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汚屋敷の跡取り  作者: 髙津 央
◆印歴2213年12月29日

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62.屁理屈

 剣の柄だ。

 鍔を胸に当て、剣を引き抜くような動作をすると、白く輝く光の刀身が現れた。まるで、隊長が剣の鞘のようだった。

 女騎士は、叔父さんの背後を通ってオレの横に立った。


 思わず首を竦めるオレ。首チョンパですか? 


 隊長は、オレの後ろの障子を開け、廊下に出た。

 「殿下は、王族の中でも特に強い魔力をお持ちで、我々の力は全く比較にもなりません」


 だったら、オマエら護衛なんか要らないんじゃね?


 隊長は、雨戸も開けた。外の風が卓上コンロの炎を揺らす。

 部屋の灯に照らされた庭は、雪が積もって真っ白だった。


 うどんを食べ終わった真穂が、下座の卓上コンロの火を消した。賢治が笊に残った野菜を上座の土鍋に全部入れた。


 ツネちゃんが座敷に戻ってきた。

 「ツネちゃん、すまんな。ノリ君の様子は……」

 「叔父さんのせいじゃありませんから……泣き疲れて、三枝(さえぐさ)さんが寝かしつけてくれました。多分、もう大丈夫です。ご心配お掛けしてすみません」


 神妙な顔のツネちゃんの答えがツボに入り、オレは思わず噴き出した。緊張感に耐えられなくなっていたのもある。

 笑ってはいけない、葬式で坊さんが屁をこいたとか、ああ言うノリ。


 一度決壊した笑いは留まる所を知らず、座敷にはオレの爆笑が響き渡った。


 「笑い事じゃないんだけど……」

 「いや……フヒヒッだっだって、デュフフねっ寝かしつけって、ぶひゃひゃひゃひゃ……」

 「宗教(むねのり)は、消化器系が未発達で乳幼児と同じ形のままなんだ」

 ツネちゃんが深刻な顔で説明を始めた。


 声だけじゃなくて胃腸も赤ん坊並とか、超ウケるんですけど。


 「乳幼児の胃って縦型で食べ物を貯め難いから、ちょっとした刺激ですぐ吐いてしまう。小さい子が泣き過ぎて吐いて、嘔吐物で窒息死って、よくある事故なんだよ」

 「いや……デヒャヒャヒャヒャ……み、三十路でそれはフヘヘねーってフヒャヒャ……」


 叔父さんが食卓を拳で叩く。外まで響き渡る音でオレの笑いが止まった。

 「優一! お前は人の話もまともに聞けないのか! ……大人でも、病人や高齢者、酩酊者が嘔吐物で窒息死するのは、ままあるコトだ。お前、ヘタしたら人殺しだったんだぞ?」


 「二人は宗教(むねのり)が子供の頃、護衛に任命されて、教育係も兼ねてる。三枝(さえぐさ)さんには、宗教(むねのり)と同じように、心臓に障碍がある息子さんが居たんだけど……その子は、護衛の辞令が出る直前に亡くなったんだそうだ。私たちと同い年だったんだけどな……」

 ツネちゃんが、しんみりした声で説明した。


 取敢えず突っ込むオレ。

 「いや、計算合わねーだろ。二人とも、どう見ても二十代……」

 「二人はゆっくり年を取る人種だから、見た目よりもずっと高齢なんだ」


 魔法文明圏の人口の約三割は、何百年も生きる化け物級の長命人種だ。だから、魔法の国や両輪の国で統計を取っても、平均寿命の項目は参考にならない。


 後出しの言い訳しまくりだな。

 で、それがホントならこの女騎士、超絶若造りのババアってコトかよ?

 成程(なるほど)な。だからか。

 あのプレッシャーは、年の甲なんだ。


 「それで三枝(さえぐさ)さんは、宗教(むねのり)を我が子同然に思ってくれてる。……大体、ゆうちゃんが暴言吐いて傷つけた癖に、何、笑ってるんだよ!」

 珍しく怒っているツネちゃんに説明を任せ、マー君は食器を回収し始める。

 藍が下座の土鍋を持って座敷を出た。


 逃げやがったな。


 「いや、そんなのお前らが、先にオレに暴言吐いたからだろうが。何が『傷ついた』だよ。ニートは何言われても、サンドバッグでいろってのかッ? そもそもオレを怒らせて、あんなコト言わせたお前らが悪いんじゃねーか!」


 喧嘩は先に手を出した方が悪い。

 だから、先にオレに対して暴言吐いたこいつらが、全面的に悪い。


 オレだってあんなコト、心臓の弱いムネノリ君に言いたくなかったさ。

 だが、名前の通り優しい優一様へのお前らの態度が悪いから、敢えて言わざるを得なかった。


 オレの事情を無視して、学歴自慢しやがったお前らが悪いんだ。


 お前らがオレを怒らせたのが悪い。


 オレは魔女のババアの言い訳には騙されない。

 税金から給料貰う連中は、休日なしの二十四時間勤務でない限り、国民から金巻き上げて私腹を肥やす税金泥棒だ。

 オレらが血税で養ってやってるのに、楽して得するなんて、絶対に許される訳ねーだろ。


 隙のない完璧な正論。


 このオレを論破できるならやってみろよ。

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【関連】 「汚屋敷の兄妹
賢治と真穂視点の話で「汚屋敷の跡取り」と全く同じシーンがあります。

▼用語などはシリーズ共通設定のページをご参照ください。
野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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