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専業主婦になります!  作者: まとまと
第一章 これが専業主婦の日常
25/44

やりすぎ注意

―タチバナ ヤヨイ―


サツキとアオイちゃんがランニングから帰ってくるのを待ちながらテレビでニュースを見ていた。

占いや天気予報、恒例の短編アニメ。

興味のあるものしか記憶に残らないのでそれ以外は適当に聞き流していると昨日の生徒暴行事件が取り上げられていた。

ほんの数十秒だけ。

内容は「男性教師によるしつけの行き過ぎ」

そして他の教師は口を揃えて言ったそうだ。


「普段はあんな人ではなかったのに」


この件に全く関わっていない人間からしたら「あぁ、そんなことがあったのか」で終わり。

話題に上がったとしても数秒ももたない会話になるんじゃないだろうか。


結局魔薬なんて単語は一言も出てこなかった。

サツキとアオイちゃんから聞いた話や状況からして十中八九中毒者なんだろうけど。

ニュースで全く取り上げられないということは意図的に魔薬の存在を隠しているのか、それとも単なる私の思い違いか。




「「ただいまー」」


考え込んでいると二人が帰ってきた。

まぁここでいくら考えても答えが出るわけがないし、なんだかんだで私は現団長のことを信頼している。

その団長が何かわかったら教えてくれると言ったのでとりあえず待っておくことにしよう。


「おかえり、水筒洗っておくからね」


「うん、ありがとう」


空になった水筒を受け取ると二人はそのままいつものようにお風呂へ・・・行かずに二階に上がっていた。

どうしたんだろう。

水筒を洗うために台所へ向かうとすぐに降りてきてお風呂に入っていった。

二階に上がるときに持っていたビニール袋を今は持っていないところを見ると一度それを置きに行ったんだろうか。




それにしても・・・

明日からついにサツキも正式に団員になるのか。

いったいどんな任務に就くことになるんだろう。



20年以上も前。

私が入団して一番最初に行った任務はいきなり魔物退治だった。

あの時は犬型の魔物と戦った。

牙や爪が異常に発達し、目が真っ赤に充血して息が荒くなっていたそいつらは迷うことなく私たちに襲い掛かってきた。

そんな魔物とたった二人で戦ったんだ。

それまで戦うことはもちろん、刃物を握ったことすらなかったのにいきなり目の前の敵を倒せと言われてもまともに動けるはずもなく私ももう一人の子も傷だらけになった。


『死にたくない』


私はその一心で名前をつけたばかりの刀を振るって自分の身を守った。

その時はもう一人の子のおかげでなんとか死なずに済んだのだけど。




でも今のサツキは初任務に就いた時の私より何倍も、いや何十倍も強い。

その上、以前とは時代が違う。

魔物は駆逐され続け、その数は激減した。

今の時代の子供の中には魔物の存在を信じない子すらいるかもしれないというレベルで。

それに警備団自体も変わった。

いきなり無茶な任務に就くようなことはないとは思うけど・・・。




ってだめだだめだ。


「前に進もうとしている娘の邪魔をするなんて私にはできない」


確かにあの時私はそう言った。

だったら心配ばかりしてないでちゃんと応援してあげないと。

これからの私の仕事は疲れて帰ってきた娘をきちんと癒してあげること。

美味しい料理を作ったり良い湯加減のお風呂を用意したり、時にはマッサージもやってあげよう。



なんたって私は主婦なのだから。



ただ、仮にサツキが傷ついて帰ってきたとき、その原因を作ったやつをボコボコにしてやるための準備運動くらいは毎日やっておいてもいいかもしれない。





--------------------



時刻は午後7時。

私が夕飯の後片付けをしているとアオイちゃんが段ボール箱をテレビ前のテーブルに置いていた。

またテレビを見ながら内職かな?


アオイちゃんの仕事スピードはかなりものでさすがベテランと言えるものだった。

なんで右手と左手で全く違う動きが出来るんだろう。

ちなみに私も手伝うことはしばしばあるのだけど三人の中で私が一番遅い。

それが悔しくて急いでやるととどうしても仕上がりが悪くなってしまうので一つ一つ丁寧に亀が歩くような速度でやるしかなかった。




「ねえお母さん」


「ん?どうしたの?」


サツキがいつの間にかキッチンのカウンターの向こうに立って話しかけてきた。



「DVD借りてきたから一緒に見よ」



満面の笑みだった。

そんなことわざわざ言われなくても可愛い娘が持ってきたものなんだから嫌って言われても一緒に見る・・・なんていう考えは一瞬にして砕け散った。



テレビの画面に映し出されたタイトルはなんだか輪っかっぽい名前をしたものだった。








いやいやホラーやん!

どっからどう見てもホラーやん!




いくらこの手の映画を見ない私でも名前くらいは知っている。

あれでしょ!?

髪の長い女の人がテレビで呪われて井戸が飛び出してきてダビングしないとビデオが殺されるやつでしょ!?





・・・あれなんか違う気がするな。



とにかくグロテスク方面のホラー映画だったら大丈夫なのだけどこっちの耐性は全然だった。



「布団が呼んでいる気がする・・・」


そう言って二階に上がろうとしたら


「・・・」


サツキに服を掴まれていた。



あぁそんな!

捨てられそうな子犬みたいな目をしないで!

そんな上目遣いで私のことを見ないで!



