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汚屋敷の跡取り  作者: 髙津 央
◆印歴2214年1月1日

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83.抵抗

 ババアのすすり泣きと、住職の読経の声が一際高くなった。


 「警察から遺体が帰ってきたら、晴海(はるみ)さんのご実家に連絡します。遺骨をお返しして、事情を説明して、葬儀代と墓代とその他、できる限りのことをさせて戴きたく存じます。山端(やまばた)の家の者は、会うことすら拒まれるかもしれません。それでも、できる限りの償いを致したく存じます」


 米治叔父さんが、座布団から降りて開かずの間に向かって土下座した。ババアも椅子で深々と頭を下げている。


 二人とも魔法で強制されてはいない。


 俺は座布団から降り、背筋を伸ばして気合いを入れて言った。

 「母ちゃんの葬式はここじゃダメだ。母ちゃんの実家でやる。ジジイとオヤジは葬式に来るな。それと、オレはここを出る。他所に行って他所で就職して他所者になってやる。結婚はしない。こんな家、もう絶えればいいんだ!」


 自分でも思っていなかった大きな声が出た。

 叔父さんたちと同じで、ムネノリ君の魔法は掛かっていない筈なのに、スラスラと言葉が出てきた。


 区長たちは、全く否定せずオレに同意を示してくれた。



 「皆様、他にご質問はありませんか」

 ムネノリ君の質問に、皆口々にこれ以上聞くことがない旨を告げる。ムネノリ君はひとつ頷いて、杖の石突きで畳をトントンと打って言った。


 「もう自由に話せますよ」

 呪縛が解けた罪人たちは、畳に前のめりに倒れる。

 二人は起き上がるなり、オレに殴りかかってきた。


 咄嗟(とっさ)に体が動かず、オヤジの拳をまともに食らう。左上から頭を殴られ、畳に叩きつけられた。

 ババアが椅子ごと倒れて悲鳴を上げる。

 倒れたオレに重い蹴りが執拗に浴びせられる。口の中に鉄錆臭い味が広がった。


 「穀潰しの分際で、親に舐めた口利きやがって!」

 オヤジが斜め上なことを怒鳴っている。住職たちが口々に制止する声が聞こえる。


 ……オフクロは、こんな風に殺されたんだな。


 オレは両腕で自分の頭を庇うことしかできなかった。



 不意に蹴りが止んだ。

 ジジイとオヤジは、まだ何か訳のわからないことを喚いている。


 恐る恐る顔を上げると、ジジイは米治叔父さんと消防団長、オヤジはマー君と駐在さんに取り押さえられていた。


 倒れたババアをツネちゃんと分家の嫁が介抱している。


 ムネノリ君が湖北語で何か言い、三枝(さえぐさ)がこちらに近付いてきた。小声で呪文を唱え、ジジイとオヤジの肩に軽く手を触れる。二人は糸の切れた操り人形のように動かなくなった。


 「かっかっ体が……動かん!」

 「何しやがったこの野郎!」

 口だけは動くらしく、口汚く罵り始めた。



 廊下側の(ふすま)が開き、おっさんに化けたメイドさんが、ビニール紐とガムテープを持って入ってきた。いつの間に仏間を出たのか、全く気付かなかった。


 「二人を拘束して駐在所に連れて行って下さい」

 メイドさんは、おっさんの声でそう言って、駐在さんに紐とガムテを渡した。


 二人を縛り上げ、駐在さん、米治叔父さん、消防団長が三人掛かりで外に連れ出す。

 少しして、車のエンジン音が遠ざかって行った。多分、米治叔父さんの車で運んだのだろう。



 「傷害で訴えるのなら、病院の診断書が要るんだけど、どうする?」

 ツネちゃんがオレの横にしゃがんで言った。


 もうこれ以上、あの二人と関わり合いになりたくない。


 「いや、もう縁切るから。暴行の現行犯だし、それで充分だ」

 喋ると血の混じった唾が口の端から垂れた。

 ムネノリ君が立ち上がって癒しの呪文を唱えてくれた。杖は椅子に立て掛けてある。

 やさしい声に包まれると、全身の痛みが嘘のように引いていった。


 「ありがとう」

 言葉が自然と口からこぼれた。

 詠唱を終えたムネノリ君は「うん」と言って微笑んだ。


 「我々、(ともえ)家の者も山端耕作(やまばたこうさく)山端豊一(やまばたとよかず)とは縁を切ります。ウチに来たら警察に通報しますので、宜しくお伝え下さい」

 マー君も絶縁を宣言し、区長たちはそれを承認した。


 ババアがオレの腕を掴んで言った。

 「ゆうちゃん、他所で働くったって、何ぞアテはあるのかい?」

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【関連】 「汚屋敷の兄妹
賢治と真穂視点の話で「汚屋敷の跡取り」と全く同じシーンがあります。

▼用語などはシリーズ共通設定のページをご参照ください。
野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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