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汚屋敷の跡取り  作者: 髙津 央
◆印歴2213年12月30日

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75.反対の理由

 「ゆうちゃん、あのさ、昨日の説明、聞いてたよね? ウチ、産業ロボットのメーカーなの。工学部の院卒レベルの専門知識がないと正社員は無理なの。経理はオレと、他社での経験も豊富な年配の社員で、二人とも簿記一級持ってるの。事務はベテランのパートさんに来てもらってるから、ゆうちゃんみたいな未経験者、要らないんだよ」


 「いや、それは違うだろ」

 マー君がうだうだ言い訳しているが、人を増やす余裕がないくらい赤字ってことなんだろ。社長だっつって威張り散らしてても、実態はこんなもんだ。


 「何が違うんだよ? それに、ゆうちゃん、掃除も皿洗いもできないじゃないか。ウチに泊まってタダ飯食って散らかし放題って、今度はウチをゴミ屋敷にする気かよ」

 「いや、そんなの、メイドさん居るし……」


 「あれはウチのメイドじゃなくて、宗教(むねのり)の下僕だ。それに自分の部屋は各自掃除するのが巴家のルールだ。宗教(むねのり)も体調がいい時は自分で掃除してる」

 庶民の分際で、王族様に掃除させてんなよ。


 ああ言えばこう言う。マー君の癖に生意気な。


 「まぁでも、ニートが一瞬でも働く気になったのは、よかったよな」

 賢治が失礼極まりないヨカッタ探しをしやがった。


 「優一君、本当に二度とここに戻らないくらい、必死な気持ちで帝都に出て、向こうで就職するのね? 本気で働く気になったのね? 頑張れるのね?」

 分家の嫁が噛んで含めるような口調で聞いてきた。


 「いや……まあ、オヤジたちがクロだったら、の話だ。もし、あれが本当にオ……オレのかっ……母ちゃん……で、あいつらが犯人だったら、オレはこんなクソ田舎捨ててやる。あんな家、継いでやらん。他所で働いて他所者になってやる!」


 何だかもう後には退けないことを口走ってしまった気がする。


 「政治(まさはる)経済(つねずみ)宗教(むねのり)……叔父さんからのお願いだ。一年……いや、半年でも三カ月でもいい。優一を下宿させてやって、帝都で就職活動させてやってくれないか? 家賃と食費は叔父さんが立替えるから……置いてやって下さい。この通り……」

 米治叔父さんは、上座からマー君たちの横に移動して、土下座した。


 オレは呆然と見守ることしかできなかった。


 そこまでしろとか、頼んでねーし。


 「叔父さん、顔をあげて下さい。米治叔父さんは、ゆうちゃんの親じゃなくて、藍ちゃんと紅治(こうじ)くんの親です。二人の学費に専念して下さい。米治叔父さんが犯人でないなら、そんなことしないで。ウチはそんな筋の通らないお金は要りませんし、変な方向の協力はしたくないし、責任も持てません」


 ツネちゃんが淡々と拒否しやがった。

 オレの為に土下座までした叔父さんの顔に泥塗りやがって。何様だよコイツ。


 「あーでも、ゆうちゃん本人と、じいちゃん、ばあちゃん、豊一叔父さんの誰かが、ちゃんと頭下げて金出すって言うんなら、相談には乗るよ」

 マー君がオレの顔を見てニヤニヤしながら言った。


 足下(あしもと)見やがって。


 「あの者は殿下に対して敵意を抱いております。不敬罪の償いも致しておりません。不穏な輩を殿下のお住まいに同居させることは、承服致しかねます」

 魔女のババアが口を挟んできた。


 他人は黙ってろよ。


 黒猫に変身したメイドさんは、ぬいぐるみ遊びをやめてムネノリ君の顔色を伺っている。


 「就職活動ってどんなことするの?」

 ムネノリ君が明後日な方向の質問をかっ飛ばした。

 あーそうですね。王族サマは就活とは無縁でしょうからね。


 「就職情報誌やサイト、職安とかで情報を探して、よさそうな所があったら応募して、面接受けたりするんだ。サイトや職安、派遣会社に登録して紹介を待つ方法もある。後は、縁故とかだな」

 「ふーん。ずっとお家に居る訳じゃないの?」


 「最近は不景気で、職安の求人検索の順番待ちだけでも、二時間とか掛かるみたいだぞ。面接も場所によっては一日仕事だし。合同説明会とかもあるな。それも半日は拘束される」

 「ふーん。じゃあ、政治(まさはる)たちがいいんなら、僕も別に構わないよ」

 「殿下!」

 マー君の説明で、何か納得したらしいムネノリ君に、魔女のババアが異議を唱える。


 「だって、僕も大学とか病院とかで平日は留守だし、ゆうちゃんが一階の客間に泊まって、二階に来ないんならいいかなって……不敬罪とか、ずっとお母さんに、ゆうちゃんと似たようなこと言われてたし……どうせ僕のことなんて……面倒臭いから、もういいよ……」


 「もし、家賃と食費の支払いが滞ったり、ゆうちゃんが暴言吐いたり部屋汚したりしたら、即、追い出して、自力で戻って来られない場所に捨ててくればいいよな」

 マー君が鬼のようなことを言いながら、ツネちゃんに同意を求めた。


 「まあ、まだ何も分かってないし、決まってないし……」

 ツネちゃんは態度を保留した。

 魔女のババアは眉間に皺を寄せて黙っている。


 「少なくとも、白黒付けることは決まったな。じゃあ、歌道寺(うどうじ)さんに相談して、祭壇のお骨を引き取って貰えるように、頼んで来よう」


 米治叔父さんが話題を変えて座敷を出て行き、親族会議はお開きになった。

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【関連】 「汚屋敷の兄妹
賢治と真穂視点の話で「汚屋敷の跡取り」と全く同じシーンがあります。

▼用語などはシリーズ共通設定のページをご参照ください。
野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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