初めての実戦
―タチバナ サツキ―
お母さんが聞いた話によると小学校を卒業して次の年度初めにいきなり入団テストを受けるのはわたしが初めてらしい。
つまりこれで合格できればわたしは史上最年少でテストに合格したことになる。
それだけに気合が入っていた。
ふとお母さんとの特訓の日々を思い出していた。
ある程度能力を使えるようになってからお母さんに実戦練習に付き合ってもらった。
お母さんは快く引き受けてくれたのだけど・・・
「さ、さあ。いいいいいつでもいいよ・・・!」
「・・・」
素人目から見てもへっぴり腰でとても練習どころじゃなかった
「やりづらっ!」
仕方ないのでわたしが一方的に攻撃することにした。
しかし何度攻撃してもかすりもしないどころか服に触れることすらできない。
わたしの手があと1センチでも大きければ当たっていたという場面が何回もあった。
そう、一回や二回ではなく何回も。
これは絶対に偶然なんかじゃない。
結局最後まで一度も触れることができずに終わってしまったけど、収穫もあった。
お母さんは毎回わたしが次どう行動してくるか事前にわかったように動いていた。
多分わたしの視線とか行動を起こす直前の動きから予測して動いていたのだと思う。
頭では理解できても実戦経験が皆無なわたしは体が動いてくれなかったのだけど。
「そろそろ始めるぞ」
わたしは団長に向かって頷いた。
っていうかやっぱりあの人が団長なんだよね。
以前お母さんの髪の話をしたときに見せてもらって写真に写っていた一番背の高い男の人が団長だったなんて。
あの時ツンツンだの友達になれそうにないだの思ってしまったことは一生胸の内にしまっておこう。
わたしが入ってきた扉の対面にある扉から人形が入っているであろう箱が運ばれてきた。
中央付近に置かれた箱がひとりでに開き、中から例の人形が姿を現した。
・・・どっからどうみてもマネキンだった。
・・・ん?
なんか実況席の方が騒がしいけどどうしたんだろう。
わたしがそちらに意識を向けているといきなり人形が走り出していた。
スタートの合図もなしなのか。
(っていうか思ったより速い!)
もうよけきれないと判断したわたしは防御することにした。
(右からくる・・・!)
相手の左足が振り上げられ、わたしの右側頭部に直撃する寸前に右腕でガードした。
「っい・・・・ぎ・・・・!」
ガードした腕が吹き飛ぶんじゃないかと錯覚するほどの衝撃を受け、そのまま数メートル吹き飛ばされていた。
わざとごろごろと地面を転がり相手との距離を離し、なんとか態勢を整えることができた。
「サツキ!!」
急にお母さんが実況席からわたしの名前を叫んでいた。
まったく心配性なんだから。
一回吹き飛ばされたくらいでそんなに叫ばなくてもいいのに・・・そんなことを考えていると
「その人形には規定値の30倍の魔力が入ってる!そいつと戦っちゃダメ!早く逃げて!!」
30倍・・・?
なんでまたそんなことになっているのだろう。
この人形を用意した人の手違いでそうなったのかな。
つまりこいつは単純にわたしが戦うはずだったやつより30倍強いということ?
でも・・・
「大丈夫、やらせて」
「サ、サツキ・・・?」
今の攻撃、見切れないほどじゃなかった。
たまたま実況席に意識が向いていて反応が遅れただけでちゃんと目の前の相手だけに集中すれば今のわたしでもいける。
腕試しにはちょうどいい。
わたしは気合を入れるために叫んだ。
「水無月!」
左手に愛刀を持ち、逆手に構え両足に意識を集中させて人形に向かって走り出した。
相手もこちらに向かってきている。
まずこちらから仕掛けるのではなく相手に行動させる。
むやみやたらに攻撃すると思わぬしっぺ返しをくらう可能性があったので相手の動きに合わせて行動しよう。
あの時のお母さんみたいに。
――今度は左!
また顔を狙ってきたのでしゃがんで回避した。
人形は空を切った勢いで横に回転してしまっている。
相手は今完全に空中にいて身動きが取れない状況。
今なら絶対に外さない。
両膝のバネを利用し小さくジャンプしながらアッパーの要領で刀を振り上げると、刀は相手の顎をとらえていた。
ガキン!
硬っ!?
この人形自体が固いのか注ぎ込まれた過剰な魔力のせいでそうなっているのかわからないけど刃が全く通らない。
それでもさっきのお返しと言わんばかりに相手は空中に大きく打ち上げられていた。
いける・・・!
斬撃がだめなら打撃でいくだけ。
あの時お母さんが不審者からわたしを救ってくれた時に見た蹴り。
あれを見よう見まねでやってみよう。
相手はまだ空中にいる。
一度バックステップで助走をするため距離を離した。
また両足に力を込め姿勢を低くし、落ちてくるタイミングを見計らってダッシュした。
「はああああああああああああああああ!」
人形の背中に蹴りが直撃し、体をくの字・・・いやつの字に曲げながら後方に飛んで行った。
さすがにお母さんがやったように下駄箱を粉砕するほどの威力はでなかったけど。
すかさず左手に持った短刀を相手に投げつける。
一応命中はしたのだけど・・・
ガキン!
そうなりますよね。
そうこうしているうちに人形は態勢を立て直し、またこちらに向かって走ってきている。
わたしははじかれた短刀を手元に戻して臨戦態勢をとった。
それにしても・・・これっていくら蹴り飛ばしてもきりがないのでは?
全く堪えている様子がない。
このままでは相手を倒す前にわたしの足がつぶれてしまう。
かといって刀で斬りつけても傷が少し入る程度ではじかれる。
・・・はじかれる・・・?
