ここ一人用です
―タチバナ ヤヨイ―
「あれ?もう食べ終わったんだね。もう少し作ろうか?」
「ううん大丈夫。私は元から少食だから。この人ももうお腹いっぱいだと思うし」
あれから二人分のお粥を姉さんたちに持って行った後、台所に戻って自分たちの分を作った。
作ったと言っても野菜を切って肉を炒めてお粥の隣で炊いていた米を並べただけのシンプルなものだったのだけど。
姉さんたちの様子を見に部屋に来るとすでに器は空になっていた。
自分の意志では腕一本動かせそうにない人間にご飯を食べさせるというのは至難の業なはずなのに。
それをこの短時間でこなしているところを見るとどれだけ長い期間この介護生活を続けているのかなんて想像に難くない。
私が思うにすでに20年以上はこの状態なんだろう。
今日この家に来て初めてこの人の状態を見たときの既視感。
幼いころ私が助けを求めに来たあの時の光景。
体を揺さぶっても近くで泣き叫んでも無反応だった。
当時の私の目にはただ単に自分の娘に対してなんの興味も抱いていないだけのように見えていた。
原因はわからないけどその頃からすでにほぼ植物人間状態だったのではないか。
それを知るためにも・・・
「あぁそうだ。さっきサツキと話し合って明日もここに泊まってくことにしたから。大丈夫だよね?」
「え、えぇ。それはもちろん・・・」
「じゃあそうするね。とりあえず今日のところはゆっくり休んで。隣の部屋を借りて寝るから何かあったら呼んで」
色々聞きたいことはあるけどそれは明日にしよう。
今は少しでも早く休んでもらいたい。
というわけでサツキが待ってることだし早いところこの部屋を出ることにしますか。
振り返りさっき入ってきた襖に手をかけ顔だけを背後にいる姉さんの方を向けて・・・
「・・・姉さん今までごめんね・・・」
「・・・え?今なんて・・・」
聞こえたかどうかもわからない謝罪をした後、部屋を出て後ろ手で襖を閉めてサツキの元へと向かった。
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「湯加減はどうですかー?」
「ん。いい感じかな」
私たちも半日の移動で疲れていたのだけど寝る前にやり残したことがあった。
それはなにかというと入浴なのだけどもちろんここにはスイッチ一つでお湯を沸かしたり、赤い印が付いている蛇口をひねるとお湯が出てきたりするハイテク機能は備わっていないので火を起こして湯加減を調節することになり、今は私が薪をくべていた。
そしてもう湯加減いい感じってことは・・・
「よいしょっと・・・」
「え・・・お母さんなんで服脱いでるの・・・?」
「なんでって・・・お母さんも入ろうかなーって」
「ここに!?二人で!?ちょ、ちょっと待ってあと30秒。いや15秒で出るから・・・!」
「そんな早くあがったら湯冷めしちゃうよ。それにほら、詰めたらなんとか入れるし」
「無理して一緒に入ることないよね!?」
すでにサツキはお風呂の縁に手をかけて湯船から出ようとしていた。
ここまで嫌がられるなんてやっぱりちょっと嫌われてしまったんだろうか・・・。
「そ、そうだよね・・・。ごめんね無理言って・・・。火はお母さんが見てるからもう少しゆっくり入ってていいよ」
「う・・・。い、いやまぁ無理ってわけじゃないけど・・・」
「でもやっぱり狭くなっちゃうもんね。お母さんのことなら気にしなくて大丈夫だから」
「そんな言い方されたら逆に気になるって・・・。ほら、こうやって隅に寄ればギリギリ行けると思うから」
「・・・いいの?」
「どうぞ。早くしないとのぼせちゃうよ」
「じゃ、じゃあ・・・!」
「んぐお!?なにこれすごい身動きとれない・・・!」
「んー。あったかーい」
こうして二人で体を密着させつつお風呂に入った。
でもサツキがのぼせるといけないので早めにあがることにしよう。
その後は部屋に戻ってすでに用意してある布団に入って寝る。
サツキも一緒の部屋で寝るので久々に抱き着いたまま寝てみようか。
いい夢が見れるかもしれない。
これから起きる真夜中の死闘なんて知る由もなく、のんきにそんなことを考えていた。




