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専業主婦になります!  作者: まとまと
第一章 これが専業主婦の日常
18/44

初めての実戦―その頃実況席では―

―タチバナ ヤヨイ―


30倍・・・?

なにそれ・・・。


サツキに向かって叫ぼうとした瞬間、すでにサツキは人形の攻撃を受けて吹き飛ばされていた。

私はマイクの前に座っているジンを押しのけるような形で叫んだ。


「サツキ!」


一瞬サツキがこちらをチラと見た。


「その人形には規定値の30倍の魔力が入ってる!そいつと戦っちゃダメ!早く逃げて!!」


するとサツキは少し何かを考えた後


「大丈夫、やらせて」



・・・え?今・・・なんて・・・?


「サ、サツキ・・・?」


その後のサツキはもうこちらには目もくれず、真剣に相手と対峙することだけを考えているようだった。



「何をしている。早く止めろ!」


今度はジンが先ほど入ってきた男性に向かって叫んでいた。


「そ、それが制御不能で・・・!」


魔力を注ぎ込みすぎたせいなのか、こちらからの制御が一切できないようになっているようだった。


「仕方ない、俺が・・・」


ジンが席を立とうとするのを私は止めていた。


「ちょ、ちょっと待って・・・」


サツキはまだ諦めていない。

あの子が諦めていないのにこっちが先に諦めてどうするの。



「待てとはどういうことだ」


「や・・・やらせてあげて・・・」


「なに?」


体の震えが止まらない。

正直今すぐ止めに入りたい。

でも・・・



「あの子はまだ諦めてない。だから・・・お願い」


少しの間ジンは私のことを黙って見ていた。

ふざけたことを言うなと言いたいのか、それとも自分の子供がどうなってもいいのかと言いたいのか。


「・・・後ろのスタッフルームに場内へ続く通路がある」


それだけ言ってサツキたちの方へ視線を戻した。


たぶん「止めたきゃ好きに止めろ」ということだと思う。

ありがとう・・・心の中でお礼を言った瞬間


「水無月!」


サツキは短刀を召喚していた。



「ほう?」



ジンは感心したように小さく呟いた。


「いつからだ」


「何が?」


「魔装召喚のことだ」


あ、あぁ特訓を始めたのはいつからだってことね。

相変わらず口数が少なくて意図をくみ取りづらい。


「うーん、10か月くらい前?ちょうどカワノ ワタルの件があった後くらいかな」


今の発言は余裕でアオイちゃんの耳にも入っているけど問題はない。

この子はすでにあの日起こったこと、自分の身に何があったのかを知っている。

私の左手の怪我を気にしたり、目が覚めてもあまり動揺していなかったことからわかるように、最初から最後まで完璧に洗脳されていたわけではなかった。

ある日アオイちゃんがうちに遊びに来た時に突然私の左手を両手で包み込むように握り、

「やっぱりこれ・・・料理で怪我したわけではないですよね。実はあの日のこと最近少しずつ思い出してるんです・・・。お願いです、話してくれませんか?」


いずれ自然とすべてを思い出して一人で抱え込むようなことがあってはいけないと思い、なるべくアオイちゃんを傷つけないように話した。

初めはショックを受けていたようだけど次第に落ち着きを取り戻していた。

そんな体験をしてもなお、今でもサツキと一緒にいてくれている。


サツキから聞いた話によるとカエデちゃんがあの日のことを思い出している様子は全くないとのことだった。

なぜこんな個人差が出たのかわからないけど、思い出さないに越したことはない。



ちなみにカワノ ワタルは今でも牢屋で元気にやっているそうだ。

がっつり皮肉だけど。



そんなことを考えながらも私はサツキからひと時も目を話さなかった。

最低ランクの人形がどれくらいの強さなのかをまず知らないので、それの30倍とか言われても想像できないけど、さっきの団員の慌てっぷりからしてかなり厄介な事態のはず。

それでもサツキは互角以上の戦いをしている。

攻撃をかわし、相手を打ち上げ助走をつけて蹴り飛ばし、短刀を投げて追撃していた。



「1年でこれか・・・」


投げた短刀を手元に戻している姿を見てジンがまた呟いた。

驚いているのも無理はない。

私はサツキに対して「Bランクは頑張ればその日のうちにできるようになる」と説明したけどあくまでそれは収納・召喚するだけの話。

ただそれだけ。

あのように遠隔で手元に戻したり、何か別のことをしながら召喚を行ったりする場合はわけが違う。

慣れるまでは能力を発動することだけに集中しないといけないはずなのに、あの子は息をするように当たり前にやっている。

しかも今までは実戦経験皆無、魔力の使い方も全く知らなかった小学校を卒業したばかりの子供が。



「なに?うちの子になんか文句でもある?」


「いや・・・召喚の適性はともかくとしてこれはアイツの血を濃く受け継いだなと思っただけだ」


「う、うるさい」


それくらい言われなくても私が一番よくわかってる。


ちなみに『アイツ』というのは私の夫のことで、この人が言いたいのはタツミは召喚の適性はEだけど、それ以外のことはそつなくこなす、いわゆる天才と呼ばれる類の人間でお前とは違うということだろう。

