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汚屋敷の跡取り  作者: 髙津 央
◆印歴2213年12月31日

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77.今生の別れ

 マー君の提案で、畳屋たちは廊下の端に集まって相談を始めた。

 すぐに話がまとまったらしく、その内一人がケータイでどこかに連絡して戻ってきた。


 「あの、夕方……七時か、八時頃でも宜しければ、支店の在庫をお持ちできるんですが……」

 「そちらさえ差し支えなければ……こちらこそ、ご無理申し上げまして恐れ入ります」

 畳屋の申し出にマー君が丁寧に対応した。


 何で客がそんなペコペコ頭下げまくってんだよ。金払うのこっちなのに。


 「では、ひとまず、搬入が終わった分の精算をお願いします。請求書と領収証はお持ち戴いてますか?」


 畳屋たちがマー君に言われて車へ取りに戻る。庭から畳屋のおっさんたちの驚く声が聞こえた。大方、ムネノリ君が古畳を燃やすのを見たのだろう。あの火力は滅多に拝めるもんじゃない。


 マー君は、三店に現金一括で数十万円ずつ支払っていた。

 在庫があると言った店は「じゃ、すぐ戻りますんで!」と一番に出て行き、他の二店もホクホク顔で帰って行った。


 「いや、マー君、太っ腹はいいけど、ボられてないか?」

 オレの忠告にマー君はしれっと答えた。

 「これ、ばあちゃんの金だし。ムチャ振り超特急料金上乗せしてるし、こんなもんだろ」

 「はあ?」


 こいつ、ババアの金でいいカッコしてたのかよ! そんなんオレでもできるわ!


 「後は畳四枚だけで終わりなんだよな。じゃ、俺たちもう行くよ」

 「今までありがとう。……元気でね」

 賢治と真穂が揃って頭を下げた。


 藍が意外そうな顔で聞く。

 「あれ? お昼食べて休憩してからじゃないの?」


 「早けりゃ今夜にはオヤジたち、戻ってくるし、もう行くよ」

 「落ちついたらメールするね。じゃあ」

 「そっか。元気でね」

 「風邪引くなよ」

 「幸せになるんだぞ」

 口々に別れの言葉が交わされ、二人は何度も頭を下げて出て行った。



 ……お前ら、マジで家を捨てるのかよ。



 俺は何も言えず、ただ、二人の背中を見送った。

 二人の部屋はいつの間にか空っぽになっていた。




 昼過ぎ、ジジイがケータイで「元日の午前中に戻ってくる」と本家の家電話に連絡してきた。


 ジジイの電話に出たマー君が、分家夫婦と何か相談。予定を一日繰り上げて、ババアを退院させることが決まった。


 畳の搬入はマー君と畳屋だけでやった。

 残りのメンツは、本家に残っていたババアの荷物を分家に運んだ。



 米治叔父さんの車で帰ってきたババアは、オレの顔を見るなり泣きだして、全く会話が成立しなかった。


 他の奴らは、大掃除の合間にちょくちょく見舞いに行っていたらしい。

 オレの様子も逐一ババアの耳に入っていたようで、ババアは「ほんに、ほんに、ゆうちゃんが……」と何度も繰り返していた。


 顔合わせが済んでいるせいで、ババアは初曾孫(はつひまご)政晶(まさあき)も、外人もスルー。ひたすらオレに粘着した。



 ババアが落ち着いた頃合いに年越しソバ。

 みんなでテレビの年越し番組を視つつ、山の上から遠く響いてくる歌道寺(うどうじ)の除夜の鐘を聞く。


 こんなに親戚が集まって穏やかに年を越すのは生まれて初めてだ。

 オレはただ流れに身を任せ、あるがままに年越しの夜を過ごした。

 特に楽しいとは思わなかったが何故かイヤな気持ちもしなかった。

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【関連】 「汚屋敷の兄妹
賢治と真穂視点の話で「汚屋敷の跡取り」と全く同じシーンがあります。

▼用語などはシリーズ共通設定のページをご参照ください。
野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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