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汚屋敷の跡取り  作者: 髙津 央
◆印歴2214年1月1日

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80.証人と親族

 「初対面の方もいらっしゃいますので、まずは簡単な紹介から参ります」

 米治叔父さんが一同を見回し、目顔で同意を得て順番に説明する。


 「上座に居りますのは、本家長女・瑞穂(みずほ)の三男・宗教(むねのり)。彼はムルティフローラ王国の王族でもあります。後ろに控えていらっしゃるお二方は護衛の騎士、女性がフタバさん、男性がサエグサさん」


 「宗教(むねのり)です。あけましておめでとうございます。議題がおめでたくない物であることをお詫び申し上げます」

 ムネノリ君は座ったまま軽く頭を下げた。



 「次に証人としてお越し戴きました皆様。……上座から、歌道寺(うどうじ)のご住職・八鹿(ようか)さん」

 「歌道寺でございます。この度は誠にご愁傷様でございました。謹んで故人の菩提のお弔いをさせて戴きます」

 そう言って住職は小さな声で念仏を唱え始めた。



 「宜しくお願いします。お隣は、風鳴(かぜなき)地区の区長でいらっしゃる九斗山(くどやま)さん」

 「あけましておめでとうございます。不肖、九斗山太一(くどやまたいち)、老いぼれてはおりますが、この目でしかと見届けさせて戴きます」

 区長はオレがガキの頃から長老っぽい区長だったが、記憶よりずっと老いぼれて縮んでいた。



 「ありがとうございます。お次は、隣保長の大山(おおやま)さんです」

 「新年おめでとうございます。大山でございます。何やら大役を仰せつかり、恐縮です」

 いつの間に大山さんが隣保長になったのか知らない。もしかしたら、ババアが世間話のついでに言ったかもしれないが、全く記憶に残っていなかった。



 「こちらこそ恐れ入ります。では、消防団長の大笹(おおささ)さん、お願いします」

 「風鳴(かぜなき)地区消防団長の大笹です。おめでとさんでございます」

 そう言って一旦、お辞儀した大笹のおっさんさんは、すっかり貫録が出てまるで別人に見えた。だが、声は昔のままだった。


 「大掃除のゴミ焼きが無事に済みましたようで、(よろ)しゅうございました。ここは、いつ火事を出すかと、気が気でおませなんだので、安堵仕(あんどつかまつ)りました」

 このおっさんは昔から、消防団の寄合で最新の設備を入れろとか色々言ってた。消防団長に適任だが、これもいつそうなったのか知らない。



 「ご心労をお掛け致しまして、誠に申し訳ございません。……お次は、駐在所の和田山(わだやま)巡査殿」

 「風鳴駐在所の巡査、和田山です。本日は風鳴地区に住む一個人として、末席にて拝聴致します。宜しくお願い申し上げます」

 駐在さんは、すっかり村に馴染んだようだ。

 みんなが当然の存在として受け入れている。



 「お正月休みの所、お呼び立て致しまして恐れ入ります」

 駐在さんは制服ではなく、普通のスーツだった。住職は袈裟だが他の証人は紋付き袴だ。

 親族側もオレと米治叔父さんは紋付き、ババアと分家の嫁は黒の留袖、三つ子と騎士はスーツだった。

 一人挨拶する度に米治叔父さんは深々と頭を下げ、ムネノリ君を含む身内も頭を下げた。


 ……いや、ムネノリ君、王族なのにこんなクソ田舎の爺共にそんな頭なんか下げたら、爺共が勘違いして調子に乗るだろ。


 ババアは、椅子の上で腰が二つ折りになるまで頭を下げていた。


 ……あぁそうか、外国の王族じゃなくって、山端の身内として頭下げてるのか。


 オレも一応、空気を読んでそれに倣った。

 よれよれの背広を着たジジイとオヤジは、魔法で固定されているのか、動かなかった。


 次に叔父さんは、他の身内を紹介した。

 こういう場で、何を言えばいいのかわからなかったので、取敢えず名前と「宜しくお願いします」とだけ言っておいた。


 声は震え、滑舌は最悪。ダメダメだったが、何とか、言うだけは言えた。

 他の奴らの場慣れ具合がハンパなく、オレの場違い感が炸裂しまくりだった。


 もう部屋に戻ろうかと思ったが、叔父さんに借りた紋付きも返さなきゃいけないし、本家の跡取りであるオレが、逃げることなど許される筈がない。

 居心地の悪さと戦いながら、次の動きを待った。

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【関連】 「汚屋敷の兄妹
賢治と真穂視点の話で「汚屋敷の跡取り」と全く同じシーンがあります。

▼用語などはシリーズ共通設定のページをご参照ください。
野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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