サツキも基本的に何でもできるタイプで、家事全般はもちろん、特にスポーツをやっているわけでもないのに運動もそこそこできる方だ。

そんなサツキのことを私は心の底から誇らしく思う。



私なんかとは大違いだ。



一年前のあの子は不審者相手に腰を抜かして涙を流し、洗脳に対しては頭を抱えて震えているだけだった。

ただ守られるだけの私のかわいい娘だった。

でも今はあのポーカーフェイスのジンが焦るほどの非常事態をものともせず勇敢に立ち向かっている。


もしかしたらもっと早くにこの道を示してあげるべきだったかもしれない。

あの子が今の強さを一年前に身に着けておけばあんな目に合わずに済んだかもしれない。


やはり私は間違っていたのだろうか・・・。



「ヤ、ヤヨイさん・・・?」



考え込んでいるとアオイちゃんが話しかけてきた。



「どうしたの?」


「あ、いえ・・・なんかその・・・つらそうな顔をしてたから」



また気を遣わせてしまったみたいだ。

全く・・・私は本当に・・・



「きっとサツキなら大丈夫ですよ!ほら!」



アオイちゃんはサツキの方を指差していた。

見るとサツキが人形の首筋に短刀を突き立てていた。



(決まった・・・!?)



しかし次の瞬間、人形は背後にいるサツキを左腕で殴り飛ばしていた。



「・・・!!」



私は口を手で押さえ叫びたくなるのを必死にこらえた。


やっぱり今すぐにでも止めたい・・・助けに入りたい。

私はいつのまにか自分の左手人差し指を噛んでいた。

血が出るんじゃないかというくらいに。

あんな痛みで表情を歪ませているサツキは見たくない。

一言「お母さん助けて」と言われれば迷いなく飛び込むだろう。


でももう一年前のあの子の姿はどこにもない。

目に涙を浮かべて私に助けを求めるあの子はもういないんだ。

今だって殴られた部分を押さえながらも立ち上がって相手をにらみつけている。



・・・?



今サツキが一瞬にやりと笑ったような気がしたのは気のせいだろうか?

ここからでは距離が遠すぎて確認しづらい。



人形はサツキに殴りかかっていたけどまたしゃがんで回避していた。

でもさっきとは回避した後の構えが少し違う・・・?

少し前かがみというか。


「あ、あれって・・・!」


アオイちゃんがなぜか目を輝かせていた。


え、なにどうしたの?


「くらえ!」


サツキは叫んだ瞬間その場でバク宙のような動きで短刀の柄を蹴り上げていた。



なにあれかっこいい。

いつの間にあんなことできるようになっていたのだろう。


「サ、サマソ・・・」


アオイちゃんがボソっと何か呟いていた。


さ、さま・・・・なに・・・?



とにかく見惚れてる場合じゃない。

ジンの両肩に手を置き私は攻めよっていた。


「もう合格でいいよね!?」


「あ、あぁ」



団長直々に合格通知をいただいたところで私はスタッフルームに駆け込み急いで場内に入った。



「サツキ!」


サツキは驚いたように目を見開いていた。

でももうそんなの関係ない。


「頑張ったね!痛いところとかはない?」


あまり触るとさっき殴られた場所に響くと思い加減して抱き着いた。


「だ、大丈夫。ありがとう」



ふと背後に気配を感じた。

・・・まだやるっての?

もうすでにサツキはテストに合格しているわけだからこの際もう関係ない。






今度は私が相手だ・・・!




「お、お母さん後ろ後ろ!」


「わかってる。安心して、すでに団長の口から合格だって言わせてきたから」


せっかくサツキといい雰囲気だったのに・・・。


「それにしても・・・親子感動の再開を邪魔するなんて・・・」


水を差すようなことをしてくれちゃって・・・。






・・・・許さない。






私は人形とすれ違う寸前に睦月を召喚し、そのまま振りぬき胴体を真っ二つにした。

正直あと3往復くらいして切り刻んでやろうかとも思ったけどあとで弁償しろとか言われても困るのでこのへんでやめておいた。






・・・あれ・・・。






・・・もしかしてもう手遅れ・・・?

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