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専業主婦になります!  作者: まとまと
第二章 イツキ家の悲劇
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ヤヨイの惚気とインタビュアーサツキ

―タチバナ サツキ―



わたしはお母さんと約束した。

お母さんが逃げなさいと言ったらそれが例えどんな状況だろうと逃げると。


その言葉の意味はきっと「お母さんが死にそうになっていようとサツキだけでも逃げて」って言うことだと思う。


あくまでこれはわたしの勝手な想像だけど、もしそうならごめんねお母さん。

やっぱりその約束は守れそうにないよ。


わたしは何があってもお母さんと離れたくないから。








初めはお母さんの後をわたしがついていくことになっていたのだけど、電球がついたことによって明るさを確保できた後は二人横に並んで進んでいた。

わたしが左側でお母さんが右側。


進む速度は奥が見通せるようになったこともあって少々早歩き。

警戒を怠らず、且つ少しでも早くナツさんの元へ戻るために速度を上げた結果、今に至る。




さっきから気になってることなのだけど、お母さんがしきりにわたしの腰?お腹?の当たりを気にしているのかチラチラとこちらを見ている。

なんだろう・・・。


「お母さんさっきからどうかしたの?わたしの体になんか付いてる?」


右腕を上げて自分の体を見てみてもどこもおかしいところはない。



・・・え?もしかして汗臭かったり?

さっき木材投げたときに汗かいたのかな・・・、でもそんな臭いしないし。

あーでもでも自分の臭いって自分では気づけなかったりするしお母さんの表情からするとそこそこ深刻なレベルなんじゃ・・・。

もしそうだとしたらちょっとショックなんですけど・・・。


「い・・・や・・・。その手・・・」


どうやらお母さんが見ていたのはわたしの右手、もう少し細かいことを言うと手の甲のようだった。

言われるまで右手を怪我していること自体忘れるほど大したことないものだったのだけどお母さんからしたらそういうわけにもいかないらしい。


「もう・・・気にしなくていいよってさっきも言ったのに」


こんなのなんともないよと言いながら右手の甲を左手でペシペシと叩いてみたけどそれでもお母さんの表情が明るくなることはなかった。

どうやら怪我の大小は大した問題ではないようで、突き飛ばしてしまったこと自体に思うところがあるようだった。



あの時のお母さんは確実に何かにおびえていた。

きっとこの家に住んでいた時のように。


今までわたしは意識してこの手の話題を避けていた。

わたしがお母さんに対してお説教したときは落ち込んだ表情の中にもなんというか・・・悦のようなものがあるのに、今はそれが全くない。

そんな思いをするくらいならわざわざ思い出させるようなことはしなくていいじゃないか。

なんて思っていたけど今もなお苦しんでいるお母さんの姿を見て考えが変わった。


やっぱりこのままじゃだめだ。

わたしが・・・なんとかしないと。



「ねえお母さん」


「なに・・・?」


「えっと・・・ナツさんがあそこに入ってくる少し前、お母さん様子が変だったけど・・・何があったか訊いてもいい?」


そう言うとお母さんは一度目をそらしてから自虐的に少し笑って見せた。


「いつもは訊いてもいい?なんて言わずストレートに訊いてくるのに珍しいね」


「まぁそういう風に育てられたし・・・」


言いたいことはちゃんと言うんだよというのは物心ついたときから両親に教えられてきた。

そのせいで何度お母さんの泣き顔を見たことか・・・。

「わたしは本当の子供じゃないの事件」が良い例だった。




お母さんは少し話すのをためらったように見えた。

それでもまた地面に視線を移した後に口を開いていた。


「なんだか・・・昔の私に責められているような気がして・・・。もっと私がしっかりしていれば・・・何かできることがあったんじゃないかって。そうしたらあんな目に合わなくて済んだんじゃないかって・・・」


もうすでにわたしに話しかけているというよりは独り言に近かった。



「あはは・・・。なんだろ昔の私って。・・・本当バカみたい。子供のころから何も成長してない」


お母さんは自分のことを過小評価しすぎなんだ。


「克服したと思ってたのに・・・。ちょっとあの時のことを思い出しただけでこれなんて。本当に私は・・・」


普段お母さんが何に対しても人一倍努力しているのをわたしは知ってる。

負けず嫌いなお母さんは、わたしよりも料理が上手くいかなかったときやゲームで負けたときなんかも気づかれないように必死こいて練習している。(それでも気づかれてるけど)

