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専業主婦になります!  作者: まとまと
第一章 これが専業主婦の日常
20/44

ヤヨイの復讐

―タチバナ ヤヨイ―


現在時刻は午後17時。

すでにお店の前に並んでいる人もいたけど、開店時間ちょうどに来たおかげで待ち時間はなかった。

お店の中に入るなりテーブル席に案内され、私の隣にジン、正面にサツキでその隣にアオイちゃんが座る形となった。

食べ放題と飲み放題のコースを選び、ジンだけアルコール有り、他はソフトドリンクのみにした。


「あれ、お母さんお酒飲まないの?」


「あ、あー・・・。今日は飲まなくていいかなー」


最近あまり飲んでないのにいきなり飲み放題なんかに手を出すと、これまでの経験上調子に乗って飲みすぎてぶっ倒れかねない。



程なくして最初に注文した飲み物が来た。

ジンは生ビールでサツキとアオイちゃんはオレンジジュース、私は麦茶。


「じゃあサツキのテスト合格と・・・えーとなんだっけ?魔力人形の?不手際?の謝罪も含めてかんぱーい」


「「か、かんぱーい」」


ジンの分の挨拶も代わりにしてあげるとサツキとアオイちゃんは苦笑いしていた。

団長様は相変わらず無表情。


タッチパネル式の機械で適当に肉や野菜を注文した後にアオイちゃんがそわそわした様子でサツキに話しかけていた。


「ね、ねえねえサツキ」


「ん?」


「最後に決めたあの技って・・・」


あの技とは水無月の柄を蹴り上げた宙返りのことかな。


「ふっふっふ・・・。お母さんにもアオイにも内緒で練習していたのだよ」


得意気な顔でジュースを飲みながら話していた。

どうやらアオイちゃんと一緒にやっているゲームの技を真似てやってみたらしい。

こっそり練習していたとはいえ、誰かに教わるわけでもなくやってのけたところをみるとやはり夫の娘だなということを実感していた。


どや顔になっているサツキを愛おしく思いながら眺めていると珍しくジンが私に声をかけてきた。


「なにか訊きたいことがあるんじゃないのか」


まぁバレてるか。

確かに訊きたいことはあるけど返答の内容についてはあまり期待していない。

今まで何度も訊いてきたことなのだから。


「いつものやつ」


「進展はない」


「やっぱり?」


何を訊きたいのかというと、それは過去の警備団について。

私がまだ所属していたころはお世辞にも無条件で困っている人に手を差し伸べる正義の集団とは言い難かった。

戦う意思のない能力者も強制的に入団させられていたし、敵意のない魔物も見つけ次第問答無用で殺害されていた。

それでも「皆殺し」にしたいと思われるほど恨みを買った覚えはない。

高位能力者を妬んだり、他にも逆恨みの類で団に良くないイメージを抱いている人がいることはわかっているけど、それでもカワノがやったことや言ったことは度が過ぎていると思う。

あの少年が言っていることが本当なら私たちが知らないことが確かにあるはずだった。


「死んだ団長に訊くかカワノワタルの口を何とか割らせるしかないな」


前者は無理として現実的な方法はカワノに訊くことなのだろうけどこれが何を話しかけても全くの無反応。

かといって拷問するなんてことはできないし、そもそもジンが特にそういったことを嫌っている。

私も何度か会いに行ってるけど結果は同じだった。

あの少年なりの「いやがらせ」というやつだろうか。


一通りいつもの収穫のない話が終わったところで、すでにアオイちゃんが手際よくお肉を網の上にのせていた。


「サツキは今日の主役だし腕を怪我してるし・・・団長さんとヤヨイさんは年上ですので今日はボクがお肉を焼きますね」


と言ってくれていたけどそういうわけにもいかない。


「いや、私もやるよ。一人じゃ大変だよね」


私の隣に座っている巨人はその体格に見合った食欲をしているので、下手したら本当にアオイちゃんは肉を焼くだけで終わる可能性があった。

これでは食べ放題ではなく焼き放題になってしまう。




「・・・お?」


肉が焼けてきて取り皿に分けているとにんにくのホイル焼きがいつの間にか網の上に置いてあった。

ジンが頼んだのかな?

