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汚屋敷の跡取り  作者: 髙津 央
◆印歴2213年12月29日

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56.真逆の人生

 「さ、『わざわざパンツ買ってきてくれてありがとうございます』って言ってみ?」

 「………………」


 「ゆうちゃんは本家の長男だけど、今は農業やってなくて、タダのヒキニートだよね? 法事もノータッチだよね? 家業に従事して責任を果たしてこそ、本家の跡取りなんだから、今のゆうちゃんって『山端(やまばた)家の跡取り』名乗る資格ないと思うよ」


 こいつ、何いきなりオレの存在全否定してんだよ!


 「穀潰しのヒキニートの為に、代表取締役社長のこの俺が、わざわざ車で往復一時間弱のコンビニまで、パンツ買いに行ってやったんだぞ? お礼の一言くらい言っても罰は当たらないと思うけど?」

 「いや、しゃ……社長?」


 「大学ん時に起業して、今年で十三年目。産業ロボットとかのメーカーやってんの」

 「う……嘘だッ!」


 「ハハハッ。そんなすぐバレる嘘吐(うそつ)いても、仕方ないだろう。それに、俺が社長でもそうでなくても、ゆうちゃんのパンツ買いに、遠くまで行ったことには変わりないだろ。山端の本家の跡取りは、お礼の一言も言えない礼儀知らずなのか?」

 「………………」


 「別に『礼を述べたら死ぬ病』とかに、(かか)ってるワケじゃないだろ?」


 ……何だその奇病。


 「ほら、言ってみ? 幼稚園児でも発音できる簡単な単語だぞ?」

 「チッ! はいはい、アリガトーゴザイマース! これでいいんだろ!」

 オレは敢えて目を合わせず、吐き捨ててやった。


 年下の外孫の分際で生意気な。


 「何だ。言えるんじゃないか。心が全くこもってないの、今回だけは大目に見といてやるよ。形から入るのもアリだろ。ゆうちゃん、もういい年なんだから、他人に感謝してそれをちゃんと伝えるってこと、学習しろよ」


 また上から目線で説教を始めやがった。聞いてねーし、しつこいっつーの。


 その隙を突いてコンビニ袋をひったくる。

 「え? ゆうちゃん、そんなに痒いの? 今すぐ履き替える?」

 「い、いや、後で……」

 「じゃあ、メシ食いに行こう」


 マー君はオレの手からあっさりコンビニ袋を奪還し、ベッドの上に放り投げた。有無を言わさずオレの手首を掴んで廊下に引きずり出し、もう一方の手で壁のスイッチを切る。


 「いや、ちょ……待て! オレは分家には行かねえ!」

 「あーハイハイ、行きたくない理由は、分家で聞かせてもらうからねー」


 マー君は、手首を掴んだまま階段を駆け降り、オレは落ちないように、何とかついて降りた。

 メイドさんも、他の奴らも、もういなかった。とっくに分家へ行ったのだろう。



 完全に日が暮れて、外はもう真っ暗だった。

 結局、力づくでマー君の車に乗せられてしまった。


 車のライトに浮かび上がった道は、完全に除雪され、乾いた地面が露出している。道の両脇……と言うか、ウチから分家までのルート外の道には、雪が分厚く積もったままだ。


 オレもマー君も無言だった。


 バックミラーに映ったマー君の目は、すっかり大人になっていた。

 三十三歳。外人顔のイケメンで、既婚で、子供が居て、車の免許持ってて、大学出て、起業して、十年以上会社を存続させている社長。


 ……言ってることが全部本当だったとしたら、オレとは真逆の人生だ。


 マー君は、オレを豪農の跡取りではなく、穀潰しのヒキニートだと断言した。

 オレだって大学に合格してたら、とっくに医者になってて、今頃はこの地区に病院建ててやって、ホントならババアもオレの病院に入院してたんだ。

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【関連】 「汚屋敷の兄妹
賢治と真穂視点の話で「汚屋敷の跡取り」と全く同じシーンがあります。

▼用語などはシリーズ共通設定のページをご参照ください。
野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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