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汚屋敷の跡取り  作者: 髙津 央
◆印歴2214年1月1日

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84.懇願

 オレは首を横に振って、マー君の足許に正座した。

 「家賃と食費はお支払いします。掃除と皿洗いもします。絶対、迷惑掛けません。帝都で就職活動する間、(ともえ)の家に下宿させて下さい。お願いします」

 土下座したのは初めてだった。


 マー君の顔が見えない。胃が痛い。

 反応がわからないのが怖い。


 衣擦れの音で、みんなが顔を見合わせたらしいのがわかった。

 沈黙が重い。


 早く誰か何か言ってくれよ……!


 黒い靴下視界に入った。正面で立ち止まり、立ったまま発言する。


 「二階に上がるの禁止と、洗濯も追加な。ウチの近所で、風呂トイレ共同で一間のアパートの家賃の相場が……あの広さだと大体、五万くらいかな。食費二万として計七万円、誰が毎月払うの? 仕事決まるまでずっと居座られちゃ(たま)んないから、半年にしてくれる? 仕事決まらなくても追い出すけどいい? 仕事が決まったら、その月の月末には出て行ってもらうけどいい?」

 頭上から降り注ぐ訛りのない声が鉛のようにのしかかる。


 「そんな……マー君、身内から家賃取るなんて……」

 矢継ぎ早に条件を詰めるマー君にババアが口出しした。


 「そのくらいプレッシャー掛けてやらないと、ゆうちゃんは甘えて働かないよ。で、ゆうちゃん、最大で四十二万、俺に払えるの?」


 オレは顔を上げ、ババアに向き直った。


 「ばあちゃん、仕事決まったら必ず返すから、お金貸して下さい。お願いします」

 頭を下げると額に畳が触れた。


 「ホントは跡を継いで欲しいんだけど、そこまで言うなら……半年よ、半年頑張ってダメだったら、帰っておいで。おばあちゃんが()()してあげるから、ねっ」

 ばあちゃんの皺くちゃの手がオレの肩に触れる。ばあちゃんの手は、子供の頃と同じぬくもりで、オレを包んでくれた。


 ここに戻る気はない。ましてや、執り成して欲しくなんかない。

 でも、オレを心配してくれる気持ちだけは有難かった。


 「ばあちゃん、ありがとうございます」

 「じゃあ、契約書を作りましょう」

 「けイやクしょ?」 

 ツネちゃんの言葉を区長と隣保長が、変な声で聞き返す。ツネちゃんは眼鏡を拭くと、顔を上げたオレからみんなに視線を巡らせた。


 「政治(まさはる)が今言った以上の額を請求しないように、ゆうちゃんが約束を反故(ほご)にしないように、おばあちゃんが支払いを忘れないように」

 「でも……」

 何か言い掛けたばあちゃんを眼鏡越しの視線で黙らせる。


 「身内なのに水臭いとか言ってなぁなぁにすると、それに甘えてグダグダになりますから、こう言うのは身内だからこそ、しっかり決めて書面に残さないと、結局は誰の為にもならないんですよ」

 ツネちゃんは、いつものように淡々と説明した。


 住職が「その通り」と言って頷くと、区長と隣保長も渋々了承した。



 「本日はお正月早々、大変お見苦しい騒動に巻き込んでしまいまして、誠に申し訳ございません。後日、主人と一緒に改めてお詫びに上がらせて戴きます。本当にありがとうございました」

 分家の嫁・真知子叔母さんが深々と頭を下げ、山端家の親族会議はお開きになった。

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【関連】 「汚屋敷の兄妹
賢治と真穂視点の話で「汚屋敷の跡取り」と全く同じシーンがあります。

▼用語などはシリーズ共通設定のページをご参照ください。
野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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