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汚屋敷の跡取り  作者: 髙津 央
◆印歴2213年12月30日

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72.知ってた

 オレたちは、分家に引き上げた。

 警察はまだ本家で現場検証中だ。



 座敷には重苦しい沈黙が降りた。


 床の間を背にした上座に米治叔父さん、その対面にオレ。

 廊下側の上座からムネノリ君、マー君、縮小コピー、ツネちゃん、分家の嫁。

 縁側サイドの上座から賢治、真穂、藍、紅治(こうじ)の順で座っていた。オレと分家の嫁の間に三枝(さえぐさ)が立ち、双羽(ふたば)隊長と黒猫はムネノリ君の背後に居ると言う、謎の席次だ。


 黒猫は、フェイクファーの猫用おもちゃを前足で抱え、猫キックしていた。ファーがにゅるにゅる動いて、なかなか当たらない。

 ネズミ型ではないが多分、あれがメイドさんの言っていた「ネズミのぬいぐるみ」だ。

 黒猫は場の空気にお構いなしで、一人遊びに興じていた。



 「いや、ムネノリ君の一声で令状もないのに警察動くって、ズルくねぇ?」

 沈黙に耐えられなくなったオレは、言ってしまった。


 藍が固い声で反論する。

 「死体を見つけたら、普通に一一〇番するでしょ」


 「あのね、僕、時々警視庁の人に頼まれて、行方不明者の捜索のお手伝いしてるの。空き家の床下とか、岸壁沿いの海底とかでよく見つかるんだよ。それでね、よく知ってる刑事さんに本家のこと言ったら、ここの県警と駐在さんに連絡してくれたの」


 ……よく見つかるのか。都会怖えぇぇ。


 まだ震えが残る手で湯呑みを掴み、すっかりぬるくなった番茶をすすった。

 「いや、王族なのにわざわざ現場まで出向いて、警察犬の真似事(まねごと)してんの?」


 「行かないよ。お家か大学か警察署で、写真とか遺留品とか見せてもらって、生きてるかどうか視るの。生きてなさそうなら、三界の眼(さんかいのめ)の範囲を広げて周囲十キロ圏内を視るの。その人かどうかまではわかんないけど、範囲内に死体があればわかるよ」


 ……言ってるコトが電波過ぎて、何のことやら全く意味がワカリマセン。


 オレはそれ以上、質問の言葉を思いつかなかったので、無言でムネノリ君を見た。

 「今回は、本家をちゃんと視る為に三界の眼を開いたから、床下に居るのが視えたの」

 「いや…………その……………………」

 声が震えるのが自分でもよくわかった。動悸が激しくなり、湯呑みを持つ手に力が入る。


 オレはひとつ深呼吸して、聞いた。



 「いや…………あの……その、三界の眼(さんかいのめ)ってのは、しっ知らない奴のことまで分かるのか? 写真とかなくて……その……おっオレの……」


 「個人の識別まではできないよ。生きてるかどうかと、人と魔物の区別がつくだけだもん。あの人を『ゆうちゃんのお母さんだ』って言ったのは、経済(つねずみ)だよ」

 「は?」

 オレはツネちゃんを見た。


 ヘタレ眼鏡は、蜜柑に伸ばした手を引っ込めて言った。

 「子供の頃、階段で『ゆうちゃん』って呼んだり『ここから出して』って泣いてる女の人の声を何回も聞いたんだ。

 母さんに言ったら『そんな声聞こえない! 気持ち悪いこと言うんじゃないの!』って殴られたから、生きてない人の声なのかなって思って。

 で、今回、宗教(むねのり)が『床下に人が埋まってる』って言うから、総合的に判断して、晴海(はるみ)叔母さんなのかもって……」


 ツネちゃんの歯切れの悪い説明に分家の嫁が暗い顔で相槌を打つ。

 「こう言っちゃ悪いんだけど、私もずっとあの家、気持ち悪いと思ってたのよ。何回か手伝いに行った時に経済君と同じ場所で……同じ声……聞いてるし……ゆうちゃんのお母さんが行方不明で……あの場所であんな声……ってことは、つまり……そういうことなんだろうな……とは思ってたんだけど……証拠も何もないから……誰にも言えなくて……」


 「母ちゃん、それで俺らに本家に行くなって言ってたの?」

 紅治(こうじ)が目を丸くして、分家の嫁を見た。

 ツネちゃんと分家の嫁が同時に頷く。


 「晴海叔母さんだったとしたらさ、もう時効だし、誰が何やってたとしても罪には問えないんだけど、ゆうちゃん、これからどうする?」

 何故か、マー君がオレに振ってきた。


 「いや……だっ……誰が、何をしたって……?」


 「鈍いなー。当時同居してた家族の誰かが、叔母さんを殺して埋めたんだろ。多分。で、それを知った上で、ゆうちゃんは、これから何処でどうやって生きてくつもり?」

 マー君が明白(あからさま)にオレを見下した顔で言い放った。


 内容が衝撃的過ぎて思考がフリーズする。



 頭が理解を拒み、口を固く閉ざしたオレに、マー君が更に言い募る。

 「ゆうちゃんは、これからも人殺しと同居できるの?」

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【関連】 「汚屋敷の兄妹
賢治と真穂視点の話で「汚屋敷の跡取り」と全く同じシーンがあります。

▼用語などはシリーズ共通設定のページをご参照ください。
野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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