せっかくだし一つもらおう。


「私にんにくケッコー好きなんだよね」


今更口臭なんてきにするようなメンツでもないので迷いなく口の中に放り投げた。


「おい」


なんだろう。

俺が頼んだやつだから取るなーって言いたいのかな。

そんなけち臭いこと言わなくてもいいのに。




ガリッ




あれ、焼いたにんにくってもっと柔らかい物じゃなかったっけ。




「それ今入れたばかりの奴だぞ」


「――!!!」



か、辛っ!!?



「ほ、ほうひうほほははやふふぃっへほ!(そういうことは早く言ってよ!)」



口をあけっぱなしにしながらしゃべったせいでまともな言葉になっていない。

使っていないお皿に出してしまおうか。



「言う前に食べるからだ。あと、一度口に入れたものを出すなよ。みっともない」


「・・・う・・・」



エスパーかこの人は。

出すなと言われたら飲み込むしかないけどまだ喉を通る大きさじゃないので我慢して噛む必要がある。

ええいもうどうにでもなれ!!





ガリっ






「んー!!んーーーーーー!!!!」


無理無理やっぱり無理!

気づけばさっきまで楽しそうに話をしていたサツキとアオイちゃんもこっちを見ている。

サツキは呆れた顔で、アオイちゃんは心配そうな顔で。


「な、何か一緒に食べれば・・・あ!ご飯あるのでこれどうぞ!」


アオイちゃんは自分が食べていたご飯を差し出してきた。


「肉でにんにくを包んで噛めばマシになるんじゃない?」


今度はサツキが焼いた肉が入ったお皿を渡してきた。

少し大きめの肉を口に入れてできるだけにんにくを包んで周りにご飯を敷き詰めて・・・。

軽いお弁当が私の口の中で出来上がっていた。


二人の子供に助けられ、なんとか口の中にある物を胃に流し込むとジンをキッと睨みつけた。


「お、覚えてなさいよ・・・」


「・・・俺が悪いのか?」


興味なさげに私を見降ろしていた。

こうなったら絶対に仕返ししてやる!

なにかいい物はないだろうか・・・



「・・・ん?」



ユッケ・・・ユッケか。

ジンは昔から激辛料理を食べてもびくともしない。

普段から表情をめったに変えないこの人は何かを食べている時でももれなく無表情なので、辛い物が好きなのかそうでもないのかわからないけど、自分から注文して食べているところを見るとたぶん好きなはず。

・・・よし、これでいこう。

一緒に追加の肉や野菜を注文すると店員さんが持ってきてくれた。

その中にはユッケとスプーンと、あとは辛さを調節する真っ赤な特製ソースもあった。


「辛さはどれくらいにしますか?」


「あ、いえ。私がやりますので」


普段は店員さんに混ぜてもらうのだけど、今度は私がやる。

ユッケを受け取った私はそのまま混ぜて3分の1くらいの量になるまで食べた。

・・・うんおいしい。


なぜそのまま食べたのかというと、量を少なくしておかないと最終的に大量に残してしまう可能性があるということ、あとはあのままの量だったらソースを丸々一本分くらい消費してしまうかもしれず、それはさすがにお店側に悪いと思ったから。

なぜなら・・・。

今からこの食べかけのユッケをあり得ないくらい激辛にするからだ!

肉を焼く係の私が調理をしていても全く不自然じゃないし、辛いのが好きだったら必ず手を伸ばすはず。

辛党・・・なのかどうかわからないけど、辛い物が平気だと思っているこの人の限界を上回る辛さにしてそれを食べさせ、必ず復讐を成し遂げてみせる!


ジンの視線にユッケが入っていないことを確認しながら隙を見つつソースを追加してグチャグチャと混ぜ続けた。


・・・そろそろいいかな。


結局容器半分くらいのソースを消費してしまった。

でも肉がそもそも赤いので見た目はそこまで変わっていない。

よし、これをしれっとジンが取りやすい場所に置いておこう。



今度こそうまい具合に焼けたにんにくを食べながら機を待っていると、ジンがスプーンでユッケを自分のお皿に移していた。



・・・きた!



