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汚屋敷の跡取り  作者: 髙津 央
◆印歴2213年12月27日

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16.論破成功

 「いや、オレそんなコト聞いてねーし。ツネちゃん、オレの質問に答えろよ」


 「洗浄の魔法です。水から一切の不純物を取り除き、加熱して汚れを溶かしこむ魔法です。人体に使用する場合、通常は肌荒れを防ぐ為、塩やハーブ等を先に溶かしこみ、水の純度を下げてから実行します」

 外人女が淡々と説明する。


 「はあ? いや、まほーって……」

 「ムルティフローラ王国は、魔法文明圏の国だから、宗教(むねのり)と彼らは魔法使いなんだよ」

 「まほうひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ……」

 マジで笑いが止まらねー。


 ムネノリ君、魔法使いなのかー。そっかー。

 三十路(みそじ)過ぎて声変わりもまだだし、そりゃDTだよな。

 魔法のひとつやふたつ、よゆーで使えるよねー。


 「なに笑ってんだよ。今、身を(もっ)て体験しただろうが」

 賢治がゴミ袋をゴミ山に追加しながら、吐き捨てるように言い放った。真穂と藍もマスクをして袋詰め作業に戻っている。


 まぁ、確かに水の塊は、物理的にあり得ない動きをした。

 未開人め。ネットもねーくせに。


 「あのね、魔法文明圏の国では所謂(いわゆる)、霊感があるのが普通で、ない人は(ほとん)どいないの。それでね、()えない人は、物質と霊質の内の半分しか視力が働かないから『半視力(はんしりょく)』って呼ばれて、保護の対象なの」


 スゲー。未開の国じゃ、頭お花畑な電波がデフォなのかよ。


 オレはロリ声の説明に背筋が寒くなった。

 「半視力の人の保護用に『一時的に両眼を開く』魔法があるんだけど、ゆうちゃん、このお家の状態、ちゃんと視てみる? そしたら、大掃除で叔母さんがみつか……」

 「いやいやいやいや、いらねーし。その魔法が一時的に霊感を付与する術かどうか、オレには確認のしようがないだろ。幻覚の魔法掛けて『ほーら☆おうちにはオバケがいっぱい☆』とかやられたら、たまったもんじゃねーっつーの」


 これ以上付き合っていられないので、玄関に向かって歩き出す。

 今度は誰も何も言わず、水の塊に妨害されることもなく、すんなり家に入れた。


 論破成功。


 何もない玄関を抜け、磨き上げられた廊下を通り、本やガラクタが各段に積み上がった埃っぽい階段を上り、自室に戻った。



 八畳の自室のドアを閉め、外界との接触を断ち切る。

 これでいつも通りだ。


 あいつら、後でジジイとオヤジにフルボッコにされるがいい。

 オレは優しいから、一応、常識ってもんを教えてやったし、やめるようにも言ってやったからな。


 賢治と真穂は最悪、勘当されるかもな。ざまあwww


 布団に潜り込み、ぬくぬくする。


 非常識な連中に早朝から叩き起こされて眠い。

 眠い筈なのにムカついて眠れない。


 メイドさんの手造りおにぎりと卵焼きは美味かったが、その幸せなひとときで差し引いても、まだ余りあるくらいムカつく。

 やっぱり、もう一言二言苦情を言ってやろう。


 つーか、これ、窃盗じゃね?


 家長代理であるこのオレの許可なしで家の物持ち出して、捨てるって言って、リサイクル屋とかに売り捌いてんじゃね?


 ヤバイ! 駐在さんに通報しなきゃ!


 ベッドから跳ね起きる。

 動悸が激しくなり、頭がガンガンした。


 服塚が崩れ、ベッドから落ちたが、そんな物に構っている暇はない。セーターを拾い上げると急いで身に着け、ドアを開けた。



 メイドさんと目が合った。


 メイドさんは、ノックしようとした姿勢のまま固まっている。

 オレも、間近に見た琥珀色の瞳に魅入られたように固まった。


 「優一さんのお手伝いと、アドバイスをするようにとのご命令で参りました」

 先に我に返ったメイドさんが用件を告げた。


 ムネノリ君め、あんだけ言ってきかせたのに、まだわかんないのかよ。

 メイドさんも、ダメなご主人様を持って大変だよな。

 その点、このオレなら……


 「優一さんが自主的にお掃除なさらない場合、部屋の中身を全て窓から捨てるように命じられています」


 メイドさんに無茶振りするにも限度ってもんがあるだろうが!

 今度は優しくなんて言ってやらん。

 あのロリ声、ガツンと言って泣かしてやる!


 部屋を出ようとするオレの眼前に、黒く艶やかな幕が現れた。

 ツルツルの幕を払いのけようと、右手で掴む。

 黒い幕はゴミ袋だった。

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【関連】 「汚屋敷の兄妹
賢治と真穂視点の話で「汚屋敷の跡取り」と全く同じシーンがあります。

▼用語などはシリーズ共通設定のページをご参照ください。
野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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