71.祭壇の下
白バイが白黒のワンボックスを引率して戻って来た。
「お待たせ致しまして恐れ入ります。殿下、お手数お掛け致します」
「こちらこそ、お忙しい時期にお呼び立て致しまして恐縮です。恐らく時効が成立済みで立件できず、身元確認だけになるかと思いますが、宜しくお願いします」
整列して敬礼する警官たちに、ムネノリ君は大人の口調で言って丁寧にお辞儀した。
ムネノリ君を先頭に双羽隊長、三枝、警官、鑑識捜査員、身内がぞろぞろ続いた。
縁側に沿って庭を歩き、仏間と座敷の前を素通りし、固く閉ざされた引き戸の前で立ち止まった。
「このお部屋です。室内の骨には触らないで下さい。多分、ここはその骨を閉じ込める為のお部屋です。それに触って何かあっても、僕には何もできませんから、気をつけて下さい。お部屋の入口に近い、床下に埋まっている人を出してあげて欲しいんです」
幼女のような声が淡々と説明する様が、却ってトラウマになりそうな内容だった。
「真穂ちゃん、藍ちゃん、あっち行っとこう」
ヘタレのツネちゃんが小声で二人を呼んだ。
その三人と分家の嫁がそっと離れる。軽トラの前まで戻り、パトカーの傍に残る警官と何か話し始めた。
木戸は釘で固定されているらしかった。鑑識が写真を撮る。警官が持参した工具箱から釘抜きを出し、錆びきった釘を引き抜く。
「おまわりさん、手袋片っぽ脱いで、手を貸して下さい」
ムネノリ君がスコップを装備した警官の一人に言った。警官は言われるままに左の手袋を脱いだ。
ムネノリ君はその手を両手で包んで、さっきの呪文を唱え、警官の手を握ったまま言う。
「お部屋の床下を見て下さい」
「……ヒッ!」
「あー、そっちじゃなくて、下、床下、土の中です」
ムネノリ君に言われた警官は、ガクガク震えながら視線を下げた。
……何が、視えたんだ?
「その深さです。宜しくお願いします」
「……は…………はい」
警官は震える声で返事をして手袋をはめた。引き戸が開き、鑑識のシャッター音が響く。
壁……いや、家具の裏側が入口を塞いでいた。警官二人掛かりで、古い桐のタンスを除ける。
六畳くらいの板の間が現れた。
床には厚く埃が積もり、奥の壁際には祭壇のような物があった。
他には何もない。
祭壇には白い陶器の壺が載っていた。鑑識がシャッターを切る。
「それに触らないように気をつけて、手前の床板を剥がして下さい」
怯む警官たちにムネノリ君がロリ声で容赦なく命令した。
釘抜きを装備した警官が縁側に身を置いたまま、手前の床板を剥がし始める。床板はすぐに剥がれ、スコップを持った警官二人が、固い表情で土を掘った。
誰も何も言わず、スコップの音だけが響く。
唾を呑みこもうとしたが、口の中がカラカラに乾いていて、上手くいかなかった。
……ここ、オレの部屋の真下だよな?
「出ました」
警官の声に続いて鑑識のシャッター音が響いた。




