入団テスト
―タチバナ ヤヨイ―
ピンポーン
出かける準備をしていたらチャイムが鳴ったので、玄関のドアを開けるとそこにはブレザーの制服を着たアオイちゃんが立っていた。
「お、遅れてすみません」
走ってきたのだろうか、息を切らせて汗をかいてしまっている。
「まだ大丈夫だよ。サツキはさっき出て行ったばかりだし」
色々手続きがあるのでサツキは先に家を出ていた。
「それよりも制服似合ってるね」
髪は以前よりも少し伸びていて肩に届く程になっていた。
制服姿も相まって女の子らしさが増している気がする。
「あ、ありがとうございます・・・」
ふふふ、照れてる照れてる。
以前のようにやられっぱなしではないのだよ私も。
今日は中学校の入学式の日であると同時に、サツキが入団テストを受ける日でもあった。
なぜアオイちゃんが制服姿なのかというと、入学式が終わってその足でうちに来たからだった。
これから二人で一緒にサツキの応援をしに本部に行くところだ。
「よし、じゃあそろそろ行こっか」
本部へ向かう道中アオイちゃんが話しかけてきた。
「サツキ大丈夫でしょうか」
二人はもう名前で呼び合う仲になっていた。
ちなみに私のことも名前で呼んでくれている。
さん付ではあるけど。
どうやら私のことを『おばさん』と呼ぶのに抵抗があるらしく、かといって自分の子供と同い年の子に『お姉さん』と呼ばせるのもこっぱずかしかったので、じゃあ名前でということで落ち着いた。
「あの子ならきっと大丈夫だよ」
あの日以来、約1年ずっと特訓に打ち込んでいた。
今では召喚はある程度自分の物にしているし、強化も少しだけなら扱うこともできている。
「でもなんかこう・・・お人形と戦うんですよね?」
テストの内容は魔力人形と呼ばれるものと戦うことらしい。
いつの間にこんなものを作ったのかは知らないけど、どうやら魔力を注ぎ込むことで動く某関節駆動型フィギュアっぽい見た目をした1分の1サイズの人形があるという。
団長曰く、これの最低ランクにも勝てないようでは入団しても無駄死にするだけとのこと。
というわけでこの人形と戦って勝つことが合格基準になっている。
「大丈夫・・・あの子ならきっと」
自分に言い聞かせるようにして私はそうつぶやいた。
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本部に到着したのはいいけどまだ開始まで時間があるので食堂で軽くお昼をとることにした。
「ボクここに入っても大丈夫なんですか?完全に部外者ですけど」
「大丈夫大丈夫。えっとね・・・おすすめは・・・」
券売機の前でそんなことを話していると・・・
「おぉまた会ったな」
(嘘でしょ・・・)
私の苦手な例の人に話しかけられていた。
通称ハセガワタイムの始まりだった。
私が勝手にそう呼んでいるだけなんだけど。
というかここ最近本部に来るたびにエンカウントしている気がするんですけど。
さすがにここまでくると見張られてるんじゃないかという気さえしてくる。
この人は一般人並みの魔力しか持っていないので感知できないから厄介だった。
「あれ、その子は・・・二人目の子供かな?」
そんなわけないでしょ何歳の時の子供よ。
ていうかちょっとセクハラ染みてますよ。
心の中で一通りツッコミを入れたところで
「この子はサツキの友達で・・・」
「こ、こんにちは。アイザワ アオイっていいます」
少しだけ頭を下げて自己紹介していた。
そんな姿をハセガワさんはうんうんを頷きながら見ていたと思ったら何かに気づいたように挨拶もそこそこにどこかへ行ってしまった。
正直言うと助かった。
二人ともサンドウィッチの食券を買ってカウンターに持っていき、物を受け取ってテーブルに着くと、さっきどこかへ行ったはずのハセガワさんの怒鳴り声が聞こえてきた。
きっとまた誰かがとばっちりを受けているのだろう。
私には関係ない・・・。
なんてここで見て見ぬふりをしたら幼いころ私が嫌いだったあの人たちと同類になってしまう。
「アオイちゃんは先に食べてて」
私はそう言い残して怒鳴り声がしてくる方へ歩いていた。
「どうしたんですか?」
「あぁ君か・・・」
ハセガワさんは呆れたような声を出して私を見た後に正面にいる男性をにらみつけていた。
「こいつが俺に送るはずの報告書を間違って別の場所に送信したようでね」
