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汚屋敷の跡取り  作者: 髙津 央
◆印歴2213年12月27日
8/87

08.玄関

 ……用があるならテメーで来るのが筋ってもんだろうが。


 何で、この辺で一番の土地持ちの豪農・山端(やまばた)家の本家の跡取りであるこのオレが、ホイホイ出て行ってやんなきゃなんねーんだよ!


 馬鹿にしやがって。


 あ、でも、オレが行かないとメイドさんが、そいつに折檻(せっかん)されるのか。

 行ってあげなくちゃな。

 解雇せずに減給して、ねちねち嫌味言われたり、お仕置きと称してあーんなコトやこーんなコトされたり……


 ダメだ! メイドさんはオレが守ってあげないと、とんでもないコトになる!


 寝落ちしてしまったせいか、足がむくんでふくらはぎがパンパンになっている。

 オレは思うように動かない足を精神力で動かし、何とか一階の廊下に降り立った。

 寒風に煽られ、歯がガチガチと鳴る。

 上腕を撫でさすり、足踏みしながら風上に目を遣った。



 玄関の硝子戸がない。



 鉄格子に磨り硝子をはめ、ネジ式の鍵で戸締りする日之本家屋特有の、あの硝子戸がなくなっていた。


 それだけではない。


 天井まである巨大な靴箱も、上に置物や水槽や枯れた盆栽が載った小型の靴箱も、靴箱から溢れて三和土に山積みになった履物類も、古新聞の山も、中身の詰まった段ボールの山も、公民館並サイズの傘立ても、そこから溢れた大量の傘も、合羽も軍手もゴム手袋も、朽ち果てたお裾分けの農産物も、何もかもが、なくなっていた。


 だだっ広い玄関の壁と天井が、外の光を反射して輝いている。


 また、外の風が吹きこんできた。

 冷たい風に震えあがり、オレはトイレに駆け込んだ。

 出す物を出して人心地付いたオレは、昨夜の衝撃を思い出した。



 メイドさんが掃除したんだろうな。



 流石にプロの仕事は違う。うちの耄碌(もうろく)ババアや、金目当ての後妻にできなかったことを完璧にこなしてる。


 流石、メイドさんだ。


 なんちゃって萌えメイドじゃない、本物のメイドさんだ。

 豪農の跡取りに仕えるに相応しい、有能な侍女だ。


 オレと彼女を引き合わせるのが、ご主人様とやらの用件だな。

 まず、メイドさんの有能さをオレにチェックしてもらって、それから「彼女でよろしいですか?」って確認する……紹介予定派遣みてーなもんだろ。


 後妻の美波(みなみ)は出戻ってるし、ババアはいつくたばってもおかしくない。

 山端の本家に見合う「(しつけ)の行き届いた同格の家の女」なんて、今時なかなか居ないから、オレの嫁も未だに現れない。

 メイドさんを雇うのは、当然の措置だ。

 働きによっては、彼女を本家の跡取りであるオレの嫁にしてやってもいい。



 玄関には、明らかにババアの物とわかる古ぼけたつっかけしかなかった。

 他に何もない為、仕方なく、きちんと揃えられた女物のつっかけに足をねじ込み、外に出た。

 向かいの畑には、分厚く雪が積もって見渡す限り真っ白だったが、うちの庭には一片の雪もなく、地面は乾いていた。


 おいおい、雪かき頑張りすぎだろwww


 農道と敷地の境界付近に、古ぼけた軽トラと、新車らしいワンボックスが駐車している。

 左手に視線を巡らせる。

 農機具などを収納した倉庫の前にブルーシートが敷いてあった。その上に箪笥(たんす)や服等の家財道具が広げられている。

 箪笥の陰から、四人の男女が一斉に立ち上がった。

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【関連】 「汚屋敷の兄妹
賢治と真穂視点の話で「汚屋敷の跡取り」と全く同じシーンがあります。

▼用語などはシリーズ共通設定のページをご参照ください。
野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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