「わ、わかった・・・わかったからね・・・」



とりあえずトイレを先に済ませておこう。

長い夜になりそうだった・・・



--------------------



「ヒッ・・・!?」



度々あるびっくりポイントでもれなく小さな悲鳴を上げている私は少しでも気を紛らわせるために内職を手伝っていた。

サツキと私が厚紙を折る役でアオイちゃんが輪ゴムでまとめて箱詰めする役。

肩がビクンと揺れるタイミングで手元が狂うのですでに何枚もダメにしてしまっていた。

まだ予備があるので大丈夫なのだけど。

だったらまとめて箱詰めする役をやればいいのではないか、そう思うかもしれないけど私がそっちに回ると遅すぎて折った厚紙が山のように溜まっていってしまったので仕方なくこっちになった。



それにしてもなんでわざわざホラー映画を借りてきたんだろう。

てっきりアクション要素が多いアニメとかのDVDだと思っていたのに。

そしてさっきからサツキは手元に集中しながらも平気な顔をしてテレビ画面を見ている。

アオイちゃんに至っては手元を全く見ずに食い入るように輪っかの映画を見ていた。

それでも手は私の何倍ものスピードで動いている。


はは・・・そんな速度で動く手の方がよっぽどホラーっぽいね!


少しでも映画から気を逸らそうと苦し紛れにそんなことを考えていた。






次の瞬間・・・






「あ・・・え・・・え・・・?」





電気が消えた。





「ちょ・・・ちょっと・・・ねえ・・・」






そして・・・




ブツッ。




テレビの電源が切れた。




「ねえ・・・やめてよ・・・」




カーテンが閉まっているため外の街灯の光も入ってこず、テレビ画面の明るさも消えた今、部屋の中は本当に真っ暗だった。




「ふ、二人がやってるんでしょ・・・?わかってるんだからね・・・」




きっとリモコンで電源を落としたに違いない。

そうわかってはいてもやっぱり怖いものは怖い。

そして次に起こった出来事は微かにつないでいた私の意識を一時的に断ち切るには十分だった。






ガタガタガタカランカランガチャガチャ!!!!





二人は隣にいるにも関わらず背後で何かが崩れ落ちる音がした。




も・・・




もう・・・




だめ・・・




バタリ








「あはは、びっくりした?って、アオイ電気電気」


「あぁごめん、今付けるね」


「うわ、まぶしっ。ってあれ」


「ヤ、ヤヨイさん・・・?」


「ちょ、ちょっとやりすぎた・・・。ねえお母さん起きて」



ユサユサ



「お、お母さん・・・?」



ユサユサユサ



「ねえってば・・・」



ペチペチ



「・・・んっ・・・?」


「あぁ起きた。ごめんね、ちょっとやりすぎた」


「ごめんなさい・・・」


「・・・」


「ご、ごめんって・・・。もうしないから・・・」


「・・・」


「な、何か言ってよ・・・」


「・・・」


「ヤヨイさん・・・どこ見てるんですか・・・?」


「・・・」


「う、後ろ・・・?何もないけど・・・」


「・・・」


「目が変だよ・・・。口も開きっぱなしだし・・・。ひょっとしてショックが大きすぎたんじゃ・・・」


「う、うそでしょ・・・ねえお母さん。変な冗談はやめてよ・・・」


「救急車呼んだ方がいいよね・・・」


「うっ・・・ぐすっ・・・ねえお母さんってば!!」


「ふぇ・・・うぅ・・・」




あらら泣き出しちゃったか。

しょうがないからこの辺で勘弁してあげますか。



「はぁ・・・まったくもう・・・」


「お母さん!?もう大丈夫なの!?」



正直危なかったけど。



「うん大丈夫。それよりももうこんなことしない?」


「し、しない!ごめんなさいお母さん!」


「ごめんなさい!」



二人が覆いかぶさるようにして抱き着いてきた。



「もう・・・ちょっとした悪戯ならいいけど本当に人が嫌がってるなーって思ったことはやっちゃだめだよ?」


「「はい・・・」」





あぁ・・・!!

少し落ち込んでいる表情もなんて可愛いの・・・!?



・・・ってあぶないあぶない。



「でもヤヨイさん。もう大丈夫なんですか・・・?さっきの顔とても演技とは思えなかったんですけど・・・」


「え?あぁ大丈夫大丈夫。ああいう顔するの慣れてるから」


「え・・・?」


おっとしまった。


「ご、ごめん今の忘れて。とにかくさっきのはわざとやってたから・・・。それにしても二人とも。なんでこんなことやったの?」


今までこんなことしてきたことなかったのに・・・。

話題をそらすという意味も含めて聞いてみた。



「お、お母さんのびっくりしてる姿が可愛いから見たいなって・・・ごめんなさい・・・」


「親に向かって可愛いって・・・あなたね・・・」



自分の頬が不覚にも紅潮していくのが分かった。

幸い二人とも俯いて私の顔を見ていないので気づかれてはいないけど。

私はテーブルの上に置かれていたテレビのリモコンを手にして電源を入れた。



「はぁ・・・お母さんもう怒ってないからそんなに落ち込まないで。さっきの続き見よっか」


「え・・・いいの・・・?」


「せっかくサツキが借りてきたものだしちゃんと最後まで見ないとね。でもね・・・」


これだけはちゃんと言っておかないといけない。

それは・・・



「次何かやったら酷いからね」


「「は、はい」」



真顔で脅しをかけておいた。


こうして三人はさっきよりも近くに寄り添って手を動かしながら映画を見た。



ちなみにさっき背後で何かが崩れた音の正体はサツキが水無月をつっかえ棒にしてタイミングをみて吸収し、わざと本やら空き缶が崩れるようにセッティングしていたらしい。

せっかくのプレゼントをそんな風に使うんじゃありません。



良くも悪くもサツキは召喚能力を使いこなしていた。



・・・いや、今回の件は完全に悪い方か。

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