そして、今の強さを手にするためにもわたしの想像を絶する努力をしてきたはず。

だからそれを否定するような今のお母さんの姿は正直嫌いだ。



「・・・やめて。それ以上お母さんの悪口言わないで」


「え・・・?って、いひゃひゃひゃ!!」



わたしはお母さんの左頬を右手で抓っていた。

歩きながらだったので意図せず指が上下されてしまっていたため、痛み倍増。

更に、滑って段々と指で抓まんでいる部分が少なくなってきたから力も入っていった。

最終的に指ではなく爪で皮膚を抓まんでいる状態になった。


「ちょちょちょちょ痛い!いたたたたたた!!ちぎれる!ちぎれる!!」


「・・・あっ」


思いっきり涙目になってるお母さんの顔を見てちょっとやりすぎたことに気づいた。


「ご、ごほん・・・。お、お母さんだってわたしが卑屈になってるとこなんて見たくないでしょ?」


「ま、まぁそれはそうだけど・・・」


「それにわたしはお母さんが弱い人間だなんて思ってない。お母さんが頑張ったっていう証がここにあるから」


わたしは自分の顔を指差してそういった。

それでもお母さんは意味を理解していないようで首を傾げていた。




・・・涙目で。



「ほら、わたしが生きてるってことはお母さんがどんな辛いことがあっても諦めずに頑張って生きてきたっとことじゃん。だからまぁなんというか・・・」



さすがにちょっと照れ臭くなってきたけどここまで言っておいて今更引けない。



「お母さんはわたしに会うために生き抜いてきたー・・・って思えばどうかなー・・・なんて・・・」




あの時お母さんは言った。


『この人の存在がなかったら私はすでにこの世にいなかったのかもしれない』


これはお母さんの選択次第でわたしは産まれてくることすらなかったということになる。



確かにナツさんの存在は大きかったのだと思う。

身も心もボロボロになったお母さんのただ一つしかない心の拠り所だったのは間違いない。


でも、どんなに痛くても苦しくても生きることを諦めなかったのはお母さん自身の意思であり力だとわたしは信じている。



気づけばお母さんは相変わらずの涙目のままわたしのことを見てクスリと笑っていた。



「な、なんで笑うの・・・?」



わたしに会うために生き抜いてきた、なんてやっぱり自意識過剰だっただろうか。



「えっとね・・・。やっぱりお母さんの娘はすごいなーって改めて実感してるだけだよ。だってほら・・・」



細めた瞳からはさっきまでため込んでいた涙が溢れていた。

これは多分、頬を抓られて流していた涙とは違う。



「たった一言でこんなに元気にしちゃうんだから」



そこにいたのはいつものお母さんだった。

家で一緒にご飯を食べたりテレビを見たり、ゲームをしたり何気ない日常会話を楽しんでいる時の笑顔だった。


確証は得られないけど、もうさっきみたいに極端に落ち込んだり卑屈になったりすることはないんじゃないか、そう思えた。

今まで苦しんできたお母さんを少しでも楽にさせてあげられたかなと思うとこっちも嬉しくなる。




これからは逆の立場になることもきっとある。

下手をすれば命のやり取りをすることになる集団の中にいる身なのだから、これから先起こることなんて想像もつかない。


でも、わたしに何かあった時はお母さんは絶対に力になってくれる。

その時は無理せずに頼ってしまえばいいんだ。





そうやってお互いに助け合って、寄り添ってこれからも生きていこう。






・・・。





なんていい話で終わらせるつもりなんてない。




お母さんを笑顔にできて嬉しく思ったりホッとしたりしたのは紛れもない事実だけど、顔を直視できないほど恥ずかしい事を言ったというのもまた事実だった。

このままイイハナシダナーで終わらせるのはちょっと悔しい。



「あとね・・・お母さんにもう一つ言いたいことがあるんだ」


「うん、なに?・・・って、え?ほんとになに・・・?」



わたしの口角が徐々につり上がっていったことに気づいたのか、さっきまで浮かべていた笑顔がどんどんひきつっていった。



「お父さんとくっついてくれてありがとう」


「んな・・・!?」



予想だにしていなかったであろう発言に戸惑いを隠せないお母さん。

そしてそれを見てニヤニヤが止まらないわたし。



「なんでいきなりそんなことを・・・」


「だってお母さんとお父さんだったからわたしが産まれてきたわけで、他の人だったらまた別の子が産まれてきたわけでしょ?」


「ま、まぁそうだろうけど・・・。なんだろうこの小学校を卒業して間もない子供にあるまじき際どい発言は・・・」


「ねえねえ、どっちから告白したの?」


「い、今訊くことなのそれは・・・」


「いいじゃんいいじゃん減るもんじゃないし」


たまらずわたしから視線を逸らしたお母さんの瞳は右往左往しており、最後に一瞬こちらを向いたかと思うと最後に目を瞑って・・・。


「・・・はい」


肩をすくめて観念したかのように左手を静かに肩の高さまで上げていた。


「やっぱりそうなんだ・・・!それで?お母さんはずばりお父さんのどこに惚れたのですか?」


水無月を召喚して刃の先っちょを指先でつまんで柄の方をお母さんの口元に向けちょっとしたインタビューを開始してみた。


「い、いや・・・まぁその・・・。すごく頼りになって優しくて・・・。体を張って守ってくれたりして・・・。まぁそんな感じです・・・」


「ほほう・・・。その気持ちは今でも変わらないと?」


「は、はい・・・」


「だったらもう今すぐにでも会いたいはずですよね。でも今の時代いつでも電話でやりとりができるのになぁんかあまり連絡を取ってないような気がするのですが・・・。夫婦としてその辺はいかがなもんかと」