「い、いやそれ自分じゃないと思いますけど・・・」
「口答えするな!」
もしかしてこの人、目に付いた人を片っ端から怒鳴りつけているのではないだろうか。
事情はよく知らないけどこのままじゃこの男性が少しかわいそうだった。
「あ、あの・・・私にできることがあったら力になりますけど・・・」
正直報告書が云々言われてもさっぱりだし、事情を把握していない私が言っても神経を逆なでしかねない発言だったような気がするけどこれくらいしか思い浮かばなかった。
「あぁありが・・・いや、やっぱりいい」
私の発言に毒気を抜かれたのかハセガワさんはその場から立ち去ってしまった。
それならそれで大助かりなのだけど。
男性の方はというと大きくため息をついていた。
「えーと・・・大丈夫ですか?」
「あ、はい。いつものことなので・・・。ありがとうございました」
この人の様子を見て思ったことがある。
昨今の団員不足はあの人が原因なんじゃないかって。
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私たちは食事を済ませて受付まで来ていた。
「サツキちゃんならさっき受付を済ませてもう入場しています。私も応援してますよ!」
受付嬢は小さくガッツポーズをとって元気な声で応援してくれていた。
急いで闘技場の観客席に入ると、実況席に見知った顔があったのでとりあえず入ってみよう。
「ちょ、ちょっとヤヨイさん・・・」
アオイちゃんに話しかけられる前にドアに手をかけていたのですでに部屋の中にいた。
すると強面の人間がめんどくさそうな顔をしてこちらを見ている。
普段から怖い顔が更に表情を歪ませているのでこの人のことを知らない人は裸足で逃げ出すような顔になってしまっている。
そんな強面の人間はガタイがよく、わたしよりも顔二つ分くらいでかいんじゃないかと思うほどで、私が事あるごとに報告するため電話している団長殿だった。
「お前は文字が読めないのか?」
「え、なに?」
「ヤヨイさん」
アオイちゃんが小声で話しかけてきた。
「ドアに関係者以外立ち入り禁止って・・・」
そこまで見てなかった。
「全く無関係ってわけじゃないからいいよね」
「いいわけないだろう」
「あ、あの!」
アオイちゃんが割って入るようにして口を開いていた。
「ボク、サツキの友達でアイザワ アオイって言います。ごめんなさい、出て行った方がいいですよね」
するとジンは一つため息をつき
「いや、いい」
「え、私はだめでこの子はいいの?」
「どっかの誰かさんとは違って礼儀を弁えているようだからな」
あ、そういうことか。
じゃあ私も。
「ごめんなさい。文字が地味すぎて読めませんでした。これからはもっと見やすくした方がいいですよ。だから私もここにいていいですか?」
「喧嘩売ってるのかお前は」
団長はだいぶお疲れの様子だった。
やっぱり人の上に立つ人間はいろいろ大変なのだろう。
「もういいから静かにしていろ」
許しを得たのでここにいることにしよう。
闘技場中央付近にいるサツキが「何やってるんだろうあの人たち」とでも言いたげな顔でこちらを見ているのは気のせいだろうか。
それにしても団長殿が直々に審査するというのはどういうことだろう。
これも団長の務めなのかそれともよほど暇なのか。
「そろそろ始めるぞ」
サツキはこちらを見ながら大きくうなずいていた。
すると人間が入るくらいの箱が場内に運び込まれてきた。
サツキの正面、だいたい5メートルくらい離れた位置にどさっと置かれ、箱の壁が四方に倒れるようにして開いた。
中から例の人形が姿を現した。
・・・今からあれとサツキが戦うのか・・・。
アオイちゃんにはああ言ったけど本当は不安だ。
そして、次に起こったことはその不安を何倍にも増長させるものだった。
「団長!」
「なんだ」
いきなりスタッフ用のドアが大きな音を立てて開いたかと思うと中から男性が慌てた様子で出てきた。
その男性は場内中央にある人形を指差しこう言った。
「あの魔力人形には・・・規定値の30倍の魔力が注ぎ込まれています!」
「なに!?」
さっきまで仏頂面だったらジンの顔が珍しく焦りの色に変わっていた。
っていうか30倍・・・?
なにそれ・・・。
私がサツキに向かって叫ぼうとした瞬間、すでに人形はサツキに向かって襲い掛かっていた。




