専業主婦になります!
あの戦いから一年。
私は討滅作戦に参加したメンバー全員が受けることになっている健康診断の結果を聞くため、タツミと共に警備団本部まで足を運んでいた。
「それにしても警備団もだいぶ様変わりしたよね」
以前の警備団は能力を発症する可能性がある者は検査を受けさせ、その適正がある場合は問答無用で入団させられていた。
表向きは人々を守るための正義の集団として活動していたけど実際にはなんかもう面倒だから厄介な能力者は一つにまとめちゃえばいいや、という目的の方が強かった。
そのせいで変な連中が曲がり曲がった正義感でよくわからない組織を立ちあがてしまったのだけど。
彼は私の言葉に対して
「そうだな」
と、上の空のような返事しかしてくれない。
どうしたんだろう。お腹でもいたいのだろうか。
そうこうしているうちに先生が待つ部屋の前までやってきていた。
私はノックして部屋に・・・
入ろうかどうか迷っていた。
というより実際にはノックの時点で固まっていた。
「ほらほら早く入るぞ」
そう言って彼は勝手にノックしてしまった。
中からは「どうぞー」という声が聞こえてくる
まだ覚悟ができていないというのに!
ノックしてしまった手前、入らないわけにもいかないので私はできる限りゆっくりドアを開けて
「しつれいしま~す・・・」
まず顔をのぞき込ませるようにして少しずつ部屋の中に侵入していった。
私がなぜこんなにも嫌がっているのかというと、とりあえずこの先生のことが苦手だ。
眼鏡に白衣で私より少し年上でほかの女子からは人気があってその辺の医者よりも医者っぽい優しそうなお顔とは裏腹に、私に対してはすごく厳しい。
いつも私が部屋に入るときには眉間にしわを寄せ、ことあるごとにネチネチネチネチと
(ってあれ・・・?)
でも今日は雰囲気が違った。
なんていうか真顔だった。
しかし、心配して損したと思いながら椅子に座るなり先生の顔が豹変した。
これは・・・また怒られる!
「せんせ・・・?」
「なんでしょうか」
「先ほどまでの菩薩のようなご尊顔はいずこへ・・・」
先生はため息をついたあと
「あなたね・・・以前僕の顔を見るなり逃げ出したでしょ」
といった。
逃げました。
実際には「部屋を間違えましたー」と言い残して帰ろうとしたとたんに同僚に首根っこ掴まれて引き戻されました。
わざわざ私が逃げ出さないために表情を作っていたのかこの人は。
そんなことを考えていたら
「悪いことは言わないからこの仕事をやめてください」
私の表情は凍り付いた。
おそらく怪我の様子を見てからの判断だったのだろうけど納得いかなかった。
1年経った今はもう何不自由なく生活を送れるようになっているし、体の傷もほとんどのこっていない。
「私よりひどい怪我の人はいくらでもいたはずです!なんで私だけ!」
「あなたは力の使い方が滅茶苦茶すぎる!」
私は驚いていた。
いつもは眼鏡をいじりながら一定のトーンで攻めてくるだけなのに大声を張り上げるなんてこの人らしくなかった。
「骨折するほどの肉体強化を行ったり体にそんなものを詰め込んだり!」
「これだけはだめです!」
先生は一言「わかってますよ」と言い
「他にも、特にひどいのは―」
私が食い気味に反論した理由。
今体の、具体的に言うと背中に入っているもの、これだけは例え誰であっても奪うことは許さない。
「ちゃんときいていますか?」
私はハッとした。
ごめんなさいきいてませんでした。
「とにかく・・・あなたはもう少し周りの人間のことも考えるべきだ」
そう聞いて私は無意識で隣にいるタツミの方を向いていた。
彼もまたこちらを見ていたけどすぐに視線を落とし目をつむってしまった。
「お前の判断に任せる」ということだろう。
目をつむる前に彼の視線の先にあったもの。
私の顔よりも少し下の―。
私は自分のお腹を優しくさすって少し考えてから
「わかりました。私仕事辞めます。これからは―」
あまりにもあっさりしていたせいか先生はキョトンとしている。
私タチバナ ヤヨイは本日をもって
「専業主婦になります!」