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専業主婦になります!  作者: まとまと
第二章 イツキ家の悲劇
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地下洞窟

―タチバナ ヤヨイ―



大体10メートルくらいだろうか。

梯子を降りきった私はようやく地面に足をつけていた。


口にくわえていたペンライトを手に取って壁を照らしてみると一定の間隔で梁や杭が打ち込まれており、それで土壁を補強しているのが分かった。

空洞の高さは私よりも頭二つほど高く、歩く分には全く不自由しないほどの広さが確保されている。

他に分かったことと言えば、今持っているライトでは奥を照らしきれないほどの下り坂をこれから移動することになることくらいだった。



「サツキー!もう降りてきても大丈夫だよー!」



周囲に気配を感じないことを確認してからサツキを呼んだ。

魔力を感知したのはここからかなり離れている場所だったとはいえ、二人同時に降りるのは危険だと判断した私は、お母さんが安全を確認するまで降りてこないでと言っておいた。


わたしが先に降りるからお母さんこそここで待ってて、とか言われると思ったけど意外にも素直に言うことをきいてくれた。

まだまだ経験が浅いとは言え、あの子なりにこの事態の異常さに気づいていたからなのか。



「お、お待たせ・・・。うわぁ本当に真っ暗だね」



梯子を降りきったサツキは私と同じように進行方向へと懐中電灯の明かりを向けていた。

当然のようにお先が真っ暗なこの状況に、ホラー映画を真顔で観賞していたサツキも動揺を隠せないようだった。



「お母さん・・・」



娘がまっすぐとこちらを見つめてくる。

その瞳は心なしか潤んでおり、不安を無理に押し殺しているような・・・


「お母さんここ真っ暗だけど大丈夫・・・?わたしがついてるからね。一緒にいれば怖くないからね」



気がしていたのは私の思い過ごしだった。

こんな状況でも私のことを心配してくれてることが嬉しいやら情けないやら・・・。



「だ、大丈夫大丈夫。今のお母さんはお仕事モードだよ。これくらいどうってことないから」



今はこの暗闇よりも、奥にある正体不明の魔力によってこの家に住んでいる姉さんに危険が及ぶことの方がはるかに怖い。

とりあえずその危険の原因を突き止めるためにも早いところ進むことにしよう。



「じゃあちょっと行ってくるからね!」



サツキに向けていた視線を上で待っている姉さんに向けながらそう言った。

私としてはなるべく心配をかけないように、できるだけいつもと同じように話しかけたつもりだった。

でも・・・



「・・・」



こちらを見降ろしている姉さんの顔は数メートル離れたここからでも分かるように青白く、唇は小刻みに震えていた。

とてもさっきまで床下がどうのこうの言っていた人間の顔色とは思えない。

そして、ただ単に今までの疲れが蓄積した結果とも・・・。



「大丈夫だって!ちょっと見てきてすぐ戻るから!」



正直言うとすぐに戻ってくることは難しい。

魔力を感知したのはここから恐らく徒歩で1時間前後は掛かるほどの距離がある。

更に暗闇を進むことになる上、もうなんかここまで手の込んだ人工的な地下通路なんだから罠とかあってもおかしくないような気がしてきたので、慎重に進むためにはどうしても進む速度を抑えなくてはいけなかった。



「き・・・気をつけて・・・」



姉さんの返事を受け取った私は一つ頷き、暗闇を進むべく進行方向に向き直った。


この実家に来てから何度感じたか、もうすでに数えるのも億劫になってくるしいい加減くどいような気もしてきたけど相も変わらず暗すぎる。

何かもういきなり高速暗順応みたいな特殊能力に目覚めたりしないだろうか。



「サツキ、壁に手をつきながら進もっか。つまずいてこけないようにね」


「わ、わかった」



私が前に立って右手を壁についたのに倣ってサツキも背後で同じように右手を出していた。

なぜ右手なのかというと、サツキの利き手が左手だから。

万が一本当に罠があった場合や魔物に襲われた場合、利き手は自由にしておいたほうがいい。

ちなみに言うと私は右利きだけどそんなことは些細な問題だった。



「よし・・・行くよ」


「うん・・・壁に手をついて・・・」




私が意を決して第一歩を踏み出そうとしたその時だった。



パチン



その音と共にさっきまで懐中電灯の明かりだけが頼りだったはずの通路を今は数メートル先まで見えるようになった。

こ、これはもしかして・・・。



「目覚めた・・・?」


「え!?何の話!?」



冗談は置いといて何が起きたのかと後ろを振り返ると、サツキの右手が触れているそれが目に映った。



「スイッチ・・・?」



壁に触れているはずのサツキの右手が触れていたのは恐らく電気のスイッチ。

しっかり固定されているわけではなく、壁を伝って天井から吊り下げられているだけのようだった。

そしてその導線が繋がっている先は、私たちが今進もうとしていた先へと続いており、一定間隔で電球が取り付けられている。

いきなり先が見えるようになったのは、サツキが偶然にも電球のスイッチを入れたおかげみたいだけど・・・。



「なんだ電気があったんだ。この電球ちっちゃいし汚れすぎてて懐中電灯で照らしても気づかなかったね。・・・ってお母さんどうしたの?」



気づけば私は通路から吊り下げられている電球を呆然と見つめていた。

サツキは今の便利な生活が当たり前になっているから気づかなかったかもしれないけど、今私が考えていることなんて一つしかない。



「なんで電気が来ているの・・・?」


「え・・・?あっそうか!この家って・・・!」



そうだ、この家には電気が通っていない。

だからこそ洗濯するにも食べ物を冷やすにも川の水で何とかしていたし、明かりを確保するにもロウソクが必要だった。

実際に今も姉さんはそうやって生活している。



「はぁ・・・ますますわかんなくなってきた・・・」



電気の件は姉さんに訊いても「わからない」って言われるに決まっている。

ここに電気が通っていることがわかっていればわざわざあんな不便な生活を送る必要なんてないし、地下にこんな洞窟があることを知らない時点で返答はわかり切っていることだ。


だったらこんなところで油を売っていないで、上で待っている姉さんを心配させないように一刻も早く戻ってあげないと。




そのためには魔力の発生源が何なのか、それを確認するためにも今は先に進まないといけない。


一つため息をついた後、この状況で必要ではなくなったライトをポケットにしまってサツキと共に歩き始めた。

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