79.親族会議
米治叔父さんは、歌道寺の住職、区長、隣保班長、消防団長と駐在さんを呼びに行った。
おっさん姿のメイドさんが仏間に座布団を並べ、分家の嫁がお茶の用意をする。
朝十時頃、山端本家の仏間に親族会議参加者とその証人が集合した。
ジジイたちはまだ戻っていない。
「あのゴミ屋敷が……」
区長、隣保長、消防団長が声を揃えて何か言いかけて、続きの言葉を呑みこんだ。感心して、しきりに首を振ったり傾げたりしながら敷居を跨ぎ、仏間に入る。
住職は一同に黙礼し、仏壇に経を上げ始めた。真新しい畳の清々しい香りに線香の匂いが混じる。
上座のお誕生日席に、親戚だけど王族でもあるムネノリ君が着き、その膝に黒猫に変身したメイドさん。両脇に双羽隊長と三枝。
座敷に近い側の上座から、住職、区長、隣保長、消防団長、駐在さんという証人が座る。
その対面は身内席で上座から、米治叔父さん、分家の嫁、マー君、ツネちゃん、オレ、ババア。子供らは分家で待たせている。
叔父さんと住職の間に物置から出してきた火鉢が据えられた。ムネノリ君とババアの席は、畳の上に置いた台所の椅子で、他は先日買ったばかりの座布団。
全く様変わりしていて、まるで他所の家のようだが、ここはオレが生まれ育った家だ。
これから起こることを考えると気は重かったが、藺草と線香の香りのせいか、心は妙に穏やかだった。
米治叔父さん、マー君、ツネちゃんがICレコーダをポケットに仕込んでいる。
叔父さんのは自前だが、マー君とツネちゃんのは、賢治と真穂が託して行った物だ。
待っている間、米治叔父さんが、証人たちに三つ子と騎士を紹介した。
二杯目のお茶を飲み干す頃、ジジイとオヤジが帰ってきた。
「何じゃこりゃあぁあぁぁぁぁッ!?」
ジジイが叫びながらオレの真後ろの障子を開けた。
仏間の様子と、集まった面々に更に驚いたらしく、「なっなっなっなっ……」と言ったきり、言葉にならない。
オヤジは、ジジイの後ろで呆然と見ているだけだ。
「じいちゃん、あけましておめでとう。寒いから、そこ閉めて玄関から回って来てよ」
マー君がにこにこしながら言うと、ジジイは素直に障子を閉めた。
二人は襖を乱暴に開け、入ってくるなり怒鳴った。
「家にあった物どこにやったんじゃッ!!」
「お前ら何者だ!? 何で外人が居るッ!?」
ムネノリ君が、二人に杖の黒山羊を突きつけて言った。
「山端耕作、山端豊一、そこに座りなさい」
ロリ声だが、口調も態度もどことなく、双羽隊長を思わせる冷やかなものだった。
二人は見えない誰かに膝カックンでもされたかのように、不自然な動作でその場に正座した。……いや、正座させられた。オレが隊長にやられたのと同じアレだ。
呪文を唱えなくても、普通に命令しただけで強制できるのが、ムネノリ君の「力」の凄さなんだろう。
「あ……ッ! 足が勝手に……!?」
「目上の者を呼び捨てにするな! 怪しからん!」
ジジイは普通に驚いているが、オヤジの思考回路はオレの理解の枠を超えていた。今、そんな場合じゃないだろ。
「山端耕作、山端豊一、質問への回答以外の発言を禁止します」
二人はムネノリ君の命令に顔を歪ませた。凄い目付きで正面のムネノリ君を睨みつける。文句を言おうとしたが、口が動かないのだろう。
仏壇の前で読経していた住職が、区長の隣に戻って一礼した。
米治叔父さんが座布団から降り、深々と一礼して挨拶を述べる。
「皆様、本日は新年のお忙しい中お集まり戴きまして、誠に恐れ入ります。二二一四年一月一日、午前十時四十七分、只今より山端家の親族会議を執り行います。尚、この場の発言は記録致します。悪しからずご了承の上、ご理解とご協力をお願い申し上げます」
ジジイとオヤジ以外の全員が、同意の言葉を口にしたり、頷いたりした。




