80.証人と親族
「初対面の方もいらっしゃいますので、まずは簡単な紹介から参ります」
米治叔父さんが一同を見回し、目顔で同意を得て順番に説明する。
「上座に居りますのは、本家長女・瑞穂の三男・宗教。彼はムルティフローラ王国の王族でもあります。後ろに控えていらっしゃるお二方は護衛の騎士、女性がフタバさん、男性がサエグサさん」
「宗教です。あけましておめでとうございます。議題がおめでたくない物であることをお詫び申し上げます」
ムネノリ君は座ったまま軽く頭を下げた。
「次に証人としてお越し戴きました皆様。……上座から、歌道寺のご住職・八鹿さん」
「歌道寺でございます。この度は誠にご愁傷様でございました。謹んで故人の菩提のお弔いをさせて戴きます」
そう言って住職は小さな声で念仏を唱え始めた。
「宜しくお願いします。お隣は、風鳴地区の区長でいらっしゃる九斗山さん」
「あけましておめでとうございます。不肖、九斗山太一、老いぼれてはおりますが、この目でしかと見届けさせて戴きます」
区長はオレがガキの頃から長老っぽい区長だったが、記憶よりずっと老いぼれて縮んでいた。
「ありがとうございます。お次は、隣保長の大山さんです」
「新年おめでとうございます。大山でございます。何やら大役を仰せつかり、恐縮です」
いつの間に大山さんが隣保長になったのか知らない。もしかしたら、ババアが世間話のついでに言ったかもしれないが、全く記憶に残っていなかった。
「こちらこそ恐れ入ります。では、消防団長の大笹さん、お願いします」
「風鳴地区消防団長の大笹です。おめでとさんでございます」
そう言って一旦、お辞儀した大笹のおっさんさんは、すっかり貫録が出てまるで別人に見えた。だが、声は昔のままだった。
「大掃除のゴミ焼きが無事に済みましたようで、宜しゅうございました。ここは、いつ火事を出すかと、気が気でおませなんだので、安堵仕りました」
このおっさんは昔から、消防団の寄合で最新の設備を入れろとか色々言ってた。消防団長に適任だが、これもいつそうなったのか知らない。
「ご心労をお掛け致しまして、誠に申し訳ございません。……お次は、駐在所の和田山巡査殿」
「風鳴駐在所の巡査、和田山です。本日は風鳴地区に住む一個人として、末席にて拝聴致します。宜しくお願い申し上げます」
駐在さんは、すっかり村に馴染んだようだ。
みんなが当然の存在として受け入れている。
「お正月休みの所、お呼び立て致しまして恐れ入ります」
駐在さんは制服ではなく、普通のスーツだった。住職は袈裟だが他の証人は紋付き袴だ。
親族側もオレと米治叔父さんは紋付き、ババアと分家の嫁は黒の留袖、三つ子と騎士はスーツだった。
一人挨拶する度に米治叔父さんは深々と頭を下げ、ムネノリ君を含む身内も頭を下げた。
……いや、ムネノリ君、王族なのにこんなクソ田舎の爺共にそんな頭なんか下げたら、爺共が勘違いして調子に乗るだろ。
ババアは、椅子の上で腰が二つ折りになるまで頭を下げていた。
……あぁそうか、外国の王族じゃなくって、山端の身内として頭下げてるのか。
オレも一応、空気を読んでそれに倣った。
よれよれの背広を着たジジイとオヤジは、魔法で固定されているのか、動かなかった。
次に叔父さんは、他の身内を紹介した。
こういう場で、何を言えばいいのかわからなかったので、取敢えず名前と「宜しくお願いします」とだけ言っておいた。
声は震え、滑舌は最悪。ダメダメだったが、何とか、言うだけは言えた。
他の奴らの場慣れ具合がハンパなく、オレの場違い感が炸裂しまくりだった。
もう部屋に戻ろうかと思ったが、叔父さんに借りた紋付きも返さなきゃいけないし、本家の跡取りであるオレが、逃げることなど許される筈がない。
居心地の悪さと戦いながら、次の動きを待った。




