39.セルフサービス
「真穂ちゃん、いいの買えた?」
「うん、ばっちり。サービスカウンターに預けてあるよ」
「真穂、買い忘れはないか?」
「うん。ちゃんとリスト作って来たから」
「ゆうちゃんが、リモコンの電池欲しいんだって。それっぽいのありそう?」
やっとマー君が電池の在庫を確認した。
JKに浮かれて忘れてんじゃねーよロリコン。
「電池? いっぱい出てきたよ。腐食とか期限切れとかで、かなり捨てたけど、使えるのだけでも売る程ある。サイズも全種類ある」
「凄いな……雑貨屋でもしたら? 競合相手いないから楽勝じゃない?」
「やだよ。しがらみが多いだけで、絶対! 儲からないから」
「ふーん。まぁとにかく電池は買わなくてもいいな。じゃ、帰ろう」
三人はトレーを持って一斉に立ち上がった。
オレも慌てて席を立つ。
そのまま出ようとして、マー君に呼び止められた。
「ゆうちゃん、ここ、セルフだから」
「は?」
「セルフサービスだから、その人件費分、安いんだよ。トレーを返却口に持ってって」
年下の分際でオレに命令しやがって。
トレーをブン投げてやろうかと思ったが、耐えた。
他の客に警備員とか呼ばれでもしたら、家の恥だ。
無言でトレーを運び、前の奴の真似して返却した。
真穂が買ったものは、数組のカーテンと座布団、こたつ布団一式だった。
サービスカウンターで名前を告げ、レシートを見せて受け取り、四人で分担して車まで運んだ。
リアルにも、道具の「預かり所」ってあるんだな。
ヘェーヘェーヘェー。
カーテンと座布団をワンボックス、こたつ布団を軽トラに積んで帰路に就いた。
どうやら、またしても寝落ちしていたらしい。
マー君に小突き起こされた所はウチの庭だった。
倉庫の前で、メイドさんとツネちゃんが仕分け作業をしている。
蔵の前には、オレが築き上げたのより大きなゴミ山があり、少し離れた所には灰袋の小山もできていた。朽ちて歪んだ家具混じりのゴミ山の前に、ムネノリ君と三枝が居た。
庭に面した南側の雨戸が開いているのを見たのは初めてだった。
初めて見る縁側が、傾きかけた冬の日差しを受けて輝いている。
障子は、枠だけになっていた。
そこから見える部屋は空っぽで、古びた畳があるだけだ。
縁側から中を覗くと、空っぽの床の間の隣に仏壇が見えた。壁の一部が凹んでいて、そこにぴったり嵌め込まれている。観音開きは閉まっていて、位牌等は見えない。
ここ、仏間だったのか……
生まれて三十七年間、ずっと住んでて知らなかった。
しかもこの畳、腐ってんじゃねーか。どうなってんだこの家は?
法事は寺でやってたからいいけど、仏壇放置プレイって、御先祖様を粗末にし過ぎじゃね?
「ゆうちゃん、荷物の搬入、手伝ってくれるよな? ん?」
マー君がオレの肩を叩いた。
初めて見る仏間に夢中になっていたオレは、ちびりそうなくらい驚いた。
ワンボックスの荷台が開けられ、真穂がでかい紙袋を降ろしている。賢治は、こたつ布団の包みを抱えて玄関に入って行く所だった。
オレは、マー君に渡されたカーテンの袋を持って、玄関に入った。
……靴が……脱げない。
足の動きだけで脱ごうとしたが、無理だった。靴紐をきつく結び過ぎたかも知れん。
上がり框に荷物を置いて、手で紐を解いた。懐かしい感覚だった。
「畳替えの後で設置するから、居間に置くだけでいいよ」
マー君に言われ、廊下の奥に向かう。
靴から解放された足の裏に床の冷たさが凍みた。
「外から帰ったんだから手洗いしてよ。それと、夕飯は六時に分家に集合だから」
「いや、そんなコトより、電池」
オレが手を出すと、真穂は荷物を整理しながら答えた。
「隣の部屋にあるから、好きなの持ってって。余ったら元の場所に戻しといて」
カーテンを置いて居間を出て行くオレの背中に、真穂がポンと言葉を投げかけた。
「ありがと」
「は?」
「荷物運び、手伝ってくれてありがと」
フリーズするオレ。
何言ってんだ? こいつ。
オレはマー君に脅されて運ばされただけで、こいつの為にやったんじゃないのに。
何勘違いしてんだ?
会話ってのはキャッチボールなんだよ。取れない球を投げて寄越すな。
オレは球拾いなんかしねーからな。
無言で隣室の襖を開けた。




