37.フードコート
別に何もいらねーって……いや、ある、あった。
「いや、あの、リモコン……」
「リモコン? 何の?」
「いや、じゃなくって、でっ……電! 池!」
「電池? サイズは?」
「えっ? いや……あの……」
知るかよ。
「リモコンの電池? 単三だろうけど、たまに、単四とか、ボタン電池の機種もあるしなぁ……」
じゃあ、それ全種類買って来い。
「あ、でも、ゆうちゃんちにいっぱいあるって、言ってたような気がする」
何だその不確定情報。どこソースだよ。
「電池の件は後でケンちゃんたちに聞いてみよう。それよりゆうちゃん、朝、食ってないんだろ? 腹減ってない? 昼、何食べたい?」
「………………」
メニューもなしで何言ってんだよ。
「ん? あ、ちょっと待って」
マー君が急に立ち止まり、コートの内ポケットから、ケータイを取り出して喋りだした。
「……あぁ、ケンちゃん。お疲れ様。今、駐車場? …………。うん。こっちも今、終わったとこ。…………。真穂ちゃんにも言っといてくれる? じゃ、また後で」
オレ、置いてけぼり。
「ケンちゃん今こっち着いたって。先にフードコートに行っとこう」
マー君はオレの意向を確認せず、どんどん歩きだした。オレはコートのベルトから手を離さず、その後に続いた。
勝手に決めやがって。
昼時だからか、フードコートは平日にも関わらず、人でいっぱいだった。
親子連れが多く、ガキがギャーギャーうるさい。あいつら、小学生じゃねーか。学校はどうし……冬休みか。それでガキが多いのか。面倒臭え。
ソースが焦げる匂いと、安っぽい油の臭いが漂うフードコートの入り口近くで、エリアを囲む柵にもたれて様子を伺う。
空いてる席ねーじゃん。
「ゆうちゃん、何がいい?」
オレはカウンターの上の看板タイプのメニューに目を遣った。
お好み焼き、タコ焼、焼きソバ、ハンバーガー、うどん、ソバ、ラーメン、カレー、ホットドッグ、フランクフルト、ソフトクリーム、ポップコーン……
安物のジャンクフードばっかじゃねーか。
「ゆうちゃん、アレルギーで食べられない物ってある? ソバとか大丈夫?」
「いや、別に」
こいつ、オレにソバを食わす気か?
今、ソバの気分じゃねーんだよ。
「じゃ、何でも大丈夫だな。行こう」
マー君はそう言ってエリアに入った。慌ててオレも後を追う。
賢治たちを待ってるんじゃなかったのかよ。
マー君は迷わず、夫婦と小学生の子供二人という家族連れの席に向かって行く。家族連れが荷物とトレーを持って立ち上がったところで、丁度マー君が着いた。
ガキ共の食べこぼしでテーブルはベタベタだった。
トレーがあるのに、何でここまで汚れるんだよ。
これだからガキは……つーか、マー君も、店員が拭くまで待てよ。
いつの間に取っていたのか、マー君は、紙ナプキンでわしゃわしゃと、テーブルを拭いている。
何で客がそんなコトしてんだよ。店員呼んで拭かせろよ。
「ゆうちゃん、ここで待っててくれる?」
「………………」
「勝手にウロチョロしたら……わかってるよね?」
マー君は、ニッコリ笑って念押しすると、カウンターに向かった。途中でゴミ箱に紙ナプキンを投入する。
順番待ちの列に並んだマー君は、ケータイで誰かと話し始めた。通話はすぐに終わり、後は暇そうにボーっと突っ立っている。
そんなマー君を周囲の客がチラ見する。
矢田山市も田舎だから、外人が珍しいのか?
血筋で言えば、ほぼ日之本帝国人の筈なのに、巴家の三つ子は何故か、外人顔だった。
「あの外人さん、超かっこいい」
「写メってマホちゃんとナツミちゃんにも教えてあげよっか?」
「ダメだって、そんなの盗撮じゃん」
「そっかー。バレたらヤバいよねー。見るだけにしとこっかー」
部活帰りなのか、隣の席で制服姿のJKたちが、ハンバーガーを食べながらヒソヒソ喋っている。
ビッチ共が。イケメンだったら何でもいいのかよ。
「あっ、居た居た、あそこー」
真穂のキンキン声に、オレは振り向いた。




