20.最初で最後
「あ、いや……えー、じゃなくって、あー……君の好きな物は何? 食べ物とか」
「ちくわです」
即レス。
日之本帝国の庶民的な伝統食を気に入ってくれたのか。
何たる胸熱。
「いや、ちくわ……じゃなくって、オレ……オレも、ちくわ好きだから、今度奢るわ」
「ありがとうございます。ご主人様のお許しが得られましたら、ご馳走になりますね」
ご主人様の許可なしでは食事もさせてもらえないとか、どんだけ厳しい奴隷制度だよ。
今時ありえねーだろ。
日之本帝国人のオレと結婚すれば帰化できるから、絶対、奴隷身分から解放してあげなくっちゃ。
密林の段ボール箱が出てきた。
中には空缶とティッシュと紙屑、菓子袋、カップ麺の容器等々ゴミがぎっしり詰まっている。
面倒なので箱の蓋を閉じ、そのままゴミ袋に突っ込む。袋の口を閉じようとしたところで盛大に裂けて、段ボールは足下に落ちた。
「いやいや、弱過ぎんだろこのゴミ袋。使えねー。もっと丈夫なのないのかよ」
「探せば出てくるかもしれません。現時点でこの家から発見されたゴミ袋は、条例の変更で使えなくなったこの旧黒袋と、ゴミの種類別になった新しい透明袋です。厚さと強度はいずれも同程度です」
「あ、いや、メイドさんに言ったんじゃ……違っ、あの、袋、破れちゃって、それで……えっと……」
理路整然とマジレスするメイドさんに、しどろもどろになるオレ。
「今回の大掃除では、こちらの黒い袋を使うことになっています」
「いや、何で?」
「お庭でまとめて燃やして、残った灰は現行の透明袋に入れて、クリーンセンターに直接搬入するからです」
あぁ、庭に運ぶ為だけってことか。
つか、この黒い奴は別な意味でも「使えねー」のか。
「いや、それで、黒でいいや。もう一枚。段箱入れただけで破れちゃってさー。メーカーも、もっと何とかしろよなーって、ハハッ」
「本や段ボール箱等、角があって固くて重い物を入れると破れ易いので、後でお渡しする紐で束ねてお出しください」
オレは、黙々と新たなゴミ袋に段ボール箱の中身を移し替えた。
密林のボール箱も、所謂「薄い本」も大量にある。
ページが開かなくなった薄い本は……捨てるしかないのだろう。多分。
だが、この【全てを覆い隠す漆黒の袋】が使えないとなると……詰む。
紐で束ねたりなんかしたら、アレな表紙や裏表紙が丸見えになるじゃないか!
メイドさんがゴミ捨てに行ってくれるってことは、色々とマズいもんが見えちゃうってことだろ。
萌えメイド調教モノとか、絶対、引かれる。
いや、ゴミ捨て以前に、ドア全開になったら部屋が丸見えになって、肉色表紙の薄い本とか、アレなフィギュアとか抱き枕とかも見えて……あぁあぁぁぁぁぁああ! !
足下から発掘された薄い本を手に思考すること、コンマ三秒。
オレは計画を練った。
夜、みんなが寝静まってる内に自分で庭に持って行って、既に置いてあるゴミ山に埋める。
後は翌日、何も知らないムネノリ君の爆炎魔法で、なかったことになる筈だ。
ドアが開かないように、敢えてこの辺のゴミは退けない。
つか、このゴミ袋、ドアの陰に置こう!
それで、メイドさんに見せられん物を密林の箱に詰めて蓋を閉める。
箱は夜まで放置。
よし、これで行こう!
早速、実行するオレ。
中身の詰まったゴミ袋三つをドアの真後ろに置いてバリケードにした。
足下からザクザク発掘される薄い本を段箱に詰める。
あっと言う間にミカン箱サイズの密林箱がいっぱいになった。
取敢えず、ゴミ袋の横に置いてバリケードを補強。
押入れ前の薄い本の塚にも手を付ける。
「ゆうちゃん、お昼ご飯どうする?」
突然の声に固まるオレ。
藍の奴! 何、勝手にオレん家に上がり込んでんだ。
「お母さんが、うどんとカツ丼作ったって。みんなウチで食べるんだけど」
「いや、いらん。分家なんざ行かねー。お前ら勝手に食ってろ」
「あっそ。じゃ、クロエさん、行こ」
「はい」
ふたつの足音が階段を降りて行く。
「いや、ちょっ待っ……」
ドアに近付こうとして、ツルツルしたゴミに足を取られ、派手に転んだ。立ち上がろうともがいている間に、玄関から声が遠ざかって行った。無情。




