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汚屋敷の跡取り  作者: 髙津 央
◆印歴2213年12月29日

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68.二分の一成人式

 最後の一箱を降ろし、天袋が空になったと思ったが、隅にA4サイズの紙束が見えた。


 天袋の中を匍匐前進(ほふくぜんしん)して紙束を拾う。

 それを畳の上に投げ、足先からそーっと降りた。



 紙束は「二分の一成人式」の為に学校で作らされた自分史だった。


 生まれてから十歳までの主な出来事の年表、嬉しかったこと、頑張ったこと、褒められたこと、これから頑張りたいこと、将来の夢が、拙い字で綴ってあった。

 後半は、春夏秋冬の代表写真十年分、計四十枚が糊付けされたアルバムになっていた。

 七歳までの写真には、オレと一緒に微笑むオフクロの姿があった。


 この写真の選定作業は苦行だった。


 二分の一成人式の後、返却されたこれを読み返す気はなかったが、捨てることも出来なかった。

 十歳のオレは、押入れによじ登り、天袋の奥深くへと投げ込んだのだった。



 「……母ちゃん」


 三十年振りにこの単語を口にした。



 十歳の自分史を学習机の上に置き、オレは作業を再開した。


 壁際に中途半端に残った密林の段ボールを紐で束ねる。

 本棚の棚板を外す。嵌め込み式の棚板は簡単に外れた。これも紐で束ねて外に出す。


 押入れと天袋の中身、段ボールと棚板を庭に出し、部屋に戻って雨戸と窓を閉め、エアコンを切った。

 本棚本体を廊下に出し、壁のスイッチで部屋の明かりを消す。



 三十七年の人生の内、半分以上をこの部屋に閉じこもって過ごした。

 その部屋の中身の(ほとん)どが、ゴミとオレの人生に必要のない物だった。



 オレは何の為にこの世に生を受けたのか、わからないまま、明日の朝、処刑される。

 多分もう日付は変わっているだろうから、今日だ。

 夜が明けて、ムネノリ君が目を覚ましたら、すぐ三枝(さえぐさ)にオレの処刑を命じるだろう。



 誰も、助命の嘆願なんかしない。

 処刑なんか、クソ喰らえだ。



 オレは、コの字型に並べた廃棄物の中心の窪みに本棚を裏返しに置いた。その上に比較的軽めのゴミ袋を載せ、本棚を埋める。

 本棚を低く持ち上げ、中に身を滑り込ませた。片手で本棚を持ち上げたまま、もう一方の手で滑り込みの跡を消す。


 手を放すと、外界から遮断された。

 本棚はオレの棺桶になった。

 処刑なんか、されてやらん。


 ムネノリ君にオレを殺させて、人殺しにしてやる。


 無辜(むこ)の民を生きたまま焼き殺した罪人として、王位継承権を剥奪されろ。ついでに、日之本帝国からも追放されやがれ。王族でなくなれば、あんな奴、即効で野垂れ死にだ。


 せいぜい苦しみながら死ぬがいい。

 オレは、ムネノリ君の魔法で痛みや熱さを感じる間もなく灰になる。

 オレを怒らせたコトを全力で後悔させてやる。



 【12月30日午前6時48分現在 押入れ容量0%使用中】



 寒さと緊張で一睡もできなかった。

 走馬灯なのか、さっき見た十歳の自分史が、頭の中をグルグル回った。


 二十歳の成人式には、当然ながら参加していない。

 同級生とは高校卒業以来、一度も連絡していない。どうせオレの人生には関係のない奴らだ。レベルの低い田舎者なんか、友達でもなんでもない。単なる同級生だ。

 もう顔も名前も覚えていない。



 乾いた地面を歩く複数の足音が近付いてきた。


 いよいよだ。

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【関連】 「汚屋敷の兄妹
賢治と真穂視点の話で「汚屋敷の跡取り」と全く同じシーンがあります。

▼用語などはシリーズ共通設定のページをご参照ください。
野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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