の魔女が在中するのが習わしとはいえ、魔女の数は絶対的に足りていない。この町に魔女がやってくるのは十年ぶりのことであり、町中の人たちが集まってアリスを出迎えた。十四歳の少女は、人々の好奇の目線に晒されながら、それでも毅然とした態度を取ろうとし続けた。
「皆さん、お出迎えありがとうございます。この町に在中させていただくことになったアリスと申します。皆様の町に寄り添い、対話し、お役に立てるよう精一杯に努力して参ります。どうかよろしくお願いします」
彼女が無理をしていることは、十一歳だったノームにも一目で分かった。簡単にいえば、彼女は緊張していたのだ。これからの人生を過ごしていく場所で、上手く溶け込むことが出来るだろうか、対話できるだろうか、必要とされることが出来るだろうか。そんな不安を全て覆い隠し、彼女は生真面目に毅然とした態度を貫いた。あの頃のアリスは、今よりも少しピリピリとしていたとノームは思う。そしてそんな彼女のことを、ノームは一目で好きになった。