表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
汚屋敷の跡取り  作者: 髙津 央
◆印歴2213年12月27日
6/87

06.正統派メイド

 控えめなノックの音で目が覚めた。

 寝落ちしていたらしい。


 「優一(ゆういち)さん、おはようございます」

 若い女の声がオレの名を呼んだ。


 ディスプレイはエロゲではなく、昨夜のまとめブログのままだ。

 かわいく描き直された求人広告の美少女イラストに「ウチらと一緒に働こ☆」と台詞が付け加えられたものが、画面いっぱいに表示されている。

 テンプレ美少女イラストだが、「萌え」をよくわかっている。


 再度のノックでドアに目を向ける。

 「優一さん、朝食をお持ちしました」


 ……誰だ? 


 真穂(まほ)なら「優一さん」なんて他人行儀(たにんぎょうぎ)な呼び方はしない。

 半分しか血が繋がっていないからか、母親の(しつけ)がなっていないのか、長兄のオレを「ゆうちゃん」呼ばわりする。


 後妻の美波(みなみ)は、オレより七歳上なだけだが、充分ババァだ。こんな若い声なワケがない。それに、離島に引っ込んで何年も帰っていない。


 ディスプレイの右隅に目をやると、12月27日午前08時31分と表示されていた。


 入院中のババアが、気を()かせて出前でも取ったのか? 

 朝は寝てるから、飯はいらねーつってんのに。


 「優一さん、開けて下さい」


 色々と諦めて、堆積したゴミを掻き分けてドアに接近し、一センチばかり開けてやった。


 死角に立っているのか、女の姿は見えない。

 卵焼きの匂いがする。

 強引にドアを引いて、隙間を顔の幅程度に広げた。


 メイドだった。


 二十歳前後くらいの清楚なメイド。

 それも、なんちゃって萌えメイドではなく、古き良き時代の正統派だ。


 膝「下」二十センチの黒のロングワンピースに身を包み、その下に履いているのが黒のタイツか靴下か不明だが、肌の露出は顔と手首から先のみ。


 純白のエプロンには、控えめなフリルが上品にあしらわれている。

 ヘッドドレスではなく、清潔な白の三角巾で艶やかな黒髪を覆っていた。


 肌は健康的な小麦色で、くっきりした黒い眉、二重瞼に琥珀色の瞳、スッキリ通った鼻筋、彫りの深い顔立ちで、何処の国かはわからないが、エキゾチックな美人だと言うことだけは確かだ。



 美人だと評価しない奴は、審美眼が腐ってるんだろう。



 手に持ったお盆には、海苔を巻いた三角おにぎりとキレイな焼き色の卵焼き、箸と急須と湯呑みが載っている。


 「お盆が通れませんので、もう少しドアを開けて下さいませんか?」


 物理的に無理。

 これ以上は開けられない。

 メイドさんは、困った顔でオレの顔を見詰めてきた。



 髭剃っててよかった……!

 いや、じゃなくって! どうすれば……

 メイドさんにこんな汚部屋見せらんねぇ……

 つーか、汚部屋でなくても色々とマズイ物もあるし……いや、じゃなくって!

 あー……オレ! オレが出ればいいんだよ!

 廊下! オレ、出る! メシ、食う! メイドさん、喜ぶ!


 「あ……いや、待って! いや、あの、で……出る! 出る出る! オ……オおオォぉオレ! 廊下!」


 二十年近くババア以外と殆ど会話していない上、ここ一カ月近くはそのババアとも会話していないせいか、頭の動きに口がついてきてくれない。


 メイドさんは一歩下がって、ドアの前にスペースを開けてくれた。

 オレは、猫のように頭ひとつ分の隙間に体を通して、廊下に出た。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【関連】 「汚屋敷の兄妹
賢治と真穂視点の話で「汚屋敷の跡取り」と全く同じシーンがあります。

▼用語などはシリーズ共通設定のページをご参照ください。
野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