そういえば以前アオイにやらせてもらったゲームでモンスターを狩って素材を手に入れる~みたいなやつがあった。
その時わたしは「この相手って刀とかで斬りつけてもはじかれるのにはぎ取るときははじかれないのってなんで?」っていう突っ込んでいいのか悪いのか微妙なラインの質問をしたことがある。
「い、いや知らないけど・・・。たぶんあれじゃないかな。そのナイフがあり得ないほどの切れ味をしているとか、ちゃんとはぎ取れる場所にナイフを入れてるとか?はぎ取るときはもう相手は動いてないからやりやすいんじゃない?わかんないけど・・・」
重要なのは攻撃する部位。
見た感じ全身同じ素材でできてるっぽいので狙うなら関節部分。
そこに短刀を刺しこめばなんとかなるかもしれないけど、問題は相手が普通に動き回っているということ。
まずは動きを止めないとまだ刀の扱いに慣れていないわたしではピンポイントでそこを狙うのは難しい。
かといって都合よく罠なんて持っているわけがないし、いったいどうしたら・・・。
あたりを見回してもあるのは場内と観客席を隔てる強化ガラスと、その下にコンクリートの壁があるだけだった。
壁か・・・。
わたしは今度は人形に向かうのではなく横に走り出した。
人形の方が速いため、徐々にわたしとの距離は縮まっていく。
それでもなんとか追いつかれる前に壁の前までくることができた。
わたしに追いつくなり右腕でフックを仕掛けてきたのでギリギリまで引き付けて相手の左側、わたしから向かって右に回避した。
相手は豪快に今流行りの壁ドンをかます形になったのだけど、こんなのに壁ドンをやられても微塵も嬉しくない。
わたしはすかさず腕を横に大きく振り、勢いをつけて右足の蹴りを相手の後頭部にお見舞いした。
バコン!
うまいこと頭が少しだけ壁にめり込んだ。
左手に構えた水無月を相手の首筋に刺しこむといい感じに隙間に挟まった。
このまま上に思いっきり持ち上げればわたしの勝ちだ。
力を入れるべく柄を握りしめた瞬間、左わき腹に激痛が走った。
「う・・・ぐ・・・!?」
突然の出来事に受け身をとることすらできず吹き飛ばされてしまった。
なにがおこった・・・?
見ると人形の構えからして左腕で殴られたのが分かった。
ただ無理な体勢から攻撃したせいか左肩が外れて腕がプランプランしてしまっている。
お腹の痛みに慣れてきたころには相手も壁から頭を引っこ抜いており、また愚直に突進してきていた。
さっきまでとは少し状況が変わったことが二つある。
一つは相手の首に刀が刺さったままだということ。
もう一つはもう左腕が使い物になっていないこと。
さっきまではちゃんと両腕も使って人間の走りをしていたのに、今ではバランスがぐちゃぐちゃになったまま走っていることがそれを証明している。
そして刀が刺さっている部分がわたしにとって人形の唯一の弱点となった。
あそこに衝撃を与えることができればいけるかもしれない。
人形の身長はわたしより頭一つ分大きい。
この位置ならあれが使える。
お母さんにもアオイにも秘密で練習した『あれ』が。
人形は右腕を振りかぶりながら私に向かって襲い掛かってきていた。
あんな馬鹿正直に攻撃しますよと言わんばかりの突進だったら次の行動くらい簡単に予想できる。
またわたしの頭を狙った右腕のフックが飛んでくる。
・・・ちょうどいい。
予想通りの攻撃がとんできたのでまた身をかがめて回避。
(↓入力で溜めて・・・)
相手の左首筋に刺さっている水無月の柄に狙いを定めた。
(↑を押しながら蹴りを繰り出す)
アオイと一緒に格闘ゲームで遊んでた時にわたしが一目ぼれして使いまくってた対空技
「くらえ!」
――サマーソルト――
バキン!
衝撃に耐えられなかった首の関節は音を立てて折れ、首から上は気持ちいくらい上空に吹き飛んで行き、胴体の方は力なく項垂れた様子で動かなくなった。
これほど長時間魔力を使い続けたことがないのでこちらも限界だった。
さすがにまた動き出されたらもうどうしようもない。
「サツキ!」
スタッフ専用口からお母さんがこちらに向かって走ってきている。
なんであんなところから出てくるんだろう。
「頑張ったね!痛いところとかはない?」
お母さんがわたしのところにくるなり抱き着いてきた。
「だ、大丈夫。ありがとう」
あれ・・・お母さんの体、震えてる・・・?
心配性なんだから・・・って・・・ん・・・?
今、後ろの人形が動いたような・・・
やっぱり気のせいじゃない動いてる!!
「お、お母さん後ろ後ろ!!」
「わかってる」
そういうとお母さんはゆらりと立ち上がった。
「安心して、すでに団長の口から合格だって言わせてきたから」
言わせてきたって・・・
「それにしても・・・親子感動の再会を邪魔するなんて・・・」
・・・あれ?
お母さん怒ってる?
っていうか再会ってわたしが家を出てからまだそんなに時間経ってないよ。
お母さんは人形の方へ振り返り、一瞬腰を落としたかと思うといつのまにか人形の背後に移動していた。
右手にはいつ召喚したのか睦月を握っている。
お母さんの方に気を取られていたら人形の様子がおかしいことに気づいた。
立ったまま胴体が真っ二つになっている。
きっとすれ違いざまに斬りつけたのだろう。
わたしの刀と同じ素材でできているはずなのになんで斬れたんだろう。
魔力の使い方とか力の入れ方とかの問題なんだろうか。
やっぱりまだまだお母さんには適わないな。
少しハプニングはあったけどわたしは無事テストに合格することができ、警備団の一員となった。
まだ見習いだけどね。




