46.家事指導
まずは、袖まくり、か。よし、覚えた。
次はこれか? 洗剤に手を伸ばすオレ。
「先に食器を濡らす。洗い桶がある時は、桶にぬるま湯を貯めて、洗剤を少し入れて、食器を沈める。食べ残しや脂汚れをある程度落としてから、スポンジで洗うんだ」
「いや……あの……おっ……桶とか……ないし……」
「油汚れがひどい時は、食器を重ねない。ギトギトした奴だけ別に洗う。そうでもない時、今回みたいに食べ残しもなくて、皿の数が少ない時は、大きい食器に小さい食器を入れてそこにお湯を入れる」
あれっ? 箸は?
「箸やカトラリーは、後でまとめて洗う」
オレは言われた通りに丼の中におでんの器と汁椀を入れて、蛇口をひねった。汚れがよく落ちるように、洗剤をたっぷりとスポンジにつける。
「洗剤付け過ぎだよ。食器三つと箸一膳でそれは多過ぎ。油ギトギトって訳じゃないんだから、そんなに要らないんだよ。あーホラ、溢れてる溢れてる。お湯止めて! 洗剤もお湯も無駄遣いしない! 洗剤が多過ぎると濯ぎに余分な時間が掛かるし、ぬるぬるするから手が滑って割ってしまう原因になるし、肌荒れの原因にもなるし、環境にも良くない。金、時間、安全、健康、環境、全てに於いてよくないから。わかった?」
お前は鬼姑かあああぁあぁぁッ!!
嫁いびりみてーにグチグチ細けーダメ出ししやがって。
脳筋の癖に女々しい奴め。
だが、脳筋のマー君に言い返すとキレて何されるかわからんので、黙って頷いておいた。
「お湯出して、スポンジ濡らしながらギュッギュッて絞って。そう。それで余分な洗剤が落ちたから、お湯止めて、食器洗って」
オレが黙っててやってるからって調子に乗りやがって。いちいち指図すんな。
汁椀、おでんの皿、丼の内側をスポンジでこすり、箸も口に入れた部分だけ洗った。
使って汚れた所だけ洗えばいいんだろ。
効率いいし、節約できる。一を聞いて百を知るオレ。
「食器の縁と、裏の糸尻の部分も洗って、箸も全体を洗うんだ」
オメーが節約しろっつったからそうしたんだろうが。
ダブスタ野郎が。
ムカついたせいで力を入れ過ぎてしまったらしい。汁椀がぬるりと滑り落ちた。
ガンッ!
予想以上の大きな音に、思わず身を竦ませる。
「大丈夫か? 初めてだし、ゆっくりでいいんだよ。怪我しないように気を付けてな」
オメーがゴチャゴチャうるせーから落としたんだろうが。
それでもオレは、黙って言われた通りに実行した。
「じゃあ、お湯出して濯いで。見た目に泡が消えてても、洗剤が残ってる時があるから、ぬるぬるしなくなるまで手で擦りながら……そうそう、そんな感じだ。濯ぎ終わったら、洗い籠に置いて。あー、逆、逆! 底を上に向けて伏せて、斜めに、糸尻にも食器の中にも水が溜まらないように置くんだ。自然乾燥でも、食器乾燥機でも、同じように風が通りやすいように配置するんだ。箸はこっちに立てて」
元プロの皿洗いだか何だか知らねーけど、いちいちドヤ顔で語ってんじゃねーよ。
オレが初心者だからって馬鹿にしやがって。上から目線でクソ偉そうに。
何様のつもりだよ。
テメーはムルティフローラの王族じゃなくて、日之本帝国の庶民だろうが。
王族のムネノリ君は皿洗いなんかしねーだろうけど。
大体、オレだって本家の長男なんだから、皿洗いなんかする必要ねーのに、あのクソ生意気な女騎士のせいで……
「ゆうちゃん、お疲れさん。初めてなのに割らなかったな。上出来だよ」
「い……いや……あ……おっ……おう……」
「乾いたら、食器棚の同じ食器の所に重ねて置く。箸は引き出しに片付ける。ここまでやって完了だ。急いでる時は食器専用の布巾で拭くけど、今回はいいだろ」
「い……いや……違う。こっこれ、ぶっ……分家のだから……その……」
「え? 分家のなの? ま、晩飯食いに行く時ついでに返せばいいよな」
オレは分家になんか行かねーっつってんのに、しつこい野郎だな。
あ! そんコトより、アレを確保しねーと……




