81.被疑者
米治叔父さんが座布団に座り直し、ムネノリ君に目で合図を送る。
ムネノリ君は、ジジイに黒山羊を向けて問うた。
「山端耕作に質問します。山端豊一の妻・晴海の行方不明について、知っていることがあれば、包み隠さず事実のみを言いなさい」
一同の目がジジイに注がれる。
ふと、ジジイとオヤジには、座布団がないのに気が付いた。
この扱い、ムネノリ君の態度、これはつまり……
「豊一の嫁は、儂が埋めた。開かずの間の床下に死体を埋めた」
証人が互いに顔を見合わせてざわつき、ババアが顔を袖で覆って泣きだす。
米治叔父さんは、険しい表情でジジイを見据えているが、分家の嫁とツネちゃんは「あぁやっぱりね」と言う顔をしていた。
マー君は、ジジイとオヤジを見下した目で見ている。
ムネノリ君は、オヤジにも黒山羊を向け、同じ質問をした。
「嫁は、俺が折檻したら勝手に死んだ」
座の空気が凍りつき、ババアの嗚咽と住職の念仏だけが、物のなくなった仏間に響いた。
「山端豊一に質問します。何故、自分の妻を殺したのですか。理由と殺害方法について、包み隠さず、嘘偽りなく答えなさい」
「躾だ、躾! 家事もまともにできん低能の分際で、生意気な口利くバカ女が全部悪いんだ。あんなもん自業自得だ」
みんなが息を呑み、しんとした仏間にオヤジの濁声が場違いに響き渡る。
「俺に口応えしやがるのが悪いんだ! ガミガミうるせーわ、物を粗末にするわで、全く躾がなっとらんから折檻してやったら、勝手にくたばりやがったんだよ。嫁に来てからずっと、服を脱ぎ散らかすなだの、物を片付けろだの文句ばっかり一丁前で、碌に掃除もしやがらねぇから、躾の為に折檻してやったんだ」
躾が行き届いてなくて教育的指導をされてんのはどっちだよ……
オヤジが唾を飛ばして捲し立てる言葉が、悉くブーメランとなって返る。本人は全く気付いていないのか、魔法の力なのか、アタマ悪い発言はヒートアップする一方だ。
「ちょっと傷んだくらいで食い物をポイポイ捨てて粗末にするし、物もちょっと壊れたくらいで捨てやがるから、罰が当たったんだろうよ。家事なんてくだらん雑事なんぞ、嫁が全部するもんなんだ。それすら満足にできない癖に口だけは達者。ハズレのバカ雌掴まされて、こちとら大迷惑だったんだよ」
「気に入らないなら、何故、離婚しなかったのですか? 包み隠さず事実のみを言いなさい」
ムネノリ君が、冷たい声に呆れを滲ませて追加の質問をした。
「跡取りを産んだから、お情けで家に置いてやってたが、優一が居なけりゃあんなクズ嫁、とっとと追い出して慰謝料もらってた所だ。そしたらこんな面倒なことにならなかったのに。
なぁ、駐在さんよぉ、俺の稼ぎをアテにして、なんもしない寄生虫女にタカられてた俺の方が、被害者なんだよ。くたばってなきゃ、結婚詐欺で出るとこ出たいくらいなんだよ。
躾の為にちょっと殴っだけで、嫁が勝手にタンスに頭ぶつけて、勝手に死んだだけだから、俺は何も悪くないんだ。なっそうだろ?」
オヤジは、口が勝手に動いて真実を告げるのをどうすることも出来ず、一同に縋るような目を向け、最後に駐在さんに視線を定めた。
……吐き気がする。