「いやだって・・・。忙しかったら迷惑に思われちゃうんじゃないかとか、がっつきすぎると引かれちゃうんじゃないかとか考えると・・・ってコラ」


「・・・あっ」


短刀をマイク代わりにしていたことに今更気づいたのか、武器を取り上げられてしまった。

まだまだ訊きたいことはたくさんあったのに。


「あの輪っかでドッキリ企画の時といいもう・・・」


「すみません調子に乗りました」



慌てて水無月をわたしの体に吸収した後、ある疑問が頭をよぎった。


入団してから教わったことの一つに「一度吸収した物は他者が吸収することはできない」というものがあった。

それはいったいなぜなのか・・・。


「ねえお母さん」


「・・・なんでしょうか」



さっきまでの流れのせいですっかり警戒されてしまっている。

ものすごいジト目でこちらの考えを必死に探っているのが見て取れる。



「さ、さっきのはほんとごめんって。そうじゃなくて、わたしの武器をお母さんが吸収しようとしたらどうなるのかなーって思って」



追い打ちをかけられるのではないかと構えていたお母さんは安堵し、一言でわたしの問いに答えてくれた。


「できないよ」


「あぁ、やっぱりできないんだ」


「一度その人の魔力に染まったものは他の人では基本的に馴染むことはない。もし無理に吸収させようとすれば体が拒否反応を起こして最悪の場合・・・」


「最悪の・・・場合・・・?」


お母さんの表情を見ただけでもだいたい察することはできた。

その先に待ってるのはきっと・・・。


「・・・死ぬ」


わたしは思わず生唾をゴクリと飲み込んでいた。

予想できていたこととは言え、実際にその言葉を耳にすると実感する。

もし、さっきお母さんが何かの手違いでわたしの武器を取り込もうとしたら・・・。


「あぁでも安心して。自分の意思では余程無理をしない限りは大丈夫だから。多分サツキの武器をお母さんが吸収しようとしてもうんともすんとも言ってくれないよ」


「・・・」



『基本的に』『自分の意思では』



この言葉が指す意味っていったいなんだろう。

態々基本的に、なんて言葉を使うっていうことはどこかに例外が存在する。

そして、自分の意思ではなく他者の介入があった場合、いったいどうなるのか・・・。



「基本的には馴染まないってどういうこと・・・?自分の意思では無理をしない限り大丈夫ってどういうことなの・・・?」


わたしは思ったままの疑問をお母さんにぶつけた。

わたしももう何も知らずに守られるだけの子供じゃない。


新人とはいえ警備団の一員なのだからどんな残酷な知識でも身につけておくべきだ。



「・・・昔は今ほど情報がなかった。だからいろんな研究や実験が行われていたし、その度に成功して失敗もしてた。そして、その実験のうちの一つが『魔力の取り込み』。強力な能力や適性を持つ人間や魔物の魔力を取り込むことによって力を増幅して任務遂行をよりスムーズなものにすることが目的だったのだけど、結果は・・・」


その先は言われなくてもわかる。

お母さんは一呼吸置き、続けた。


「被験体となった動物たちのおかげで人間を対象とした実験は行われずに済んだのが不幸中の幸いだったのかもしれない。そのおかげで研究は凍結、それ以来他者の武器を取り込もうとすることはもちろん、過度に自分以外の魔力を取り込むことは禁忌とされましたっていうお話」


「過度に・・・っていうことは少しならいいんだ」


「今お母さんたちが向かおうとしてる所は魔力だらけの場所だからね。少しでも取り込んだらアウトっていう状況でサツキは連れていけないなぁ」


過保護なお母さんのことだ。

今から向かっている場所が一瞬でも立ち入ったら命の危険に晒されるような場所だった場合、わたしを連れていくはずがない。

わたしがそれでもついていくと駄々をこねたら、それこそ本当にどこかに括り付けてでも一人で向かっていたはずだ。



充満している「程度」では特に害のない魔力。

それを無理に取り込ませようとして、結果として命を奪うことになった実験とはいったいなんだったのか。

少し考えただけでも身の毛もよだつものだった。



わたしとしても決して軽い気持ちで入団したわけではない。

お母さんや困っている人を助けたいという気持ちは紛れもない本物。

そうは思っていてもさっきの話を聞いた後だと少し身構えてしまう。




徐々に目的地に近づいているのか、お母さんの表情は少しずつ険しくなっていった。

わたしたちは会話をしながらも気を抜かずに奥へ奥へと進み続けた。

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