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専業主婦になります!  作者: まとまと
第二章 イツキ家の悲劇
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明日の準備

―タチバナ サツキ―



「これが私が6歳の頃のお話」



話し終えたお母さんの表情は、辛い日々を思い出したせいかとても疲れた様子だった。

隣にいたナツさんが途中で口出ししてこなかったということは全て事実ということになる。

一年間暴力を振るわれ続けたことや父親から存在しないものとされていたこと、そして能力を発症した瞬間のこと。

そのナツさんも終始つらい表情をしていたことは言うまでもないけど、特に様子がおかしいと思ったのはお母さんの父親、つまりわたしのお爺ちゃんの話が出たときだった。

肩を震わせ両手で口を覆い、何か考え事をしているのか両目をかたく瞑っているその様子は普段の大人びた雰囲気とはかけ離れており、まるで何かにおびえる子供の様だった。



「そんな泣きそうな顔しないで。もう終わったことだから」



気づけばお母さんは普段の笑顔に戻っており、わたしの頭を撫でていた。

わたしはお母さんの顔を見上げ、口を開こうとした。


「なに?どうしたの?」


「な、なんでもないよ」


あんな話を聞いたのになんでもないわけがないし、訊きたいことなんていくらでもあった。

でも無理だった。

せっかく普段通りのお母さんに戻ってくれたのに、また掘り返すような真似はしたくなかった。

それに何より、また話し始める前のお母さんの表情に戻ってしまうのではないか、今はそれが一番怖い。


「な、なんかお通夜みたいな雰囲気になっちゃった・・・。そろそろ軽く明日の用意をして寝る準備しよっか。明日早めに出るでしょ?」


「そうね。始発の電車に乗らなきゃ到着するの夜になっちゃうかもしれないわ」


「了解。早起きなら大得意だからね。ね、サツキ」


「う、うん任せて。日課の成果を見せる時が来たね」


それまでの重苦しくなっていた場の空気を少しでも明るくしようとしていたお母さんにわたしも乗っかった。

多少顔が引きつっていたかもしれないけどわたしにはそれくらいしかできない。




そして結局この日、わたしが抱いたいくつもの疑問が解消されることはなかった。




それからキャリーバッグに明日持っていく着替えを詰め込んで寝る準備をした。

就寝時間にしては少し早いけど、明日は早起きしなければいけない上に長旅になるのだからそろそろ休むことにしよう。

ちなみにナツさんはお母さんの部屋で一緒に寝ることにしたらしい。


「あ・・・そうだ」


ベッドで寝そべっていたわたしは頭の辺りに置いてあったケータイを取って電話を掛けた。

すると数回の呼び出し音が鳴った後に


「もしもし、どうしたの?」


「あぁアオイ。今大丈夫?」


「うん。一時停止してるから大丈夫だよ」


ゲーム中であったか。


「えっとね、明日から2・3日お母さんの実家に行くことになったんだ」


「ヤヨイさんの?急だね。遠いの?」


「そうだね、電車で半日以上かかるみたい」


「遠っ!?ボクだったら途中で絶対寝ちゃうなぁ」


「あはは・・・」


「・・・」


「あれ?どうかした?」


いきなり黙ってしまったアオイに問いかけるとすぐに答えが返ってきた。


「どうかした?はこっちのセリフだよ。サツキ何かあったの?」


「え・・・?」


「明らかに様子が変だよ。ヤヨイさんの実家に行くことと何か関係してるの?」


隠しきれていなかった。

わたしは普段通りに話していたつもりだったのだけど親友からすればそんなことはお見通しだったみたい。

でもあの話をお母さんが知らないところで話すのは気が引けた。

他人に知られたくないからこそ今まで実の娘にすら話していないことだったのだから。


「実はお爺ちゃんの体調が悪くなっちゃったみたいで心配になって」


「あぁそのお見舞いに行くってことなんだね。・・・そっか」


「うん。・・・心配してくれてありがとう。じゃあ明日も早いしそろそろ寝るよ。中学校頑張ってね」


「どういたしまして。サツキの方こそ気を付けて。道に迷わないようにね」


「だ、大丈夫だよお母さんじゃあるまいし。じゃあおやすみ」


そう言って電話を切った。

それにしてもわたしってそんなにわかりやすいんだろうか。

それともアオイが鋭いだけなのか。

どちらにせよ次にかける電話の相手には悟られないようにしよう。


「もしもし」


「こんばんは。電話かけてきたのお母さんじゃなくてごめんね」


「いきなり何言ってるの!?」


アオイならともかくマモルに元気ないねとか指摘されたらなんとなくムカつ・・・いや悔しい。


「それは置いといて」


「置いとくんだ!?相変わらずマイペースだね・・・」


「わたしマイペースなんて初めて言われたんだけど」


「いやいや僕からしたら十二分にマイペースなんだけど・・・。えっもしかして要件それだけ?」


「違う違う。実はね・・・明日から3日間くらいお母さんの実家に行くんだ・・・。連れていけなくて・・・本当にごめん・・・」


「いや飲食店に入る時に仕方なく外のポールに繋がれている犬か何かか僕は。そもそも行きたいなんて一言も言ってないし」


「ちゃんとお土産は持って帰るからね・・・。土とか」


「甲子園か!ていうかさっきから全くこっちの話聞いてないよね」


「お詫びに今度お母さんの寝顔を撮って送ってあげるからね」


「・・・えっ・・・?」


「なんか最後だけ反応生々しいな!とりあえず明日から少しの間家にいないから一緒に特訓できません!ごめんね!帰ってきたらまた連絡するから!じゃあおやすみ!」


「あぁ了解。気を付け(ブチッ



マモルが言い終わる前に勢いで電話を切ってしまった。


それからすぐにケータイの電源を切って枕元に置こうとしたけど、真っ暗になった画面に映る自分と目が合った。



「え・・・」



笑っていた。

数分前のわたしの心境からしたら考えられないことだけど、どうやらあの二人と話すことで気が紛れたらしい。



「明日からは・・・わたしがちゃんとしないと」



原因はわからないけどナツさんはお疲れの様子だし、お母さんはまた辛いことを思い出してしまうかもしれない。

二人から元気をもらったわたしはそう決意した。







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