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汚屋敷の跡取り  作者: 髙津 央
◆印歴2214年1月1日

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81/87

81.被疑者

 米治叔父さんが座布団に座り直し、ムネノリ君に目で合図を送る。


 ムネノリ君は、ジジイに黒山羊を向けて問うた。

 「山端耕作に質問します。山端豊一の妻・晴海(はるみ)の行方不明について、知っていることがあれば、包み隠さず事実のみを言いなさい」

 一同の目がジジイに注がれる。


 ふと、ジジイとオヤジには、座布団がないのに気が付いた。


 この扱い、ムネノリ君の態度、これはつまり……



 「豊一(とよかず)の嫁は、儂が埋めた。開かずの間の床下に死体を埋めた」

 証人が互いに顔を見合わせてざわつき、ババアが顔を袖で覆って泣きだす。


 米治叔父さんは、険しい表情でジジイを見据えているが、分家の嫁とツネちゃんは「あぁやっぱりね」と言う顔をしていた。

 マー君は、ジジイとオヤジを見下した目で見ている。



 ムネノリ君は、オヤジにも黒山羊を向け、同じ質問をした。


 「嫁は、俺が折檻したら勝手に死んだ」

 座の空気が凍りつき、ババアの嗚咽と住職の念仏だけが、物のなくなった仏間に響いた。



 「山端豊一(やまばたとよかず)に質問します。何故、自分の妻を殺したのですか。理由と殺害方法について、包み隠さず、嘘偽りなく答えなさい」


 「(しつけ)だ、躾! 家事もまともにできん低能の分際で、生意気な口利くバカ女が全部悪いんだ。あんなもん自業自得だ」

 みんなが息を呑み、しんとした仏間にオヤジの濁声が場違いに響き渡る。


 「俺に口応えしやがるのが悪いんだ! ガミガミうるせーわ、物を粗末にするわで、全く躾がなっとらんから折檻してやったら、勝手にくたばりやがったんだよ。嫁に来てからずっと、服を脱ぎ散らかすなだの、物を片付けろだの文句ばっかり一丁前で、碌に掃除もしやがらねぇから、躾の為に折檻してやったんだ」


 躾が行き届いてなくて教育的指導をされてんのはどっちだよ……


 オヤジが唾を飛ばして捲し立てる言葉が、悉くブーメランとなって返る。本人は全く気付いていないのか、魔法の力なのか、アタマ悪い発言はヒートアップする一方だ。


 「ちょっと(いた)んだくらいで食い物をポイポイ捨てて粗末にするし、物もちょっと壊れたくらいで捨てやがるから、罰が当たったんだろうよ。家事なんてくだらん雑事なんぞ、嫁が全部するもんなんだ。それすら満足にできない癖に口だけは達者。ハズレのバカ雌掴まされて、こちとら大迷惑だったんだよ」


 「気に入らないなら、何故、離婚しなかったのですか? 包み隠さず事実のみを言いなさい」

 ムネノリ君が、冷たい声に呆れを滲ませて追加の質問をした。


 「跡取りを産んだから、お情けで家に置いてやってたが、優一が居なけりゃあんなクズ嫁、とっとと追い出して慰謝料もらってた所だ。そしたらこんな面倒なことにならなかったのに。

 なぁ、駐在さんよぉ、俺の稼ぎをアテにして、なんもしない寄生虫女にタカられてた俺の方が、被害者なんだよ。くたばってなきゃ、結婚詐欺で出るとこ出たいくらいなんだよ。

 躾の為にちょっと殴っだけで、嫁が勝手にタンスに頭ぶつけて、勝手に死んだだけだから、俺は何も悪くないんだ。なっそうだろ?」


 オヤジは、口が勝手に動いて真実を告げるのをどうすることも出来ず、一同に縋るような目を向け、最後に駐在さんに視線を定めた。


 ……吐き気がする。

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【関連】 「汚屋敷の兄妹
賢治と真穂視点の話で「汚屋敷の跡取り」と全く同じシーンがあります。

▼用語などはシリーズ共通設定のページをご参照ください。
野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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