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専業主婦になります!  作者: まとまと
第一章 これが専業主婦の日常
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あの日から十数年

―タチバナ サツキ―



ピピピピピ



わたしはケータイにセットしていた目覚ましの音で起き、時間を確認した。

まだ7時前で小学生が登校するには少し早い時間だけど今日は日直なのでこの時間にセットした。


2階にある自分の部屋から出てリビングに向かう途中、化粧台とにらめっこしているお母さんの姿があったので朝の挨拶がてら声をかけた。


「お母さんおはよう。ところでなにしてるの?」

「なにって・・・今日授業参観でしょ?」

「午後からだって何度言ったらわかるの!?」


化粧台といっても化粧セットなるものは一切ない。

あるのはドライヤーと櫛ぐらいなものだった。


お母さんは両手に持った手鏡と、全身が映る化粧台の鏡を使って四方八方から髪のチェックをしている。

たぶん放っておいたら授業参観までの半日を髪のセットだけに費やす。

手入れが必要なのはわかるけどそれにしても時間をかけすぎだった。

そんなにきれいな長い黒髪なのになにを気にする必要があるのか。

ちなみにわたしにはセット前と後の違いが全く分からない。


わたしの髪の色も黒と言えば黒とも言えなくもないけど、どちらかというと茶髪に近い。

お母さんの髪の色とは少し違う。

数年前、わたしはそれが気になってお母さんに軽い気持ちで聞いてみた。


「ねえおかあさん」

「ん?どうしたの?」


わたしは抱きかかえられながら問いかけた。


「おかあさんとわたしの髪の色少し違うけど、わたしはおかあさんの本当の子供じゃないの?」


お母さんの体だけ時間が凍り付いたようだった。

よく見ると両目からなにやら液体がツツーと・・・

次の瞬間


「うわああああああああああああああああん!なんでそんなごど言うのおおおおおおおおお!!」


わたしを抱き寄せながら泣き出してしまった。

当時幼稚園児だったわたしもそれにつられて一緒に泣き出してしまい、わたしたち二人を泣き止ませるのに苦労したというのがお父さん談。


髪の色についてはうやむやになってしまったけどまた号泣されても困るのでその件については触れないようにしている。


ちなみにそんな苦労人なお父さんは現在単身赴任中。

もう3年も顔を合わせていない。



テーブルに着くと朝食が用意されていた。

ご飯と目玉焼きとみそしる。


「いただきます」


食べようとしたらお母さんが正面の椅子に座りながら話しかけてきた。


「ねえねえ。サツキの席ってどの辺なの?」

「ベランダ側の一番前の席から出席番号順で座ってるからわたしだと教室の真ん中の列の・・・というか人数そんなに多くないからすぐにわかると思うけど」


生徒の数は20人。

わたしの出席番号は10番。

縦に4人、横に5人という形だったので少し横長になっている。


「席をきいておかないとわたしを見つけられないんだね」


少し意地悪してみた。

するとお母さんは「うっ」と少しうめいたような声を出した後に


「たぶん目をつむってても匂いでわかるよ」


ちょっと引いた。



登校する時間になりわたしが玄関へ向かおうとするとお母さんが後ろからついてきた。


「忘れ物はない?道に迷っちゃだめだよ。あとは・・・知らない人について行ったりしたら・・・」

「それお母さんでしょ」


言い終わる前に反論した。


「出かけるときにケータイ忘れるし」

「・・・」

「届け物しようと学校に来るとき、近道とか言って全く違う方向に行っちゃって結局学校に着いたの3時間後だったし」

「ちょ、ちょっと待って」

「方向音痴なのに道を聞かれてついて行って一緒に迷子になるし」

「ごめん!あやまるからもうやめて!」


見るとお母さんは両手で顔を覆ってしゃがみ込んでしまっている。

少し言い過ぎただろうか。


「お母さんこそ道に迷わないようにね」

「ケータイあるから大丈夫・・・大丈夫・・・」


ボソボソと念仏でも唱えているのか。

というかまだ道覚えてないんかい。


「教室は6-Bだからね」

「6-B・・・6-B・・・」


念仏の内容がわたしのクラス名に変わった。


「じゃあ行ってきます」

「ろくのびー」


明らかにイントネーションがおかしかったけどたぶんいってらっしゃいって言おうとしたのだろう。

わたしはそのまま家をあとにした。

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