21.薄い本
【12月27日正午現在……床可視率0%、堆積層の厚さ約96センチ】
……ま、いっか。メイドさんだって腹が減るだろう。
それに、これはチャンスだ。今の内にヤバイ物を片付けよう。
平べったくなった段ボールを箱の形に組む。
……ガムテープがない。
仕方がないので箱をドア横に置き、本を入れることにする。夜までに何とかしてガムテープを調達しよう。
オレが所持する薄い本は、表紙が肉色で、汁だくな物が多かった。
タイトルのキーワードはメイド、調教、ハーレム。
当時旬だった虹エロが大部分。全部、トラの通販。
サイズにこだわりはないから、貧乳から巨乳まで幅広く手に入れているが、奇乳、テメーはダメだ。
頭よりでかい巨乳も認めん。
実際居そうな巨乳だからいいんだろが。でかけりゃいいってもんじゃねーんだよ。
貧乳もロリは圏外。
後から原作で大きくなる恐れがある。サイズ固定じゃないと安心できない。
これからは本物のメイドさんが、オレに奉仕してくれるんだ。
二次元にはもう用はない。
だが、今までありがとう。さようなら。
箱いっぱいのメイド本に心の中で合掌して蓋を閉めた。
永遠のお別れだ。
農作業と、うるせーガキのせいで大学に落ちて、それから滅多に外へ出なくなった。
さっき二十……いや、十九年ぶりに庭に出た。
部屋からもほぼ出なかった。
トイレは深夜に最低限。小はペットボトル。
当初はトイレに行った時に中身を捨てていたが、その内それすらも面倒になり、放置。
夏場は数本ずつドアの隙間から廊下に出しておいた。
ババアは最初の夏こそ片付ける時に文句を言っていたが、すぐに何も言わなくなり、毎年黙って処理するようになった。
ペットボトルはネットで箱買いしたミネラルウォーターとお茶の2Lボトル。コーラやジュースを箱買いしないのは、糖尿病の画像を見たから。
でも、菓子はやめらんなくて、虫歯はある。
当然、歯医者なんて行ってない。こんなクソ田舎の歯医者なんてたかが知れてる。今はババアに鎮痛剤を買いに行かせて凌いでいる。
虫歯も重症だと死ぬらしいが、歯医者に行くくらいなら死んだ方がマシだ。
……歯が凄くツルツルしてる。勿論、虫歯になっていないレアな部分限定だが。
そう言や、さっき、ツネちゃんが歯磨きのことを何か言ってたな。
最後に歯磨きしたの、いつだっけ?
年単位で磨いてない気がする。
洗面所のあれ、嫌味かよ。
オレの分だけ歯ブラシも歯磨き用コップもなしとか。ふざけんな。
……まぁ、歯ブラシ要らないと思われても仕方ねーか。
ハハッ。実際、ずっと使ってなかったし。
歯磨きも、風呂も年単位でご無沙汰だったわ。
メイドさんが背中流してくれるんなら入ってやってもいいけど。
あの女騎士の丸洗い魔法はもうイヤだ。
汚物でも見るような目で見やがって。
NPOに保護された野良犬でも、もっとマシな洗い方されるだろ。
取敢えず、尿ペットのことは後で考えるとして、今はとにかく薄い本を箱詰めすることに専念した。
お陰で、うだうだ考えている間にドア横には薄い本がぎっしり詰まった密林の箱が六個積み上がった。
あんまり高く積むと後でガムテを貼る時に面倒だから、横三、縦二で低く積んである。
まだ、床は見えない。
敢えてメイドさんのアドバイスに逆らっているからだ。
チクチクと心が痛んだが、背に腹は代えられない。
服塚の間やゴミの間から、薄い本はまだまだザクザク出てくる。悪いコトにゴミが邪魔で、だんだん発掘のペースが落ちてきた。
これ以上、薄い本を片付けるにはある程度、他のゴミも片付けなきゃダメか。
だが、ゴミ袋はもうない。
メイドさんが戻ってくるまで待つか?
いや、そんな時間をロスしていられるような状況じゃない。
何とか……何とかしなければ……
閃いた。




