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汚屋敷の跡取り  作者: 髙津 央
◆印歴2213年12月28日

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30/87

30.夜明け

 【12月28日午前6時現在……床可視率48%、堆積層なし 棚類未整理】


 箱から出していたフィギュアは、全て埃焼(ホコリや)けして、取り返しのつかないダメージを受けている。出さなかった物は、塗料がブリスターと癒着して、取り出せなくなっていた。


 棚に入りきらず、平積みで天井まで積み上がったエロゲタワーをチョップで崩す。

 特典目当てで買ったもののなんとなくやる気がせず、未プレイの作品もあったが、なんだかどうでもよくなって、ゴミ袋に投入した。


 オクに出すの面倒だし、デジカメ持ってねーし、街まで売りに行くのも面倒だし、車の免許も身分証もねーし、買取査定なんか呼んだらメイドさんにバレるし。


 そもそもオレ、身分証って保険証しかなくね?

 誰の扶養なんだ? ジジイ? オヤジ?


 食中毒らしきものには何度もなっているが、医者に掛かる程ではなかったし、そもそもこの地区には病院がない。


 最寄りの病院は、山を三つ超えた先の他地区だ。

 虫歯以外特にないし、保険証すら見たことがなかった。


 窓際のフィギュアも、机の上やディスプレイの上に鎮座するオレのヨメたちも、全部まとめてゴミ袋に入れて庭に積んだ。


 夜は明けたが、空は曇ってぼんやりとしか明るくならなかった。



 雪を被った田畑と農道。

 このクソ田舎に不釣り合いな外人の集団が見えた。


 先頭に賢治(けんじ)真穂(まほ)

 その後ろに三つ子の政治(まさはる)経済(つねずみ)が並んで続き、大男の三枝(さえぐさ)、少し遅れて宗教(むねのり)、メイドさん、最後尾を女騎士の双羽(ふたば)隊長と(あい)が歩いていた。


 九人中六人が他所者っつーか、外人と外人顔の集団。


 地元民の賢治、真穂、藍以外は、普段着なのに垢ぬけていてお洒落な格好。

 メイドさんは完全に別世界。

 朝から長葱や白菜の収穫に勤しむジジババが、野良仕事の手を止めて、遠慮会釈のない目で物珍しげにジロジロ見ている。


 (ナマ)で外人を見るのは初めて。田舎者丸出しだな。


 このクソ田舎の家には塀も生垣もない。

 家の周囲は、自分ちの田んぼと畑。

 隣の家まで数十メートル離れている。


 用水路や道路で敷地が区切られているだけなので、かなり遠くまで見通しがきく。

 家の向かいの畑、これもウチの畑だが、その三枚向こうの用水路を渡った先の畑のババアが何か言ったのか、一行の足が止まった。



 風に乗って会話の断片は流れてくるが、内容まではわからない。

 ババアが畑から出て一行に加わり、列が動き出した。

 後から後から、ぞろぞろと雪に埋もれた畑のジジババが、農作業をさぼってついてくる。


 何を始める気だ? 


 二十人近い集団が、ウチの敷地内に入ってきた。

 山端家は豪農だから、庭も広い。これだけの人数が集まり、ゴミの山があってもまだまだ余裕だ。


 「あれま。ホンに、ゆうちゃん」

 「お前、生きとったんがね。今までどこ居らったじゃ?」

 「今ぁ何してメシにしとるげな?」

 「おっ母と一緒で神隠しに遭うたかと、心配しとったがね」

 「嫁ぇもろたじゃ? 子ぉは何人げな?」


 ジジババの矢継ぎ早の質問にフリーズするオレ。

 完徹で頭が半分寝てたらしい。


 あのババアは、オレを見つけて、賢治と真穂に聞いてたんだ。

 で、こいつら、オレを確認しに来たんだ……!

 完全に判断を誤った!

 さっさと部屋に戻ってりゃよかった……


 「ゆうちゃん、これ、全部一人で出したのか?」

 「いや、お……おう。まぁな」

 ツネちゃんの質問で呪縛が解けたように口が動いた。


 「皆さん、ゴミ焼き、今からでもできそうですけど、見物して行かれますか?」

 マー君が、腹に響くバリトン声で、集まったジジババに問いかけた。


 この三つ子、顔はそっくりなのに声は全然違うんだな。


 「今からで、どんだけ掛かる?」

 「遅いと、畑もせんならんげな」

 「(ヒマ)掛かるんじゃ、イカンげな」

 近所のジジババが、口々に勝手なことを言う。


 「宗教(むねのり)、どのくらい掛かりそう?」

 「んー? このくらいなら、結界に一分……くらいかな? 焼くのは、十秒も掛からないよ」

 オレが徹夜で築き上げたゴミ山を前に、ロリ声ムネノリ君が軽く言い放った。


 ……十秒? 


 ざわつくジジババに構わず、ムネノリ君は例のキモい杖を引きずりながら、ゴミ山の周囲を歩き始めた。魔法陣を描いている風ではなく、単に何かブツブツ言いながら、杖の石突きを地面に引きずっているだけだ。


 「ゆうちゃん、近所の人と話すのがイヤなんだったら、今の内に……」

 ツネちゃんがこっそり耳打ちして、玄関の方を見た。


 オレは無言で家に入った。


 近所のジジババの視線は、ムネノリ君に釘付けだった。

 オレも、ムネノリ君の爆炎魔法はちょっと気になっていたが、ジジババの詮索を回避することを選んだ。

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【関連】 「汚屋敷の兄妹
賢治と真穂視点の話で「汚屋敷の跡取り」と全く同じシーンがあります。

▼用語などはシリーズ共通設定のページをご参照ください。
野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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