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汚屋敷の跡取り  作者: 髙津 央
◆印歴2213年12月29日

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51.洗濯

 仏間の隣室の襖が開け放たれ、入口に双羽(ふたば)隊長が立っている。

 中を覗くと、何もない十二畳の和室だった。

 水の塊が、(カビ)の生えた畳の上を這い回り、埃や汚れを根こそぎにしている。何度見ても凄い。

 ゴミ袋を補充しに居間に入った。


 ……空っぽだ。


 居間には何もなかった。昨日まであったオレの服、テレビ、こたつ、カーテンとかが入った紙袋、ゴミ袋の箱が消えていた。


 「……ない。どっどこに……」

 「お部屋の中身は現在、一時的に物置きに入れています」

 「は? ……いや、物置き? 押入れじゃなくって?」

 「はい。こちらです」


 てっきり外の倉庫に行くのかと思っていたら、メイドさんは家の奥、台所の角を曲がって、初めて見る廊下の先の部屋に入った。


 ……廊下の角を曲がれて、その先にも部屋があるなんて知らなかった。


 メイドさんが木製の引き戸を開けた。

 入って右手の壁際にスチールラックが置かれ、ホームセンターの商品棚のようにきっちりと物が並べられている。

 透明のプラ製コンテナボックスの中に、種類ごとに分けられた乾物が見えた。

 左手側にオレの服や昨日買った物、こたつ等が整然と置いてある。


 オレはラックからゴミ袋の束を取った。

 未開封の箱はそのまま、開封済みの物は箱から出して積んである。その隣にガムテープ等もあった。オレは紐とガムテープを一巻ずつ取った。

 箱の開口部がラックの手前になるように置かれ、取り出しやすかった。

 ゴミ袋に入ったままのオレの服から靴下を一組出す。


 血染めのヤツは捨てるしかないな。


 脱いだ靴下をメイドさんに差し出す。

 「いや、これ、捨てといて」

 「お洗濯なさらないのですか?」

 メイドさんは、首を傾げただけで、靴下を受け取ってくれなかった。


 あ、そっか、血染めの靴下なんて気持ち悪くて無理だよな。って、洗濯?


 「いや、洗濯? 無理だろ。こんな血塗(ちまみ)れ」

 「今ならまだキレイになりますよ。お洗濯なさらないのですか?」


 えっ? コレ、まだセーフなの? 


 「いや、でも、これ、メイドさんに手洗いしてもらうの、気の毒だし……」

 「お洗濯は、拝命(はいめい)しておりません」

 「………………」


 命令されたこと以外はしない……って言うか、しちゃダメなのか。

 仕方がない。勝手なコトしてメイドさんが折檻されたら可哀想だ。

 オレ自ら洗おう。靴下片っぽくらい楽勝だろう。


 洗面所の前に戻った所で丁度、双羽(ふたば)隊長が十二畳の和室から、汚水を連れて出てきた。

 隊長に洗濯なんか頼んだら、殺されるかも知れん。なるべく目を会わせないように……


 「血で汚れた衣服の洗い方は、ご存知ですか?」

 「………………」

 隊長の質問に全身が硬直する。


 口の中がカラカラに乾き、舌が貼りついて声が出ない。辛うじて、ぎこちない動きで首を横に振ることだけはできた。


 「その程度の汚れなら、冷水で手洗いするだけで充分です」

 冷たい声でアドバイスを残して、隊長は玄関から出て行った。その姿が見えなくなった途端、脱力しそうになったが、何とか持ち堪えた。


 メイドさんを心配させてはいけない。


 洗面所で水を出し、靴下を濡らす。

 洗剤を付けるまでもなく、蛇口からの流水だけで見る見る内に血が洗い流されていった。

 凝固しつつある部分だけが僅かに残る。水は冷たかったが、汚れがスッパリ落ちるのが面白く、苦にならなかった。


 ふと、小学校の掃除の時間を思い出した。

 雑巾洗いの要領で、靴下を揉み洗いする。


 僅かに残った汚れもキレイさっぱり落ちた。

 血染めの靴下は、水洗いだけで元の白さを取り戻したのだ。


 メイドさんと双羽隊長の言う通りだった。

 メイドさんは、マー君みたいにうるさく口出しせず、黙って見守っていてくれた。

 オレは洗い終わった靴下を念の為、洗濯機に入れて洗面所を出た。

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【関連】 「汚屋敷の兄妹
賢治と真穂視点の話で「汚屋敷の跡取り」と全く同じシーンがあります。

▼用語などはシリーズ共通設定のページをご参照ください。
野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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