表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
汚屋敷の跡取り  作者: 髙津 央
◆印歴2213年12月26日
5/87

05.求人広告

 先週と同じ、本や雑誌が積み重なった埃まみれの階段を上り、エアコンの効いた部屋に体を潜り込ませた。


 暖かさにホッとする。


 泡が付いたトレーナーを脱ぎ捨て、ベッドに積み上げられた服の山からテキトーに着られそうな物を引っ張り出して袖を通した。

 穴の開いていない靴下が視界に入ったので、ついでに履き替えることにする。


 ……と、その前に、トイレから帰ったら、足の爪を切るつもりだったんだ。


 裸足になってパソコンデスクの前に座り、マウスの横に置いた爪切りを手にとる。肉を切らないようにゆっくり、確実に爪切りを動かす。

 切れた爪がパチンと音を立てて弾き飛ばされ、部屋のどこかに消えた。


 カップ麺の容器、お菓子の空き袋、空缶、空のペットボトル、使用済みティッシュ、段ボール、紙屑、尿ペット等々が腰の高さまで堆積し、その中に本や服の山が崩壊してできた塚が幾つも形成されている。

 ベッドの上は、枕周辺だけに辛うじてスペースがあり、そこから布団に潜ることができるが、足許辺りは完全に服塚に埋もれていた。


 今更、爪の十本や二十本、どうと言うことはない。


 右親指の爪がEnterとShiftの間に入り込んでしまった。これはマズイ。

 キーボードを逆さにして振ると、爪は難なく机の上に落ちた。

 お菓子の食べカスや抜け毛、埃の塊も一緒に落ちてきた。

 ふとした好奇心で爪の臭いを嗅ぎ、全力で後悔。


 キーボードをパソコン本体の上に載せ、その辺に落ちていたティッシュで机の上の埃等を払った。パソコンデスクの上にくっきりと掃き跡が残る。

 マウスとマグカップと箸も本体に載せ、箱からティッシュを一枚取って机を拭いた。

 黒い抜け毛、灰色の埃、茶色い食べカス、白い爪を机の下に払い落し、ティッシュをゴミ箱があった辺りに投げる。


 丸めたティッシュがどこに着地しようと気にする必要はない。


 床全体がゴミ箱のような部屋だ。

 と言うか、床自体もう何年も見ていない。



 爪切りを終え、さっき発掘した爪先に穴が開いていない靴下を履いて、マウス、キーボード、マグカップ、箸を所定の位置に戻すと、画面に向かった。


 ディスプレイには、ネット掲示板のニュースに関するスレッドから、コメントをピックアップしたまとめブログが表示されている。

 どこかのローカル新聞が素っ頓狂な求人広告を出した件について、スレッドが乱立、それらをまとめて転載した記事だった。

 記事そのものは数年前のもので、今更コメントするまでもない。


 さっき知ったばかりで、「祭」に乗り遅れたことが悔まれた。


 そのローカル新聞の発行エリアの県が、職歴のない若者を対象にした緊急雇用創出事業を行い、地元企業に外注。

 そのローカル新聞は受注企業のひとつで、ヲタ系ニュースの記者を募集していた。

 オレの県からは遠い。

 求人の〆切もとっくに終わっている。


 「ニート=オタク」の短絡思考と微妙な萌え絵でオタクに媚びた広告が(カン)に障った。

 萌えってモンをまるでわかってない奴が、表面だけなぞったような魂のない美少女キャラ。

 しかもヘタ。

 その辺のイラストSNSに投稿してる中坊の方がまだマシなレベル。絵ってもんを舐めてんのか。

 ヲタを舐めんのも大概にして欲しい。

 つーか、左巻きの新聞屋がこっち見んな。マスゴミが。


 オレ同様、アホなローカル新聞に憤るコメントと、面白がって「こうすれば萌える」とアドバイスするコメント、描き直した美少女イラストの投稿で、掲示板は炎上状態だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【関連】 「汚屋敷の兄妹
賢治と真穂視点の話で「汚屋敷の跡取り」と全く同じシーンがあります。

▼用語などはシリーズ共通設定のページをご参照ください。
野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