表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
汚屋敷の跡取り  作者: 髙津 央
◆印歴2213年12月27日

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/87

13.王子サマと近衛騎士

 いきなり視界が開けた。

 前髪がなくなっている。


 オレの斜め前に回り込んだ大男が、剣を横薙(よこな)ぎにした。

 左サイドの髪がブッツリと切れて、首がスースーする。

 大男がすり足でオレの背後に回り、後頭部が突然、軽くなった。

 剣を振るったらしい。

 刃が触れたかどうかわからんまま、右サイドもバッサリやられた。


 言葉わかんねーにしても空気読めよ。

 オレが論破しようとしてんのに、何やってんだクズ。


 睨みつけてやっても、KYなコイツは剣を一振りして、オレと真穂たちの間に戻った。


 「プッ……! 無理……むりムリむりムリ、これは無理だわあはははははははは!」

 藍が吹き出し、腹を抱えて前のめりに笑いだした。


 まぁなぁ、外人男の間抜けなKYっぷり、箸が転んでも可笑しい年頃の娘には、耐えられんだろう。


 「ちょっと、藍ちゃん、いくら何でも、そんな笑っちゃ悪いよ」

 真穂が笑いを堪えているのか、変顔で藍の脇腹をつついてたしなめる。


 流石オレの妹だ。


 いくらKY外人で言葉がわからなくても、自分が笑われてるコトくらい、わかるだろうからな。キレてぶった斬られでもしたらシャレになんねーし。


 「どうせ明日、街に連れて行くし、この話題、終了な」

 賢治がゴム手袋の手をポンポンと打って締めた。


 お前がまとめんのかよ。


 「宗教(むねのり)、気にせずに喋れよ。お前は何も悪くないんだから」

 「う……うん。あのね、ゆうちゃ……」

 ツネちゃんに促され、ロリ声ムネノリ君が、おずおずと口を開く。


 すかさず遮るオレ。


 「いや、オレは認めてねーし、喋んなよ」

 「ゆうちゃん、いい加減にしないと本当に不敬罪で手打ちにされても知らねーぞ」

 賢治が生意気な口をきいたが、内容が噴飯物(ふんぱんもの)過ぎて鼻水が出た。


 不敬罪で手打ちとか、いつの時代のどこの国のハナシだよ。


 「ゆうちゃん、宗教(むねのり)はムルティフローラ王国の王族で、その二人は護衛の近衛騎士なんだ。あんまり暴言吐きまくってると、笑い事じゃすまなくなるから……」

 ツネちゃんが大真面目な顔で言った。



 ギャグの追い打ちで、オレの腹筋は崩壊寸前だ。

 「は? お、王族? ウヘハッお前ら、デュフフッ、ヤベ、フフ王子サマなの?」

 「王族なのは宗教(むねのり)だけだ」


 「は? 三つ子の兄弟なのに? おかしいだろ。そんな国名、聞いたこともないし、厨二病の痛い妄想に外人雇ってまでいちいち付き合うなよ。アホの子が調子に乗るだろうが」


 ツネちゃんが、溜息を吐いてムネノリ君たちの方を見た。

 ムネノリ君が、訳のわからん国籍不明の言語で何か言い、外人女が頷く。


 何、オレの目の前で内緒話してんだよ。


 「昨日の昼、分家に集まった時に、説明してくれてたんだけどな」

 「ゆうちゃん、私が呼んでも『うるせぇ! ブスッ!』って言って出てこなかったし」

 賢治と真穂が、オレに非難がましい目を向ける。


 昼は起こすなってババアにも言ってあるだろうが。

 何で本家の長男が、分家の都合なんかに合わせてやんなきゃなんねーんだよ。

 常識的に考えろよ。カス共が。

 何年も寄りつかなかった外孫の分際で、論外だろ。

 てめーらの都合を押し付けんな。


 「今はムルティフローラ王国を知らなくても、ゆうちゃんはパソコンの大先生だから、パパッと調べて、すーぐにわかるよねぇ?」

 「いや……え、お……おう」

 笑いの壺から脱出した藍に、オレは片手を挙げて応えた。


 ムルティフローラ……か。暗記モノは得意だ。

 忘れないように心の中で何度も復唱する。


 ムルティフローラ、ムルティフローラ、ムルティフローラ……


 「じゃあこの話は終わり。宗教、ゆうちゃんに話があるんだろ?」

 「うん。あのね、このお家、大掃除したらね、ゆうちゃんのお母さん見つかるよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【関連】 「汚屋敷の兄妹
賢治と真穂視点の話で「汚屋敷の跡取り」と全く同じシーンがあります。

▼用語などはシリーズ共通設定のページをご参照ください。
野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