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汚屋敷の跡取り  作者: 髙津 央
◆印歴2213年12月27日

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24.開かずの窓

 メイドさんは黙々と服の仕分けをしていた。


 パンパンにふくらんだ「虫の餌服(エサ)」が二袋。

 三つ目の袋も多分そうだ。

 「洗濯物」の袋は廊下の床に力なく横たわっている。


 靴下の穴も、実は爪で破れたのではなく、虫に食い破られたせいだったのかもしれない。


 「メ……いや、えー……手袋……ご……ゴム手袋って、ない? さっき、藍がしてたみたいな……」

 「予備のゴム手袋ですか? サイズは何でしょう?」

 メイドさんは仕分けの手を止め、オレを見上げて質問を返して来た。


 上目遣い……可愛いイイぃぃい!


 「い、いや、おっ思ったより、てっ手が汚れて、さ、えー……や、いや、さ、サイズ? サイズ……あー、わかんないから、テキトーで」

 「では、少々お待ち下さい」

 メイドさんは、虫の餌が入ったゴミ袋をひとつ抱えて外に出て行った。


 オレはすかさず、メイドさんが座っていた所に足を移した。

 木の床に残ったメイドさんのぬくもりが、足の裏にじんわりと伝わってくる。そこから、ドアの隙間を覗き込んでみた。


 よし! 大丈夫。決定的な所は見えてない。


 本棚とタンスに遮られ、パソコンデスクと学習机の周辺は、ほぼ見えない。

 廊下に背面を向けた本棚の中身は、フィギュアとDVDとゲームソフトとお気に入りの薄い本。

 パソコンデスクと学習机の上や、付属の棚の中身もほぼ同様。ゲーム機本体やケーブル等をまとめて突っ込んである。

 デスクの上にはおっぱいマウスパッド。

 前の壁面にはアレな感じのポスターも貼ってある。


 こんなん、絶対、ピュアなメイドさんには見せられん。

 ……あ、ガムテも頼んどきゃよかった。


 すぐに戻ってきたメイドさんの顔を見た瞬間、ガムテープの件を思い出した。


 また、忘れない内に言っとかないと。


 「いや、あの、さ、つっついででいいんだけど、ガブ……じゃなくって、いや、ガムテープ欲しいんだ。いや、また、下に行く時でいいんだけど、いや、もう、後で、今はなくってよくって、あの……」

 「ガムテープですね。かしこまりました。後程お持ちします」

 オレはメイドさんからピンク色のゴム手袋を受け取り、はめてみた。ちょっと指先が余ったが問題なく使えそうだ。

 自室に戻り、作業を再開する。



 「優一さん、窓を開けずにお掃除なさってるんですね。開けないんですか?」

 「は? いや、それは違うだろ? だって、開けたら寒いし」


 「閉め切ったままですと、換気ができませんし、埃っぽくなりますよ」

 「いや~、それは違うだろ~? 別に今まで平気だったし」

 「そうですか? 普通、お掃除をする時は、窓を開けるのですが……」


 だったら先に言っとけよ。

 まぁ、そう言うちょっとドジっ子な所も可愛いけどな。


 オレは、窓に近付こうとして、固まった。

 窓の前には、学習机と棚が置いてあった。


 棚の上には、中に入りきらなかったエロゲの箱が、天井まで平積みになっている。

 窓の桟にはフィギュアがびっしり。箱のまま飾ってる奴の上に、箱から出した奴も載せてある。

 その数、数十体。


 雨戸も十年以上、開けていない。


 「いや、やっぱ、いいや。今まで窓開けなくても平気だったし、いや、今日、寒いから、その……開けたら風邪引くし……」

 「そうですか。……ゴミを捨てて参ります」

 メイドさんは、三つ目の服袋の口をくくり、両手に一袋ずつ持って階段を下りて行った。



 手袋をはめた手は、ゴワゴワして少し動かしにくくなった。

 だが、Gを素手で掴むリスクを考えると、そんなことは言っていられない。

 とにかく、ほぼ虫の餌状態の汚洋服をひたすらゴミ袋に詰めて詰めて詰めまくった。



 「優一さん、これをどうぞ」

 「いや、え? お……おう」

 戻ってきたメイドさんに、ゴミ袋とマスクとガムテープを一度に渡された。


 ガムテープ側面の粘着部分に埃がびっしり付着している。家のどこかから発掘してきた物なのだろう。

 オレは、ガムテープをドア横の段ボール箱の上に置き、マスクを装着した。


 オレが服を袋詰めにし、メイドさんが部屋から出しつつ、虫食いチェック。

 延々とその作業を繰り返し、45L黒ゴミ袋十三杯分の廃棄と、三杯分の洗濯物を出して、ようやくベッドの上の衣類がなくなった。


 幸い、服の中から二匹目のGが出てくることはなかった。


 布団の上には、虫の死骸と思しき「白くて小さい何か」が無数に散らばっているが、見なかったことにする。

 枕元にも文庫本や薄い本が積んであるが、菓子袋等に埋もれてメイドさんの位置からは見えない筈だ。

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【関連】 「汚屋敷の兄妹
賢治と真穂視点の話で「汚屋敷の跡取り」と全く同じシーンがあります。

▼用語などはシリーズ共通設定のページをご参照ください。
野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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