プロローグ
「この戦いが終わったら・・・聞いてほしいことがあるの」
この世界には大きく分けて二つの勢力がある。
一つは魔力を用いる能力者で形成され、魔物や天災などの危険から人々を守る「魔力警備団」。
もう一つは警備団の在り方に異を唱え、離反していった者達「リブラ」。
能力者の人権を守り、世界の均衡を取り戻すといった名目で立ち上げられたリブラという組織だったが、実際に行われていたのは自分たちの利益のためには手段を択ばないテロ行為そのものだった。
そして今、警備団はそのテロ組織を潰すための大規模な討滅作戦を実行していた。
その戦いも終わりを迎えようとしている。
夕暮れに照らされた荒野の中、リブラ隊員三人と対峙する黒い戦闘服に身を包む一人の少女の姿があった。
少女の名前は「イツキ ヤヨイ」。
腰まで届く白髪をなびかせながらヤヨイは念じた。
(来て・・・睦月。如月)
その瞬間、それまで素手だったはずのヤヨイの両手にはおよそ60cm前後の刀が一本ずつ握られていた。
(この先には絶対に行かせない)
ヤヨイは決死の覚悟といわんばかりの形相で3人に斬りかかっていった。
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「はぁはぁ・・・なんとか・・・なった・・・?」
1時間は戦っていただろうか。
なんとか敵の無力化には成功したようだがヤヨイの体はすでにボロボロだった。
右肩と左わき腹、右足には投擲用のナイフが突き刺さり、全身切り傷だらけで身動きが取れなくなってもおかしくないような状態でもなぜかヤヨイは動くことができている。
しかし、突然力尽きたようにあお向けに倒れてしまった。
(先に行かせたみんなは無事だろうか)
いわゆるここは任せて先に行けというやつだった。
最初は渋っていた仲間たちだったが、そこは持ち前の頑固さでなんとかした。
(この人たち起き上がってきたりしないよね・・・?)
などと心配していると遠くから人が走ってくるのが見えた。
あの人影は―。
「タツミだ・・・」
タチバナ タツミはヤヨイに駆け寄り、体の状態を確認してから声をかけた。
「おい無事・・・じゃないな、生きてるか!?」
「うん、一応・・・ほかのみんなは?」
問うとタツミは笑顔でうなずき
「もう全部終わったよ」
そう聞いて安心したのも束の間、実はヤヨイには他にも心配事があった。
「そこに転がってる人たちは生きてる?」
見るとリブラ隊員3人の状態はヤヨイよりもはるかにひどかった。
一人は両足をあらぬ方向へ曲げられ、もう一人は原型をとどめてないほど顔面が歪んでいる。
最後の一人に至っては片目がつぶれていた。
「生きてるよ。・・・たぶん」
(よかった。危うくあの子との約束を破るところだった)
「とりあえずここから離れるぞ」
そう言ってタツミはヤヨイを抱きかかえようとした。
しかし―。
「待って。戦いが終わったら聞いてほしいことがあるって言ったよね」
「今そんなこと言ってる場合じゃないだろ」
「お願い。大事なことなの」
そこで観念したのか小声でも聞き取れるくらいの距離まで顔を近づけた。
「はいどうぞ」
ヤヨイは一度深呼吸をしてから意を決して告げた。
「私と付き合ってくれませんか?」