お箸でつまんで・・・口に入れた!噛んだ!そしてビールを飲んだ!



・・・。



・・・あれ?


顔色一つ変えていないところを見ると普通に美味しくいただかれたらしい。

まだ辛さが足りなかったのかな。


「あ、これ美味しそう。少しいただきますね」


うーん・・・唐辛子とかも追加で入れておいた方がよかったかな・・・って・・・え?


「だ、だめ!アオイちゃんそれ・・・!!」


「んぅ!?あれ、食べちゃダメでした・・・?」



・・・おや?

アオイちゃんの反応も普通だった。

汗一つ掻いていない。



「あぁいや、ごめんね。大丈夫。あ、もっと食べる?」



少しだけ私のお皿に取り分けてあとは全部アオイちゃんに渡した。

あのソースそこまで辛くないやつなのかな。

どれどれ・・・。



「もぐもぐ。ん・・・?」




え・・・





いや・・・





ちょっと・・・





これ・・・





「ん!?・・・・んんんんんにゃあああああああああああああああああああああああ!!!!!」



辛っ!!??

さっき食べたにんにくの完全上位互換の辛さが私の口の中を駆け巡っていた。



「あぁ・・!!はひ!ほぉぉぉ!はぁはぁはぁはぁはぁ!!!!」



あまりの辛さに口を閉じていられずに舌を出していた。

でも口呼吸するときの自分の息が舌に当たるだけでも激痛が走る。

もう辛いとかじゃなくて痛かった。



「え、えぇ!?あ、あの水!はいこれ水!」


アオイちゃんが焦った様子で私に水を渡してきた。

もう他に何も考える余裕がなかった私は水を受け取り流し込むようにして飲み込んだ。


「でもさ、辛いの食べた後に水飲むのって逆効果じゃなかった?」





サツキちゃん・・・





それほんと・・・?






「んあああああああああああああああ!!!!」



一瞬だけ和らいだと思ったけど本当に一瞬だけだった。




痛い痛い痛いイタイイタイイタイイタイ!!!




もうやだ仕返しとか考えてごめんなさいもうしないから誰か助けて!!



「しょうがないなぁ・・・あ、ヨーグルトがある。これ注文しておくからきたら食べてね。マシになると思うから」


「ご、ごめんなさい!ボク直接受け取りに行ってきます!」


サツキが注文した物をアオイちゃんが厨房に取りに行ってくれた。

二人ともありがとう・・・。



「はぁ・・・ん・・・はぁはぁ・・・はぁ・・・」



体温調整をする犬のごとく舌を出しっぱなしにしている私を横目に、ジンは黙々と肉を食べ続けている。

ちょっとは気にしてくれるとありがたいです・・・。



「持ってきました!口を開け・・・あぁもう開いてる。はいどうぞ!」


スプーンですくってくれたヨーグルトを口に入れ、舌や口の中に塗り込むようにくっつけた。


あぁ冷たい・・・気持ちいいなぁ・・・ふふふ・・・。






いやでもまだ辛いよ!

誰だこんなに辛くしたの!




「ん・・・あ・・・あー」


口を思いっきり開けて懇願した。

早く!

早くヨーグルトの追加を!



「え!ま、まだ!?は、はいどうぞ!」



傍から見ると完全に餌付けされているようにしか見えなかっただろうけど、今はそんなの気にしている場合じゃなかった。



そんなやりとりを数回繰り返してやっとマシになった。





私の一番の誤算は、ジンだけじゃなくアオイちゃんも辛いのが平気だったということ。

あの後私が渡したユッケを平気な顔をして完食していた。

今度うちにご飯を食べに来たときはハバネロソースでも用意してあげたほうが喜ぶかもしれない。




こうして私にとって一生ほどの長さに感じた死闘は終わりを告げた。

今回の件は奢ってもらう身でありながら仕返しなんて考えた私に対する天罰なんだと思うことにしよう。

あと食べ物で復讐しようとしてすみませんでした。


深く反省しております・・・。

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