魔物
―タチバナ ヤヨイ―
「ねえ・・・なにこれ」
私は本部の団長室まで押しかけて、ジンに屋上で撮った写真を見せていた。
サツキが去った後、私を襲おうとした男の体を調べていた。
あの子が言うにはお腹の下辺りに何か仕込んでいるかもしれないということだったけど。
爆弾とかだったらどうしよう。
あの時私が殴ったところは普通に柔らかかったからもうちょっと下かな。
試しにへその辺りを軽くノックしてみた。
コンコン
確かに何かある。
「ちょっと失礼しますよ~・・・」
中に何があるのかを確かめるためにシャツを少しめくって確認してみると
「な・・・なによ・・・これ・・・」
へその辺りから中心にだいたい直径10cm程が黒ずんでおり、そこにあったのは明らかに人間の皮膚ではなかった。
しかも周りの皮膚と完全に一体化している。
恐る恐る触ってみると、表面はザラザラしていて木製のまな板でも撫でているかのような感触だった。
こんなのまるで・・・
「魔物みたいじゃない・・・」
魔物というのは自らの持つ魔力に体が耐えられなくなり突然変異を起こして体の一部が肥大化したり、牙や骨が異常に発達した動物の成れの果てのことを言う。
そして共通して言えることは次第に自我をなくしていき、最終的には見境なく目の前の者を襲う人類の敵になる・・・というのが私が所属していたころの警備団の教えだったけどそれは間違い。
確かにほとんどの魔物は人を襲う危険な存在。
でも中には攻撃的な変異ではなく、知性を身に着け人間とコミュニケーションをかわすことができるようになる魔物がいることを私は知っている。
まぁそんな魔物に遭遇するのは本当に稀なんだけど。
ただ、今までいろんな魔物を見てきた私でも人間がこのように変異しているのは初めて見た。
ジンは私のケータイに写った写真を目を細めながらずっと見ている。
何を考えているのだろう。
もしかして人間に起きる変異について何か心当たりが・・・
「ここからでは何が写っているのか見えないんだが」
「それならそうと早く言ってよ!」
確かに団長が座る席から5メートルは離れているであろう場所から見せようとした私も悪いけどそういうことはもっと早く言ってほしい。
「ほら」
ジンは机の上に置いたケータイをのぞき込んでいた。
「この写真をパソコンの方に移せるか?」
「え?まぁできるけど・・・」
私もそこまでパソコンとかに詳しい方ではないけどそれくらいならできる。
メールなどの必要最低限のことしかできないジンに変わって、メモリーカードを経由してデータを送ってあげた。
「このことは口外しないようにしてくれ。無用な混乱は避けたい」
「う、うん。わかった」
私だってその辺の人間に「あそこの教師いきなり生徒を襲いだして、おまけに体が突然変異を起こしているんです」なんて言いふらすつもりなんてない。
「お前の娘にもだぞ」
「え・・・団員にも言わないつもり?」
まだ正式ではないけどサツキだってもう内定はもらっているし団員同然のはずなのに。
「変な噂が独り歩きしだしたらどうするつもりだ。確かな情報が揃い次第お前にも知らせてやる。それまで・・・」
「おとなしくしとけって?はいはいわかりましたよ」
私は食い気味にそう言った。
まぁどうせそんなことだろうと思ったし。
「はぁ・・・まぁそんなにいじけるな」
「い、いじけてなんかない!子供扱いしないで!」
机の上に置いたケータイをかっさらうように取り、団長室を出ようと扉の方に向かう途中でジンに呼び止められた。
「2日後に本部へ来るよう娘に伝えてくれ」
たぶんそれまでには書類やらなにやら用意できているということだろう。
「・・・へーい」
なんかいいように使われているだけな気がする。
とりあえず何かわかったら教えてくれるらしいしこの場は引き下がってやろう。
私は不満たらたらを全面に出しながら団長室を出て自宅へと向かった。




