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汚屋敷の跡取り  作者: 髙津 央
◆印歴2213年12月28日

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43.雪の道

 雪は既に膝付近まで積もっていた。

 さっき置いたゴミ袋は見えない。


 それでもオレはフードを被り、ゴミ袋を手に庭へと足を踏み出した。

 いくらオレの家が広いと言っても、遭難する程ではない。


 大丈夫。ここはオレの家の庭で、蔵はすぐそこだ。


 オレは両手にゴミ袋を持ち、十九年ぶりに新雪を漕いだ。

 吹雪で、玄関灯の光もよく見えない。


 オレの足下で、オレが歩いた通りに道ができた。


 吐く息が風にもぎ取られて闇に消える。

 さっきの記憶を頼りに、およその見当を点けた場所にゴミ袋を置いた。

 道を戻り玄関に走った……つもりだったが、雪に足を捕られ、思うように進めない。


 三和土(たたき)にも雪が降り込んでいた。

 両手にゴミ袋を持ち、今、作った道が雪に埋もれない内にまた進む。

 さっき置いたゴミに(つまず)いて新雪の上にダイブしてしまった。

 すぐ起き上がり、手から離れたゴミ袋はそのままそこに捨て、玄関に引き返す。


 オレは重い荷物を持って、道に積もった新雪を踏み固めて進み、帰りは手ぶらで雪を蹴散らし、ゴミを捨て続けた。



 闇から降ってくる雪が、後から後からオレの道に降り積もる。

 吹雪の勢いは変わらなかったが、オレが作った道は、通る度に歩きやすくなった。


 何往復したか、わからない。

 オレはただ、ゴミを運ぶのに集中した。


 メイドさんのことも忘れ、ただひたすら、自分の足跡を頼りに新雪に作った道を歩き続ける。

 耳が千切れそうに痛くて寒い筈だったが、体の内側は火照り、苦にならなかった。



 最後の箱を捨て終え、雪が降り積もった玄関を強引に閉める。

 風がピタリと防がれ、吹雪の唸りが遠くなった。

 ゴム手袋を外し、震える手で靴紐を解く。

 大きく吐いた息が白く凝った。

 玄関灯を消し、風呂場に向かう。


 濡れた服を苦労して脱ぎ、パンツ以外は洗濯機に放り込む。

 温度設定をやや高めにして、十九年振りに風呂場に入った。


 冷たい床にシャワーを流し、足下から順にお湯を浴びる。

 シャワーは痛い程に熱かったが、冷え切った体が赤みを取り戻すにつれ、この温度では物足りなくなってきた。

 面倒なので、ややぬるく感じるお湯のまま、初めて見る種類のシャンプーで、短くなった髪を洗い、新しい石鹸で体を洗う。


 湯船に湯が貯まるのを待っていられないくらい、ヘトヘトだった。


 シャワーだけで済ませて、ふかふかのバスタオルで体を拭く。

 ふわふわもふもふの肌触りに、疲れた体が癒された。


 一日中履いていたパンツをまた履くのは汚い気がしたが、ない物は仕方がない。

 諦めて服を着た。パジャマは見つからなかったので、ジャージ上下と靴下だ。



 自室に戻り、期待半分、諦め半分でタンスの引き出しを開ける。


 絶望した。


 どの段も虫の巣だった。

 生きた幼虫が犇めき、茶色く変色した蛹の殻や糞が、土のように引き出しの底を覆い尽くしている。

 僅かに残った衣服はボロボロに食い荒らされ、元が何だったのかすら、わからない。土に還っていると言っても過言ではない。


 エコ……? 


 とにかく、タンスの中身は完全に終わっていた。

 引き出しと引き出しの間を、ガムテープで隙間なくびっちり密閉した。


 ディスプレイを見た。

 12月29日02時19分。


 画像と動画の削除が終了していることを確認し、シャットダウンする。OSの終了音を聞きながら雨戸と窓を閉め、蛍光灯を消して、ふかふかのベッドに潜り込んだ。

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【関連】 「汚屋敷の兄妹
賢治と真穂視点の話で「汚屋敷の跡取り」と全く同じシーンがあります。

▼用語などはシリーズ共通設定のページをご参照ください。
野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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