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汚屋敷の跡取り  作者: 髙津 央
◆印歴2213年12月29日

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52.死蔵品

 階段横のスペースにごちゃごちゃあった物も、いつの間にか片付けられていた。

 見たことのないドアが開け放たれている。


 覗いてみると、何もない狭い板の間があるだけだった。中の物は全部出したのだろう。

 奥の右手側は天井が斜めに低くなっている。この部屋は階段下の収納スペースだった。


 生まれて三十七年間、この家で暮らしているが、知らない部屋、ドア、通ったことのない廊下があることに驚きを禁じ得ない。


 存在だけは知っていても、入ったことのない部屋もある。


 それも、意図的に扉を塗り込めて「開かずの間」にしたのではなく、物がいっぱいで物理的に入れないとか、棚が邪魔で襖が開けられないとか、物を置き過ぎて廊下が通れなくなって、その先の部屋に行けなくなったとかで……だ。


 ……オレん家、マジでゴミ屋敷じゃねーか。


 家がでかくて中も広い筈なのに、無茶苦茶狭かった。

 廊下も碌に通れなかった。

 物がなくなって、やっと家の広さがわかった。

 部屋に入れるようになった。


 何だこれ? 何で今まで放置してたんだ?

 いつから、こんな状態だったんだ?


 知らない部屋が殆どってことは、オレが物心つく前からこんなだったってことだよな?

 物に占領されて、人が一歩も入れない部屋の存在意義って?

 物置きだって、中の物を出せなきゃ意味ねーよな?


 あっても使えない物なんて、ないのと同じで……


 ウチは豪農で、家がでかくて蔵と倉庫もあって、物持ち良くて金持ちだと思ってたけど、実は違うんじゃね?

 少なくとも物持ちは良くないよな?


 いっぱい「ある」ってだけで使ってない。

 使えない物は「ない」のと同じだ。


 オレの服、あんなにあったけど、捨てたヤツの方が多かった。

 オレがもう何年も洗濯に出さないから、ババアがセールの度に、ダサい新品買ってきて、飯と一緒に置いてった。

 でも、それも洗濯しないから、どんどん溜まって……ちゃんと見たら、虫に食われたり(カビ)が生えたりして、もうホントに着られなくなってて、捨てるしかなくなってた。


 他の部屋の物も多分、黴や虫食いで使えなくなってて、捨てたんだろうな……

 捨てた物を元から買ってなければ、スゲー貯金できてたんじゃね?


 つか、ババアが転んで怪我して、病院代が掛かることもなかった訳で……

 今まで、金をドブに捨てるようなことばっかしてたってことなのか?



 何もない階段下の収納スペースの闇を見ている内に、背筋が寒くなってきた。


 チリひとつ落ちていない階段を無言で上り、部屋の窓を全開にする。

 (ふすま)はゴミの堆積層だった部分が変色していた。古びたカーペットには、タンスの跡がくっきり四角く残っている。


 このカーペット、元は緑色だったんだな。


 部屋の入り口からは、パソコンデスクが丸見えになっていたが、電源は落としてあるのでセーフだ。

 部屋の中は、メイドさんに堂々と見せられる状態になっていた。


 そしてそれは、掃除できる場所がなくなったことをも意味していた。



 魔窟を……メイドさんの前で魔窟を御開帳する訳にはいかない。かと言って、二人きりになれるチャンスをみすみす手放すこともできない。


 オレは考えた。


 押入れはドアの蝶番(ちょうつがい)部分の方向にある。ドアを全開にしなければ、死角になってメイドさんからは見えない筈だ。


 まず、ドアを半開きに固定。それから、幼稚園で作った工作とか、当たり障りのない物から捨てる。ヤバい物は夜中にやろう。


 オレはドアの陰にキャラ椅子を置き、半開きにした。

 メイドさんは怪訝な顔をしたが、何も言わなかった。



 「押入れ」という名の魔窟と対峙する時が来た。

 十数年の時を経て、封印を解放する。



 いきなり、アレな感じのフィギュアが出てきた。


 思わず襖を閉め、振り返る。

 ドアの陰になってメイドさんの姿は見えない。

 大丈夫。だったらメイドさんからも、オレは見えない。

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【関連】 「汚屋敷の兄妹
賢治と真穂視点の話で「汚屋敷の跡取り」と全く同じシーンがあります。

▼用語などはシリーズ共通設定のページをご参照ください。
野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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