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汚屋敷の跡取り  作者: 髙津 央
◆印歴2213年12月28日
31/87

31.命令

 自室に戻って窓の鍵を開けた。

 錆びているのか、固かったが何とか動いて解錠できた。

 外から、ジジババが驚く間抜けな声が聞こえる。もう点火したらしい。


 窓は開けられなかった。


 桟に分厚く積もった埃や虫の死骸が詰まって固まり、窓はびくともしなかった。

 折角のメイドさんのアドバイス「掃除する時は窓を開ける」は、実行不可能だった。


 何の為に徹夜までしたんだ……オレは……

 雨戸どころか、窓すら開かない暗い部屋で、オレは今まで何やってたんだろうな。



 「優一さん、おはようございます」

 メイドさんの声に心臓が止まりそうになったが、足下を見て落ち着きを取り戻した。


 戸口から見える位置にヤバい物はもうなかった。


 振り向くと、全開のままの戸口には、ゴミ袋を被せた段ボールを抱えたメイドさんと、女騎士の双羽(ふたば)隊長が立っていた。


 「室内の全ての電化製品のプラグを抜いて下さい」

 双羽隊長が淡々と命令する。

 隊長の横には、水の塊が浮いていた。


 確かに一晩中掃除して汚れてるんだろうけど、部屋まで押し掛けて、オレを丸洗いする気かよ。


 「あの、優一さん……電源……」

 メイドさんの声でようやく気付いた。

 オレに命令してたのか。


 てか、電源関係なくね?


 「は? いや、何で?」

 「通電した状態では故障する(おそ)れがあります。私は構いませんが、貴方は困るのでは?」

 「は? いや、いやいやいや、故障って、なっ何する気だよ?」

 「部屋を丸洗いします」

 双羽隊長が冷たい声で答えた。


 廊下、トイレ、洗面所、風呂、玄関、階段、台所、居間。

 あれ全部、双羽隊長の丸洗い魔法かよ。



 「壊しても構いませんね?」

 「いや、いやいやいやいや、待て、待て待て待て、まだ、まだだ、まだダメだ!」

 マウスをぐりぐり動かしてスリープを解除、ブラウザを閉じてパソコンをシャットダウンする。

 焦っているせいか、湯沸かしポットを抜く時に、まだ電源を切っていないモニタまで抜いてしまった。


 落ちつけオレ!


 シャットダウン待ちの間に学習机のゲーム機群のタコ足と薄型テレビのプラグを抜いた。


 エアコンのリモコンはどこだ?

 捨てた? いや、さすがにそれは……

 あった! 


 リモコンは本棚の中、DVDの上で埃を被っていた。だが、電池が切れているのか、全く反応しない。


 「クソッ!」

 学習机によじ登って直接、壁の天井付近にあるプラグを引っこ抜いた。


 電気……後は……電気……プラグ……電気……蛍光灯だ。


 紐を引いて灯を消すと、部屋は真っ暗になった。

 廊下の灯で、二人のシルエットがくっきりする。


 ボリッ、ビリリッ。


 双羽(ふたば)隊長が、メイドさんの持つ段ボール箱の蓋を破り取る。斜めに細く裂けた紙片を手に、双羽隊長が何かブツブツ言うと、紙片の先が明るくなった。


 隊長は、その光る段ボール片を無造作にオレの部屋へ投げ込んだ。

 段ボール片は、灯を消した部屋にモニタの光くらいの明るさをもたらした。


 「天井のプラグも抜いて下さい」

 双羽隊長の口調は、言葉こそ丁寧だったが、どこまでも冷たい「命令」だった。

 言外に「さっさとしろよ、ヒキニート」と言われているような威圧感と「殺すぞ、コラ」と恫喝されたかのような恐怖を感じた。


 同じ国の魔女なのに、メイドさんとは大違いだ。


 殺されない内に、学習机付属のキャラ椅子を蛍光灯の下に持って行く。

 光る段ボール片を拾って、ジャージのウェストに挟んだ。

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【関連】 「汚屋敷の兄妹
賢治と真穂視点の話で「汚屋敷の跡取り」と全く同じシーンがあります。

▼用語などはシリーズ共通設定のページをご参照ください。
野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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