おうちに帰ろう
―タチバナ ヤヨイ―
校長先生とのやり取りが終わった後、私は警備団本部に連絡を入れていた。
おそらくこの不審者は・・・。
「なんだ」
電話の相手である団長、つまり警備団で一番上の人間であるサクマ ジンは開口一番にそう答えた。
彼はかつて私と共に戦った戦友で、十数年前に「ここは任せて先に行け」戦法で文字通り先に行かせた一人だった。
あの戦いの功績が称えられ、団長まで上り詰めた男・・・といえば聞こえがいいけど、実際には団長が殉職してしまい、空いてしまった席を埋めるため互いに押し付けあった結果だった。
最終的には抜群のチームワークによって満場一致(もちろん本人を除いて)で彼に決定した。
ていうか顔がそもそも怖いんだから話し方くらい優しくしてよ。
「私だけど」
「だからなんだ」
ぶっきらぼうにもほどがありませんかね。
「今娘の授業参観に来てるんだけど」
「また娘の自慢話か?じゃあ切るぞ」
「ちょっと待ってよ!」
サツキの自慢話をして何が悪いの!?
・・・ではなくて・・・。
私は今日起きたことを話した。
「たぶん魔薬の・・・」
あの男の体からは少し魔力を感じたし、足をひっかけただけで20メートル以上も吹っ飛んでいったことがそれを証明していた。
普通の人間だったらまずありえない。
「わかった、わかったからお前はそれ以上何もするな。あとな・・・」
む・・・なんでそんな言い方するんだろう。
私が以前、ひったくり犯を捕まえたときや、サツキがテストで100点を取ったとき、あとはサツキが初めて料理を作ってくれた時も似たような口調だった。
あれ、そう考えるといつものことのような気がしてきた。
「お前、この会話が録音されてること知らないのか?」
初耳でした。
どうやら本部への電話は問答無用で録音されることになっているらしい。
「先に言っ・・・てくださると大変助かりますけど団長殿!?」
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私はサツキと共に手をつないで帰路に着いていた。
なんと愛しの娘から手をつなぎたいと言ってきたのでつながないわけにはいかない。
この辺りは住宅が規則正しく並んでおり、見晴らしもそこそこいいため登下校のルートに選ぶ人も多い。
人目もあるし危険を感じたらどこかの家に転がりこんで助けを求めることができるからだと思う。
事態が収拾してから生徒全員が集団下校することになった。
先生が引率することで生徒の身を守るというのが目的だった。
サツキも初めは他の生徒と下校することになっていたのだけど、私が連れて帰ると先生に言うと妙に納得した様子で了承してくれた。
ちなみに学校は明日から少しの間休校。
予定では一週間後に再開するらしい。
警備員配置の準備をしたり、生徒のメンタルケアに充てる期間ということだろう。
私は学校を出る前に
「一緒に帰りたい子とかいないの?」
サツキの目線に合わせるようにかがみ、頭をなでながらそう聞いた。
私ならどんな奴が襲ってきても守ってあげられる。
「ん、いい大丈夫」
そういえばこの子が他の生徒と一緒に登下校したり、遊んでたりするところを見たことがない。
授業中は隣の席の子と楽しそうに話してたからクラスで浮いてしまっているなんてことはないと思うけど。
それにしてもさっきから様子がおかしい。
ずっと何か考え事をしているかのように俯いている。
言葉数も妙に少ない。
「どうしたの?何か悩み事でもあるの?」
「ん?んー・・・」
さっきからずっとこんな調子だった。
家に着いても同じだった。
どれだけ話しかけても上の空。
心配だ。
「うーわ汗びっしょびしょ・・・お風呂に入ってこようかな~。あ、サツキも一緒に入る?」
どうせ断られるけど一応聞いてみた。
小さい頃は一緒に入っていたけど途中から「いや、一人で入るよ。大丈夫、お母さんみたいにお風呂で寝ておぼれそうになったりしないから」
そうバッサリ言われたっきり一緒に入っていない。
私が返事を待っていると
「うん、はいる」
やっぱりね、じゃあとりあえず一人でシャワーだけでも・・・ん・・・?
「って、ええええええええええええええええ!」