54.君の幸せ
つらつら考えている内に、手前のフィギュア類が片付いた。
その奥から、郵送で定期購読していたアニメ誌が出てきた。
密林の箱は残り少なく、これを全て入れるのは不可能だ。紐で縛って夜中に庭に出して、上からゴミ袋を被せてカモフラしよう。
小学生の頃、小遣い目当てで古新聞を束ねる作業を何度もしていたから、これも楽勝だった。二年分くらいずつ束ねる。
「いや、あの、さ、君、何してる時が幸せ?」
ドアの陰に雑誌の束を積みながら聞いてみた。
趣味以外の接点を探そう。
「ご主人様のご命令を上手にこなせて、お褒めに与った時が一番幸せです。『ありがとう』のお言葉を戴いて、頭を撫でられている時に、自分の存在意義と、生きていることを実感します」
答えたメイドさんは頰を淡く染めて、夢見るようにうっとりしている。
洗脳、凄過ぎるだろ。
魅了の魔法なら、桁違いに強力な……禁術なんじゃないのか?
「いや……じゃ、じゃあ、二番目は?」
この話題は危険だ。瞬時に二番手を用意する俺。
「ご用のない時に、ご主人様にだっこされて、もふもふしている時も幸せです」
「いや、も……もふもふ!?」
それは一般的には「ぱふぱふ」って言うんだよ!
ムネノリ君め!
ロリ声で何もできねー癖に中途半端に羨ま怪しからんコトしおってからに!
あのエロガキ絶対泣かす!
「ご主人様は毎晩、ベッドの中で私をだっこして、もふもふして下さるんです。ご主人様にだっこされていると、とても安心できて、ぐっすり眠れます」
メイドさんは、心底嬉しそうな声で説明してくれた。
毎晩……!
ベッドの中で……!
だっ……
だっ…………
「だあぁあぁぁあぁぁぁぁぁあああッッ!」
勢い余って雑誌を束ねる紐を引き千切る。血圧が上がり過ぎて卒中とかになりそうだ。
王族だからって……特権階級だからって……羨ま怪しからん!
オレたち、従兄弟なのに!
ずるい!
ムネノリ君ばっかり! ずるい!
オレにもメイドさん、ぱふぱふさせろ!
「何があったのですか?」
双羽隊長の声で、一気に体の芯まで凍りついた。
恐る恐る、声のした方に顔を向ける。
隊長は、窓の外に浮いていた。
……魔女って、箒がなくっても、空を飛べるんデスね。
「ひっいや……! あの! なっななな何でもないであります!」
「そうですか?」
疑わしそうな目を向ける隊長に、全力で頷くオレ。
隊長は、部屋の中を一通り見回して「異常なし」と判断したのか、オレの視界から消えた。ドアの陰に積んであるアニメ誌は、スルーされた。
……油断も隙もありゃしねー。




